第623話 22枚目:3日目朝

 どうやら宿光石を、食べるもしくは取り込むことで、非実体の状態ながら目に見える状態になるらしい、と、崖の中腹に通じる通路を直径2mにまで拡大して、その欠片を毛玉にあげて思った事だ。

 何故そう思ったかって? 洞窟の中が半透明な毛玉で溢れかえっているからだよ。すごいな。こんなにいたのか。ちなみに何故「増えている」ではないかと言うと、半透明だった毛玉が、しばらく眺めていると色が薄くなり、完全に透明……つまり、全く見えない状態になったからだ。

 【鑑定】スキルは目視しなければ発動できない。見えないものの情報を知ることは出来ない訳だ。恐らくスピンさんは、「一定範囲内の物の情報を一気に知る事が出来る」みたいなスキルを使ったのだろう。


「まぁ、そうこうしている間に朝になった訳ですが」


 たっぷり非常食は持ってきているとは言え、【大食】が種族スキルになっている私としてはかなり物足りない。可食スキルも全部戻したし、ハンマーとかき氷機があるから、最悪石や木でも食べられるが……それは最終手段にしたい。

 非常食の1つである、ソフィーナさんが作ってくれたカロリー激高のクッキーで朝ご飯にして、朝陽がさしているのを確認してから洞窟を出る。そのまま、洞窟の入り口からずれた山頂へと移動。


「とりあえず、何事も無ければ今日は1日、谷底に光を叩き込むことに終始しましょうか」


 サバイバルって何だっけ……状態になっているが、まぁ、仕方ないな。




「おはよーございます、ちぃ姫さん!」

「朝から頑張ってるわねー」

「はい、おはようございます。スピンさん、「空の魔女」さん」


 朝日とは言え晴れた状態の太陽ではある、と、巨大なレンズを作って光の柱を叩き込み、周りに灯りを浮かべてその強度をブーストしていると、「空の魔女」さんの箒に乗せてもらう形で、スピンさんがやってきた。

 ステータスも回復スキルも既に本来の状態に戻っているので、このまま日暮れまで維持する事が出来るだろう。昨日は午後一杯だけだったが、今日は日中全部を使って谷底に光を届けるつもりだ。

 むしろ回復系スキルを上げる為には、【並列詠唱】を使ってレンズを2つにするぐらいはした方が良いのかもしれない……と思ったあたりで、着地したスピンさんが固まってる事に気付いた。うん?


「……ちっ、ちぃ姫さん……!」

「はい」

「そっ、そのっ……! 見るからにもふもふな生き物は、一体どこにいたんですかっ!?」

「……はい?」


 驚愕! みたいな顔で言われても、私に心当たりがある訳が……いや、あった。あの洞窟の中の半透明な毛玉だ。いやでも、私の事はスルーしてうろうろし続けていたし、流石にくっついてこられたら分かると思うんだが?


「えーっと……猫ぐらいの、形が分からないぐらいの長毛な生き物でしょうか?」

「はい! そのお背中にくっ付いてるやつです!」

「それなら多分、昨日スピンさんが洞窟で気づいた相手ですね。【鑑定☆☆】したところ、種族と名前のところが空欄になっていて、状態に「非実体化」っていうのが出ていました」

「って事は魔物種族ですね!?」

「ちなみに私、背中に何かが居るような感覚は全くしないのですが」

「えっ。でも思いっきり引っ付いてますよ?」


 とは言え、大技の最中で手が離せないしなー……と思っていたら、「はーい、ちょっと失礼するわー?」と言いながら「空の魔女」さんが後ろに回ってくれた。そのまま、多分毛玉? を取ってくれたのだろう。


「あらー? 普通に触れるわねー」

「もふもふ度合いは如何ですか「空の魔女」さんっ!」

「もふもふというよりごわごわねー。まずこの子、洗ってあげた方が良いんじゃないかしらー?」


 私の後ろでそんな会話が聞こえる。あれぇ? 非実体化とは何だったのか。もしくは洞窟の外に出た事で何かトリガーを引いたのか?

 問題なく触れているらしく、また毛玉自体も大人しいようで、きゃっきゃと楽しそうな声が後ろから聞こえる。うーん、私も参加したい。でも谷底に光を叩き込むのを中断する訳にも行かないし。

 せめてもうちょっといれば……と思って、もしかしたら詰め込まれてたんじゃないのか、と思う程の数が洞窟には居た事を思い出した。


「洞窟にわさわさいる彼らも、外に出したら触れるようになるんでしょうか」

「わさわさいるんですか!?」

「えぇ、触れられるなら足の踏み場もない程に」

「そこまで!?」


 非実体化してたから、動くのに問題は無かったけど。あぁそうだ、と、そのついでに連絡事項がある事を思い出した。


「そうでした。「宿光石」を採取するついでに谷に面した方の入り口を拡張しておきましたので、昨日よりは通りやすいと思います」

「ありがとうございますちぃ姫さん! それでは「空の魔女」さん、早速わさわさしているもふもふを確認しに行きましょう!」

「助かるわー。それじゃあこの子は、ちぃ姫さんの背中に戻してと……ちょっと様子を見てくるわねー」


 すちゃっ、と敬礼もどきをして、「空の魔女」さんと共にスピンさんは崖下へと姿を消した。この分だと、今晩か昼休憩辺りにでも斜面になっている側へ開けた穴も幅を広げておいた方が良いかも知れない。

 ……が。背中に戻されても、何かが引っ付いてる感じはしないし、見えないんだよなぁ。

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