第505話 18枚目:巨人は咆える
「ははは、いやぁ流石ティフォン様の神器。私がギリとは言え死なない程度に加減していても、一瞬で塔の影すら見えなくなる火力とは……けほっ」
「お嬢!?」
「姫さん!?」
気のせいか、若干満足気というか、ドヤァ……みたいな空気を出している神器を一旦下ろす。うん。流石にキツい。多分ステータス表示があったら、スタミナも魔力も空になって、体力も瀕死レベルになってるんじゃないかな?
自分の姿を確認してみると、あぁうん、予想通りドレスがあちこち焦げている。火事に巻き込まれたか、炎を浴びたようなありさまだ。実際その通りなんだろうけど。たぶんこれ、髪もところどころ縮れてるんじゃないかな。……動かしたら痛いと思ったら、そこそこ火傷も出来てるじゃないか。
まぁこの火力なら仕方ないか……と、未だに収まらない炎の海、というか壁を見ながら息を吐いていると、ふんわりと温かい感覚があった。お?
「確かに凄まじい火力じゃろうが、無茶するのう……」
「まぁ必要経費でしょう。回復ありがとうございます「第二候補」」
「クカカ。しかし、大して回復しとらん気がするのは気のせいかの?」
「最大値が高いのは間違いありませんからねぇ……」
回復はして貰いながら、自分のインベントリからもポーションを取り出して飲む。ちなみにフリアドの回復ポーションは絶対値オンリーだ。まぁ、割合だと種族によって効果が激変するからね。探せばあるかも知れないけど、秘薬扱いだろう。
体力、魔力、スタミナと、ルディルが作った現状最高品質のポーションを立て続けに飲んでようやく一息つく。ドレスもこれ、直して貰わないとなぁ。焦げたドレスは、ちょっと。
しかし炎が収まらないな。もう内部には何の影も見えないんだけど、本当に根っこに相当する何かがあったか、あるいは今も続いている再形成を片っ端から焼いているんだろうか?
――ギィイイィイイイイイガアァアァアアアアアァァアアアアアアアアッッ!!
そんな事を思いつつ、モンスターもぱったりと途絶えた為にある意味のんびりと回復しながら様子を見ていると、巨人型ナマモノが咆哮を上げた。おや、と思って振り返ると……んん?
「……気のせいか、レイドボスの体力バーが2種類あるように見えるんですけど」
「儂にもそう見えるのう……。確かあれは、【鑑定】系列の効果じゃったよな?」
「そう聞いています。必要な情報を、誰にでも見える形で提示する【鑑定】と他のスキルの、複合アビリティだったかと」
「という事は……もしや、隠蔽されておったのが、ようやくの痛打で剥がれた、とかかのう?」
「……片方はさっきまで見えていた、巨人型ナマモノ自体のものですから……あり得ますねぇ……」
うん。なんか広報というか宣伝というか、そういう感じのスキルとの組み合わせで、そういうアビリティが生えたらしいんだ。結構条件が厳しいみたいだし、条件の情報自体が有料だから、私は知らないけど。
で。元々見えていた体力バーは、地が緑色で、ダメージ分が赤色だった。別に違和感は無いな? 1本だけではあったけど、頭の上に表示されるそれはとても長かったし、減り方もあれだったから、まぁ、違和感は無かったんだ。
でも、今。巨人型ナマモノの、胴体の真ん中……人間でいう鳩尾の、背中側あたり、かな? そこに、地が青色で、ダメージ分と思われる場所が黒色な、全く別のバーが出てるんだよ。それも、結構長いのが、5本も積み重なっている。
「広域チャットもざわついてますね……」
「とは言え、手は止めておらんがの。動きを止めたのを幸いと袋叩きじゃ」
さてその青色のバーだが、上から3本が真っ黒になり、4本目が3分の2ほど残っている。その4本目も、見えるペースでガリガリ削れて黒くなっていってるんだけど。
それでも丸1本以上残ってるんだよなぁ……。と思っている間に、巨人型ナマモノの体力バーが真っ赤になった。つまり、倒せたって事だ。とりあえず、見える限りの情報的には。
ボロボロと端から崩れるようにして壊れつつ、叫び声を上げながら穴の底へ落ちていく巨人型ナマモノ。その姿が見えなくなり、叫び声も聞こえなくなったあたりで、空中に残っていた、緑色だった真っ赤な体力バーが消える。
「……青い方は普通に残ってるんですけど」
「そしてあと1本と半分ほどが残っておるのう」
あの青いバーさえ見えていなければ、
その目の前で、視線の束の先で、音もなく青いバーが、ごっそりと3分の1ほど減った。4本目がほとんど真っ黒になる。……そして、10秒ほどが経って気付く。
本来はここで違和感に気付く筈だったのだろう。ズン、と、大穴の周囲に、大きな振動が響いた。それはまるで歩くように、近付いてくるように、一定間隔で、段々と音の大きさと振動の強さを上げていく。
「知らなければ、ここでそこそこ絶望してたでしょうね」
「そういう事じゃの。全く、意地が悪いわい」
ガッ、と。大穴の縁を、大きさに似合いの巨大な手が掴んだ。さほど間を置かずに、もう片方も。ぬぅ、と姿を現した、先程と何も変わらない巨人型ナマモノは、今度は最初から胸像ぐらいの高さで止まった。
誰かがさっきと同じアビリティを使ったのだろう。その頭の上に、長さも全く同じ、綺麗に緑色のバーが出現する。
――――ガァァアアアアァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!
まるで戦闘開始時の焼き回し。そんな事は言わなくても分かっていると、
それを見ながら、ようやく自分が8割がた回復したのを確認して、息を吐く。さっきと違って、雑魚モンスターはいないからだ。
「さて、どうしましょうか「第二候補」」
「流石に骨が折れそうじゃし、指示待ちで良いんではなかろうかの?」
「そうですね。どうせこの調子だと、あの青い方が所謂「本体」でしょうし」
「あの炎が焼き尽くすのが早いか、こちらが討伐するのが早いかは分からんがのー」
本当に面倒な相手だな。実際の所、ここまで厄介になったのはあのゲテモノピエロによる小細工あっての事だろうけど。
全く、蓄積量が莫大なリソースが脅威な相手に、大規模なリソース供給手段を与えるんじゃないっていうんだ。
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