第303話 14枚目:連絡手段

 相手が分かった所でアザラシ達はリリースする訳だが、忙しいのか何なのか掲示板で呼びかけてみても反応のない「第五候補」へどうやって接触するかとう問題を解決する為に何かできないか、と、ちょっと考えてみた。


「とりあえず私のテイム状態は継続するとして。途中で襲われる危険については、私が思いっきり防御と回避のバフを積めば、たぶん帰るだけなら問題ないでしょう」

『で、あるな。実際の話し合いや細かい事は掲示板で行えば良い、と割り切るのであれば、伝えるべきは「掲示板に顔を出すように」で済むであるし』

「……問題は、そのたった一言をどうやって持って帰って貰って、「第五候補」にまで伝えるかですが」

『手紙やメモの類を持って行ってもらうという訳にはいかぬからな。その身に文字を刻んだ何かを着けて貰おうにも、通るのは極寒の海の中だ。時に氷をすり抜けながら進むとなると、よほど耐久度が無ければ持たぬか』

「で、ちょうどいい物があると思ったら、下手したらエルル達の時より怯えてませんかこれ」

『……まぁ、より身近な脅威ではあるであろうからな』


 なおちょうどいい物とは、あのビニールもどきこと加護を受けたクラーケン一族の長の皮(喧嘩で千切れた切れ端を四角く縫い合わせたもの・色々便利)だ。限界を越えるとアザラシも泡吹いて気絶するんだね。

 なお他の案としては、サーニャから毛を剃って文章を身体に書く、エルルから毛を染めて文章を書く、ネレイちゃんからは凍った肉の塊に文字を刻んで運んでもらう、というのが上がった。


「この毛の撥水性能あってこそ氷の海を泳げるんですから、そこに手を入れて性能が落ちると命の危機があります。私の補助では補えない部分で。本体に直接というのが確実なのは分かるのですが」

『肉も、悪い案ではないのだがな。魚しか食えないという訳では無いようであるから、途中で食べられたり齧られたりして、文章が欠けたりそもそもなくなってしまう可能性が否定できぬ』

「かと言って、氷の塊だと途中で落っことしたりうっかりガリッとやってしまいそうですし……。「第四候補」、何か案はありませんか?」

「うーん、山への襲撃が根本的にどうにか出来そうだから協力はしたいんだけどなー。雪だるまっていうかゴーレムはあれ、俺の制御範囲外に出たらその場で形が無くなるんだよなー。文字通り「手駒」ってやつだから、手の届かないとこは無理!」


 なおこれらの状況や意見は『本の虫』の人達が見ている鍵スレッドにも書き込んでいる。書き込み係は「第一候補」だ。早いんだよね、タイピングスピードが。

 その鍵スレッドにも、耳にタグを取り付けるのはどうかとか、潜水服のような物を着て貰うのはどうだろうとか、色々と意見は出ている。ただ現場に『本の虫』の人達がまだ到着していないので、そうやって上げられる案は殆どが実現不可能だ。

 さてどうしたものかな、と、再び「あ、これやっぱり食われるのでは? 食われるんだな」という悟り気味の空気になりつつあるアザラシ達に、【格闘】スキルの訓練でぶっ壊した氷から出て来た魚を食べさせる。いや、最後の晩餐じゃ無いし。


『む』

「?」


 早く群れに戻したいようなもっと時間をかけてしっかり説得したいような、ちょっと微妙な心境で悟り心地のアザラシ達を見ていると、「第一候補」とネレイちゃんが同時に反応を見せた。って事は、神様関係か。

