第375話 16枚目:拠点整備

 コトニワにおいて私が最初に貰った「庭」の区画は、当然だがそのままそこから拡大していった32の区画の中心になった。だから、とりあえず物を突っ込んでおくだけの倉庫とかを除いた大事な物が集中している。

 もちろんそこには住民も含まれているから、本当に、ようやくだ。ボックス様も眷属のナビさんことナヴィティリアさんも相変わらず最高だったけど、流石にちょっとハードルが高かったんじゃないかなこれ。

 ……いや、まぁ、うん。フリアドでの神様の扱いと、それに比例する神器の扱いを考えれば妥当っていうのは分かるんだけどさ。というか、コトニワと同じペースでぽんぽん色んなものをくれまくるボックス様に「そんなに貰って大丈夫なんですかボックス様!!」って言いたくなった事も、正直、何度もあるし。


「そもそもの性格が優しくて気遣い屋さんで最高だっていうのに最高さが留まるところを知らないんですけど」

「何回聞いても全力過ぎるんだよなぁ……」


 さて神器「異空の箱庭」を現実に拡張する方法だが、まず平らで何もない地面が「異空の箱庭」1個につき1㎡必要だ。その中央に内部に環境を作った「異空の箱庭」を置いて、ボックス様こと“神秘にして福音”の神に対する祝詞をあげればいいらしい。

 ただし流石に神器であり奇跡なので、「異空の箱庭」を現実に拡張すると、そこからリアル1週間(内部時間1ヶ月)の間は「異空の箱庭」を現実に拡張する事が出来なくなる。また、現実に拡張した「異空の箱庭」は消滅してしまう。

 とはいえ、貰える数に上限があるタイプの神器ではないし、拡張する事が出来なくても内部をいじる事は出来るのだからやっぱりボックス様は最高なんだよな。何このデメリットの皆無さ。引き換えにステータスの一定期間ダウンとかあってもおかしくないんじゃないか?


「地形を創造方向で書き換えておいてデメリットが神器の消滅だけとか相変わらずボックス様は最高なんですから。その裏でボックス様がマイナスを引っ被ってなければいいんですが、実際そうでも言いませんからねあの神様」

「いや仮にも神器を利用しての奇跡なんだよな? ……あぁ、そうか、小規模とは言え世界創造と同属性の奇跡が発動してるって事なのか」

「そうなんですよ。しかも私達にそれを貸し与えて好きに構成させてからそれを現実にしてくれるっていうんですから最高以外の何物でもないでしょう? 規模に上限がついてるとは言え通常の生き物に創造の力が扱えてデメリット無いんですよ?」

「……過去に信徒関連で何かあったのかと思うぐらいに全力なんだが」


 ……過去云々はまぁボックス様というかコトニワのメインストーリー考えればなぁ……。と、ちょっと視線を逸らしておく。

 さてコトニワというかボックス様の過去についてはともかく。色々建てたい施設はあるが島の大きさはそこまででもない、というかぐるりと外周全部が断崖絶壁なのでこのままだとそもそも必要な港が建てられない、という事で、一応「第一候補」に連絡を入れた上で「異空の箱庭」を使おうという事だ。

 使う「異空の箱庭」は皆と相談したうえで5つ。3個と2個の2列に「異空の箱庭」を連結させて、3個の真ん中が私の「庭」の中央区画(引継ぎ)、1個飛び出してる部分がちょっとした丘のある草原、その反対側の2個が岩場と砂浜の海岸、残り1個が多数の果樹を含む深めの森となっている。


「箱庭同士を連結させた場合は、連結させた数と形に応じて平らで何もない地面を増やす必要がある、と。まぁそれぐらいなら問題ありませんが」

「で、この面積が何倍になるんだ?」

「「異空の箱庭」1個の内部に作れる空間が、多分2m四方を1ブロックとして縦横7列ずつぐらいですから……この5個でこの島が大体倍の大きさになりますね」

「島が倍に」

「倍に」


 ……この島が現在大体30m×40mで1200㎡ぐらいの筈だから、14m×14mで196㎡の5個分で980㎡。ボックス様の配慮と気遣いで1個分の広さがキリよく200㎡になってるとジャスト1000㎡。うん。ほぼ倍だな。

 なおブロックの数はコトニワの時の基準で、内部の広さは【ミニチュア化】で設置した地形や木なんかからの推定だ。たぶん間違ってないと思う。何気に「第一候補」もそこそこの数を貰ってたみたいで一緒に検証したからね。

 ちなみに海側に使う箱庭の素材は人魚族の人達の所で泳ぐ練習がてら採取した分で、草原は先日のプレイヤーイベント中にちょろっと、果樹メインの森は『妖精郷』の周囲で訓練兼お散歩してる時に手に入れたものだ。


「まぁ「第一候補」にその辺相談しましたし、利便性と地形の事を考えて西南西の崖際に設置すれば大丈夫だろうって事で、苔を剥がして整地したんですし。何気にこの苔が貴重品だったというのは別の話ですし」

「最後ちょっと待て。俺はそれ聞いてないぞ」

「……私の【植物鑑定】が反応した途端ルディルとカバーさんが持っていったので言う暇なくって」

「お嬢の特殊スキルが反応した上にあの2人がか!?」


 私が思った以上に意気投合してるんだよね、あの2人。趣味:研究と趣味:解析で相性は良さそうだなとは思ってたけど。あれかな。何気にカバーさんも『本の虫』って大きな組織で四大軍師とか呼ばれてストレス溜まってたのかな。そこから解放されてはっちゃけてるとか?

 ……ここいらの島に【地質判定】と【鉱物鑑定】が反応したのは「第一候補」へそっとメールするに留めておこう。それはそれで大騒ぎになりそうだから。

 その辺はともかく、「異空の箱庭」の展開だ。岩を削って平らにした何もない空間の真ん中に、連結させた「異空の箱庭」を置いてその場を離れる。十分距離を空けた場所で、ぱん、と柏手を一拍。起こる奇跡の規模からすれば格段に短い祝詞を奏上した。


「[その内に神秘の業を抱え秘め

 形代たる形で区切られし箱庭の

 軛にして護りの壁を取り払い

 其れを成す神の力の一欠片を

 願いへの福音として此処に顕し給え]」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る