第512話 18枚目:『王』は述べる
既に大分話が通じない気配がしている訳だが、と、軽くメニューを操作してから改めてその何者かに目を向ける。相変わらずこちらに、不機嫌な色を乗せた視線を強く向けてきているが、流石に近寄ってこようとはしないようだ。
まぁでも、一応? 確認は必要だな? って事で、いつでも殴れるように神器はしっかりと構えて、口を開く。
「異世界から来た、というのは確かなんですね。侵略者の自覚は無いようですけど」
「そりゃそうだよ。こんなバカみたいに原始的な世界に? わざわざ
「まぁ私達からすれば、あなたの方が余程狂気的なんですけど」
「だぁから、狂ってる奴は皆そう言うんだよ」
オーケー、まだキレるには早い。落ち着こう。それこそ狂ってる相手に正面から真っ当に怒った所で疲れるだけだ。
「自分から来ることは有り得ない、という事は、誰かに命じられたか、呼ばれたかって事で良いでしょうか?」
「そーだよ。必死に助けを求める声が聞こえたからわざわざ来てやったんだよ」
「来たのはあなた1人ですか?」
「それがあいつら、結構声だけはでかかったみたいでさぁ。他にもいるんだよな。この世界無駄にでかいから、
「なるほど。でも名前が出ないって事は把握してないんですね」
「はーぁあ? してるし?
今なんか発音に違和感があったな。
って事は、たぶん特徴か、それとも名前か称号なのか。うーん、まぁ確かに、ここまでの事を考えると妥当というか、腑に落ちる感じではあるけど。
しかし他に出てきたのも碌な単語じゃないな。まぁ全力で拒否する事を迷わなくていいけどさ。何なの、そんなのが普通にいられる世界って。終末か?
「……1人1つ大陸を担当すると、1人足りないのでは?」
「これだから原始的な世界は。そんなん“呑”むが控えてるに決まってんじゃんか。
「うむ。何というか、見事に完全無欠な侵略じゃな」
おっとー。私も思ったけど「第二候補」、それはまだちょっと早いぞー。お喋りだから意外と情報を引き出せてたのに。私も思ったけど(2回目)。
元々不機嫌だったその顔に、今度は明確な怒りが混ざった。煽り耐性ひっくいな。
「侵略とか、そんな物騒な言葉で
「どう考えても侵略なんですよねぇ。それのどの辺が救いになるのかがさっぱり分からないもので」
「あぁああもう!! これだから狂人の相手は嫌なんだよ、いくら言葉を尽くしたところで通じねぇ!!」
「狂人は皆そう言うんですよね。先ほど、あなたが言った通り」
「クカカ、確かに言っておったのう。おや? その言葉の主にも当てはまらんか?」
こうなってしまったらいっそ怒らせた方が喋ってくれるかも、と、にっこり笑って煽る方向に切り替えると、楽しそうな顔と声で「第二候補」もノってきた。
ははは、変わった色の目を見開いてるのはあれ、怒ってるのか? 怒ってるんだろうなぁ。顔色が赤くなったりはしないみたいだけど。
「っっっこの狂人どもが!!」
そして、とうとう明確に怒鳴った。身体の両脇で握りこぶしを作り、ぷるぷると全身を震わせながら、一気に吐き出すように連ねられていった言葉の、内容は。
「自意識ってものがあるから何もかもがダメになっていくんだろうが!? 個ってものがある事が全ての不幸の源だと何故気付かない!? 違うから全ての問題は起こるんだって分からないのか!? 生きるから育つから考えるから感じるから争いが起こるんだよ!! そもそも産まれる事自体が間違いなんだ!! 命があるって事は純然たる悲劇なんだ!! だったらせめて“染”めきってその主である
ぜい、はあ、と、見た目通りに体力は無さそうなその「元凶」の……自分を「主」と言っていた事で確定した、「モンスターの『王』」の言葉。
それを聞けば、なるほど。確かに『王』では、あるらしい。
「なるほど、なるほど。どおりで、話が通じないと思いました。ここまで見事に、完全無欠な……
「全くじゃの。……全く理解出来ない、は、こちらの台詞じゃ」
あのゲテモノピエロも大概だったが……あれはまぁ、自分のやってる事を「趣味」と胸を張って言いつつ、それ以外の努力と選択肢を排除する覚悟と、同じく自分の努力と選択肢を排除される覚悟は持っていた。
でも「これ」は、違う。根本的に、文字通り異世界の。そもそも接触したこと自体が誤り、とすら言える、理解出来ないし、理解してはいけない類の思想で、能力で、行動の。
徹底的に、跡形残さず、一切の影響を排除するべき……絶対悪だ。
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