 そしてこの場で神様関係というと“雪衣の冷山にして白雪”の神だろうから、ちょっと待ってみよう。


『……ふむ。「第三候補」』

「なんでしょう」

『確か道中にて襲撃してきた中に、時折魔力を持った動物が居たな?』

「えぇ、居ましたね。場所はマップにメモしてありますが」

『うむ。倒したその動物の躯そのものであるな。できれば傷が少なく原形がとどめている方が望ましいとの事だ。見分けは付くか?』

「……エルル?」

「思ったより襲撃の回数が多かったから、途中から解体するより先に進むことを優先しようってなったからな。そこから先なら致命傷だけで解体してない。場所が分かるなら、傷の形とか見たら何処で倒したやつかは分かると思うぞ」


 何に使うのかは分からないが、多分あの女神様からの要請なのだろう。広い場所があった方がいいって事で、「第四候補」が作った大きなかまくら、というか氷のブロック製の建物へと移動する。

 そこで私がオートマップにピン止めした野生動物の【鑑定☆】情報から、魔力を持っていた相手の位置情報を読み上げ、エルルとサーニャがインベントリから凍った動物を取り出して、魔力持ちだった奴を選び出した。

 いや、極北付近にも意外と生き物って居るもんだ。主に白熊だったけど、トナカイってそういえば寒い所の動物だもんな。まぁ角の生えた兎とか小型のダチョウみたいな鳥とかファンタジーだなぁって生き物も居るんだけど。


「意外と居ましたね?」

『で、あるな』

「そりゃ、あれだけ襲われてればこれぐらいにはなるだろ。ってか、元々の生存競争に巻き込まれただけっていうのもそこそこあっただろうし」


 体感の割合としてはモンスターが6、普通の動物が3、魔力持ちが1だったのだが、それでもエンカウントの回数が回数だったので結構遭遇していたらしい。1体1体がでかいっていうのもあるだろうけど。

 で、その中から泳げる奴ってことで、白熊と小型のダチョウみたいな鳥から状態のいいやつを選んで神殿に運ぶ。サーニャ曰く、人間の子供ぐらいのこの鳥は、こう見えて潜水が得意らしい。


「番を決めたら生涯変えないから、永遠の愛を象徴する鳥として結婚の贈り物に良く生け捕りにしてたからな!」

「それ、環境を変えても大丈夫なんです?」

「寒い所でも過ごせるってだけで余程暑い地域じゃなきゃ大丈夫だ!」


 まぁ現実がどうかは考えないようにしよう。この世界フリアドはゲームだけど、その辺も何かやたらリアルだって話は忘れる方向で。縁起としてとてもいいのは確かなんだし。

 さて神殿に元魔力持ちの動物を運び込んでみると、そこで「第一候補」とネレイちゃんが何か準備し始めた。うん? 魔法陣かな? 真ん中にあるのが死体だからちょっと闇の魔術っぽい気配があるな。

 まぁ床に魔法陣を書いてるのはさらっさらのパウダースノーだから、血なまぐささはほとんどないんだけど。……で、結局神様には何て言われたの?


『“雪衣の冷山にして白雪”の神によれば、元々この大陸では、先祖の霊が動物の姿を取って一族を守護する任についていたようだ。その守るべき一族の姿が消えてしまい、伝承も薄れてしまったが故に、その先祖の霊もこの世に留まる事が難しくなったようであるが』

「……もしや、あの魔力持ちの動物というのは」

『その、元器である可能性が高いであるな。もっとも、そのままでは器であって守護者ではない故、生け捕りにしてもほかの獣と変わらぬようだが。――逆に言えば、空の器があれば、そこに先祖の霊を降ろして守護の任に戻すことも可能、という事である』


 環境は北国だが、伝承はハワイだ。あくまで元ネタとは言え、確かに居たな、家族あるいは1人1人を守る、動物の姿をした守護神が。というかそもそもハワイの神話では、ほとんどの神様に何がしかの姿を取って地上に現れる、化身の話が伝わってるんだけど。

 で、その元ネタがこう解釈されてる訳か。なるほどね? 守護神であれば確かに知能も高そうだし、普通の動物と最低でも喧嘩できるぐらいには強いだろう。

 ――つまり、伝言を上手く伝えられる可能性が高い、って訳だ。

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