第360話 16枚目:合流2人

 ルシルが加入した所で時間となったので、私はログアウトした。まぁ4人(人間はいないけど)とも住民なので、模擬戦は問題なく続けられるだろう。基本エルルとサーニャにお願いしているといったって、別にルチルやルシルと交代したっていいんだし。

 枯れ枝の先にくすんだ色の葉を数枚残した街路樹の下を通って登下校。そろそろ期末試験だからまたゲーム時間を抑えなきゃいけないか。あー、イベントに集中したい。

 学生の本文は勉強だし、ここで手を抜いてテストの点数が悪ければその後が大変じゃ済まないから頑張るけどさー……。とか思いながら日常をこなし、水曜日夜のログインだ。


「おはようございます」

「ごしゅじん、おはようございますー!」

「おはようお嬢」


 テントから出ると、ルチルとエルルから応答があった。サーニャとルシルは、と周りを見ると、どうやらルシルが模擬戦相手を、サーニャが審判をやっているようだ。

 ……うーん、ルシルは大分手加減してるけど挑戦者は防戦一方か。そして鉈だけを警戒してたら、あ、蹴りが入った。兎さんの脚力を舐めたら死んじゃうぞ? しかし綺麗に放物線を描いて吹っ飛んだな。

 そして、私がログアウトしている寝ている間に新たな加入者は現れなかったようだ。まぁせめて魔物種族プレイヤーぐらいには並ばないと無理があるけど。


『アウセラー・クローネ』うちのクランへの加入状況はどんな感じですか?」

「ほぼ無いな。他の場所でも何人か縁のある使徒生まれが通ったみたいだけど、それ以外は全滅」

「なるほど。まぁ敷居は敢えて高くしましたからね」


 納得の結果になっているようだ。そもそもクランを結成した理由って言うのが勧誘回避だからな。あんまり人数を増やす気が最初から無いのもあるし。

 それでも挑戦者が絶えないって辺り、現時点で既に人気度合いがすごい事になっているようだ。……まぁネームバリューと戦力考えたら妥当、か? メインメンバー全員が掲示板上での通り名を持ってる第一陣だし。

 それに他の有名クランもこの場に加入者を募りに来てるし、私達の所に落ちてもそちらなら合格するというケースは多いだろう。……あぁ、それで模擬戦の様子を見学している召喚者プレイヤーが結構な数居るのか。


「あー、良かったぁ。ちょうどお目見えした所かなぁ?」

「ようやく解放される……ここまで長かった……」

「ちょっとぉ、どういう意味ぃ?」

「そのまんまだよもうお目付け役と言う名の実験被害者は嫌だ!」

「そんなぁ。アタシのお陰でそれだけ耐性を付けられたっていうのに酷いなぁ」

「せめて同意を取ってからにしてくれ! それ以前に不意打ちは止めてくれ! というか戦闘中に後ろから毒を投げつけるのは本当に死ぬ!!」

「死んでないから大丈夫じゃないかぁ」

「大丈夫じゃ!! ない!!!」


 ルシルとサーニャにも挨拶をして定位置であるテーブルについたところで、そんな会話が順番待ちの列の方から聞こえて来た。うん? 声に聞き覚えは無いけど、何か引っ掛かる会話だな?

 視線を列の方に向けてしばらく探すと、そう間も無く声の主たちは見つかった。一見すると、親子か? と思うほどに身長差の開いた男女だ。というか、女の子の方は本当に小さいな。ルチルや今の私といい勝負じゃないか?


「やだなぁ。アタシだってちゃんと死なない程度の加減と見極めはしてるよぉ?」


 と言う女の子は茶色と黒の斑な髪の毛を短い三つ編みにしていて、黒くて丸い目は大きく、等身と身長が両方低いのに加えてその発声が若干舌足らずなのもあり、全体に幼い印象だ。

 その背中には本人と比較すると大きなリュックを背負い、腰だけでなく腕にも足にもベルトを回してポーチを着けているので、ちゃんと立っているのに荷物に埋まっている感じがする。

 ただ、ビニール長靴風のブーツも、よく使い込まれた手袋も、荷物にほとんど埋まっている、たぶん分厚い布の服も、土や泥には見えない色が、絵の具を適当にぶちまけたような感じで染まっている。


「嘘だ! 本気で死にかけた時に聞いたんだからな! 「あっ、うっかりレベル1個上の投げちゃったぁ」って言ってたのを!!」


 対する男性の方は、身長としてはこの世界フリアドの平均よりやや高めになるのだろう。角刈りにされた髪は白にも見える灰色に黒が散った色で、毛質が実に堅そうだ。その黄色の目は細いが、糸目と言うにはぱっちりしている。

 頭以外の全身を金属鎧で覆い、背中にその身体が隠れる程大きな盾と、そこから突き出している槍を背負っている。いっそ見ない程ド正当な重戦士か騎士と言う感じだ。

 そしてそれだけの重装備をしていながら、歩く姿に軸がぶれた様子は無い。その鎧の表面に細かい傷が無数についている事から考えても、実力者に属する方だろう。


「……。もしや、ルディルとルドルですか?」

「やぁ、マスター。ようやく会えたねぇ」

「初めてお目にかかります、我が主」

「2人共、やっほ」

「ルディル先輩お久しぶりですー! ルドルは……相変わらず大丈夫じゃないですかー?」

「まず真っ先に心配するならこの問題児を押し付けないでくれルチル先輩!」

「僕だと耐性が付くより先に死んじゃいますからねー。ルドルが適任ですー」

「にべもない正論っ!!」


 女の子……ルディスルートの方は、へらりと手を上げて。男性……ルドレイルの方は、立ったままだが右手で左胸を叩いて。それぞれ合流を喜んでくれた。まぁルドルの方はすぐ崩れ落ちそうになってたんだけど。

 うーん。この2人も割と予想外な成長をしてたみたいだなぁ。ルディルからマッドな気配を感じるのは割と想像余裕だけど、ルドルが苦労人になっちゃってるか、これは。


「何だろう。初対面なのに重装備の方とはうまい酒が飲めそうな気がする」


 ははは。たぶんその勘は間違ってないと思うよエルル。……うん。後悔は一切してないけど反省は出来るだけするようにするから。

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