第490話 18枚目:シンキングタイム

「エルル」

「何だお嬢。まさか神器があるからって最前線に行くつもりじゃないだろうな」

「……まぁそれもありましたけど、流石に連携の邪魔になるでしょうし。あれ自体は普通に攻撃が通るんですよね? 魔法とか」

「ジリ貧で大分全体に疲れが溜まってるけどな。……おいまさかお嬢」

「疲れが溜まってるのは良くないですよね? それに、調査が進んでいないのは手数が足りないからなのでは?」

「…………」


 と、言う訳で。

 前衛、「第二候補」。後衛、私。人数たった2人の、しかし総合火力としてはさっきまでより大きいという色々おかしい組み合わせで、しばらく巨人型ナマモノの相手をする事になった。ジリ貧は良く無いよねー?

 まぁやる事はいつかの百足もどき、もとい「眠らぬ故に起きぬ存在」と一緒だ。「第二候補」の好きに戦闘させて、私がその補助をする。【王権領域】だけではなく、存分にバフを積み込んだ「第二候補」は非常に調子がよさそうだった。


「クカカカカ! 実際調子が良いのう! ま、体積を減らさなければならん、となれば、儂だけではちょっとばかし手が足りんかったかも知れんが」

「仕込み刀でのアビリティ込みな斬撃と大規模魔法を連打できる癖に良く言います。別にいいんですよ? いつでもこっちに任せてくれて。神器で殴り壊すのがある意味一番確実ですからね?」

「クカカ! 流石にお主の護衛の目もあるし、遠慮させてもらおうかの!」


 右肩を軸に、頭を上にして柄を握り、担いだ形の神器を揺らしてそう声をかけるが、どうやら前衛を譲ってくれる様子は無いようだ。っち。調査に多くの人手を投入できるようになった現状、そっちで何か壊すべきものが見つかったら回して貰おう。

 この部屋は巨人型ナマモノが十分に暴れられるだけの広さと高さがあり、やや長方形をしているらしい。その一番奥の壁を背にして巨人型ナマモノが居て、それを正面から「第二候補」と私が迎撃している。

 壁と天井は緑色の光を放つ宝石のような物がはまった生物的な何かで覆われ、露出している床は黒曜石のような透明感のある黒。そして私は見ていないが、巨人型ナマモノの反対側の壁も生物的な何かが無く、そこにある階段で上の階と行き来が出来る様だ。


「この部屋に入ってからは何も見つからなかったと聞いてますし、どうやら中心壁内部で共有されている情報的に、地上にある建造物もモンスターが出てくるだけみたいですしね……」


 だから、何かあるとするなら此処の上の階なのだが、どうやらこの長方形の大部屋、なんと、地下154階なのだそうだ。中途半端だな、と思ったが、「穴」を「掘り進めている」という都合上、半端な数になってもおかしくないのだろう。

 恐らくこの階層数が一定に達すると「穴」が貫通する、という事なのだろう。それが例えば200階なら、もうほとんど猶予が無い。300階でも半分を越えている。

 でも逆に言えば、進入不可能である以上に、ここより下には何もない。だから、あるとすれば、此処の……「穴」のどこか、なのだ。


「考え事かの「第三候補」」

「復帰手段、とやらの推測ですよ。たぶんここまでの道のりの何処かにあるんだと思いますが」

「じゃが見つかっておらんのじゃろう?」

「まだそういう連絡は来ていませんね」


 ズバババババッッ!! といっそ気持ちよく巨人型ナマモノを切り刻みながら「第二候補」が話しかけてくるのに応えつつ、【無音詠唱】で範囲が狭い代わりに威力の高い炎魔法を叩き込み、取り巻きと本体の一部を諸共消し炭へと変える。取り巻きを放置すると、それはそれで面倒な事になるからね。

 ちなみに「第一候補」は現在、中心壁内部の中心部、つまり、此処の地上部に居る様だ。まぁ、何とかしようと思ったらその位置になるか。もちろん、今も儀式的な意味でどうにかしようとしてくれているのだろう。


「のう「第三候補」。少し思ったのじゃが」

「何でしょう「第二候補」。割と手詰まりなので意見は大体歓迎しますよ」

「ほれ、儂の所に来るまでに、随分と派手な破壊活動をしたじゃろう?」

「まぁ、しましたね。どこかの誰かさんがモンスターを枯らしたせいで、そうでもしないと潜れませんでしたから」

「すまんすまん。で、じゃな。それを此処でやったら、どうなるじゃろうな? 少なくとも、地上との行き来は楽になると思うんじゃが」

「……一応指揮担当の方々に相談してみます」


 私も人の事は言えないけど、割と「第二候補」も核心を突いた意見を出してくれるからな。これが年の功か。実際の中身は分からないけど。

 という訳なので、さっそくカバーさんに連絡だ。さっき挨拶したからウィスパーもメールも使える。やっぱり便利だなこれ。

 かくかくしかじか、と「第二候補」の提案だと前置きしたうえで意見を伝える。どうかなー。何か見つかってたら却下されそうだ。


『……なるほど。確かに、現状探す場所が広すぎて間に合っていませんし、破壊も試してみましたが、随分と頑丈だったので……しかし「破壊不可」と出ていない以上は壊せる筈ですね』

『始祖曰く、十分に攻撃力が上がったら空間ごと殴り壊せるんだそうですよ。流石神器です』

『それは凄まじいですね。……それでは、捜索範囲を狭める、という意味でも、一部場所を指定してお願いしても良いでしょうか? 説得は私が行い、後衛についてはこちらから人員を調整、追加しますので』

『分かりました』


 という事になった。まぁせっかく神器があって、壊せば壊すほど火力が上がるって言う特性があるからね。

 ……何の説得だって? そりゃもちろん、また私がメインかつ最前線で動く事について、エルルとサーニャの、だよ。

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