第268話 13枚目:寒さ対策

 しばらく海岸沿いを進んでみたが、どうもそれっぽいものが見つからないまま寒さが厳しくなってきたので一旦降りる事になった。空中より地表の方がまだマシじゃないかって判断で。一面雪のザ・北国だけどね。

 と言う訳で、地上に降りたらディックさん指導の下で風と寒さをしのぐ拠点作りだ。手順としてはとても簡単、雪をかき集めて水をぶっかける。以上。


「うわすごい。水をかけた所が一瞬で氷漬け状態に」

「飛沫を浴びないように気を付けろ、氷の塊が張り付くって事だからな」


 雪を集めるのはエルル(竜姿)が担当し、私とネレイちゃんがディックさんに指示を貰って水をかけていくことで、あっという間に氷でできたかまくらのような物が出来上がった。

 カバーさんとパストダウンさんを中に入れて、ルチルとフライリーさんも待機してもらう。ただし生き物の体温だけでは温まるまで時間がかかってしまうので、寒さが平気組(私、エルル、ネレイちゃん、オープさん、ディックさん)は探し物だ。

 ディックさんによれば、それは「雪の下の地面に埋まっている黒くて丸い石」らしいのだが……これ、雪の深さだけで何メートルあるの?


「海岸線ならそこまで深さは無かったんだがなぁ……」

『全員ちょっと離れてろ、吹っ飛ばす。多少地面が抉れても仕方ないな?』

「まぁしょうがねぇ」


 という事で、エルルが(加減して)ブレスで雪ごと地面を掘り返し、クレーターと化した場所を探してみると……あった。大きさはテニスボールぐらいからバスケットボールぐらいまで、結構ごろごろしてるな。

 表面は割とツルツルしてるんだが、形としてはデコボコしている。艶のある黒色は結構綺麗だな。ちゃんと加工したら宝石って言っても通用しそう。けど、石の割に密度が高いって言うか、結構重い?

 ……ディックさんとオープさんで、一番小さいのを2つずつ運んでいるところを見ると、かなり重いようだ。インベントリに入れないのは、重量オーバーになるのを避ける為だろうか。


「まぁ私には関係ない事ですが。小さい方が調節効きますかね?」

「応、頼む。この状況だといくつあっても足りねぇからなぁ」

「珍しくもないのに貴重扱いなのは、この重さがネックって事か」


 という事で、私とエルルがそれぞれ10個ずつぐらいインベントリに入れた上で、たまたま持っていた空の木箱に入れて持って帰る事に。そんなに大きくない木箱なんだけど……うん、中身の重さで箱が壊れそう。

 重力でも発しているのだろうかという感じの重量を持つその石を氷のかまくらに持って帰ると、ディックさんはそれを、かまくらの中央に月見団子みたいな形で積み上げた。

 そして魔法で一番上に着火。あ、やっぱ燃料系だったんだ?


「これは「山火石(やまのひいし)」っつってな。寒さと白さを司る空の神様と対になる、暑さと黒さを司る山の神様がくれたもんだって言われてんだ」

『ほう。この大陸特有の神であるか?』

「そうなるなぁ。ま、儂もそこまで詳しい事を語れる訳じゃねぇから、詳しくはこっちの仲間(渡鯨族)に聞いてくれや」


 すぐ火がついてよく燃える割に、熱が伝わる速度は遅いらしい。その燃え方として一番近いのは、蝋燭だろうか? 芯とか一切無しだけど。

 しかしその割に結構な熱を放出するらしく、数分もすればすぐにかまくらの中は暖かくなってきた。へー、これはすごい。暖かい所で止まって暑くならないから、かまくらが溶ける心配もないな。

 そしてようやくカバーさんとパストダウンさんが復帰したようだ。


「寒さによる行動制限は覚悟していましたが、ここまで冷感も強いというのは想定外でした」

「現状最新の防寒着だけでは不足というのも分かりましたからね。これは、事前準備を練り直した方がよさそうです」

「とりあえず耐性上昇ポーションの量産を緊急依頼として出しましょう」


 ……復帰したら本当に早いんだよな、話と仕事が。早速テキパキとメールを打っているようだ。いや、もしかしたら掲示板かな?

 まぁレースを行うんなら、せめて最低限ゴールに辿り着く準備は必要だからね。たぶんこのままだったら、大多数が途中で脱落すると判断したんだろう。もちろん寒さで。動けなくなる、というのは深刻な問題だ。


「けどなぁ……海岸線には見覚えがあんだよ、これが。だから、場所は間違ってなかった筈なんだがなぁ……」

「まぁ当初から大分ズレた場所ではあるから……なんかそっち2人忙しそうだし、空から海岸線を逆にたどってみるか?」

「悪りぃな、軍人殿。手間をかける」

「こんな形の予想外はどうしようもないだろ、気にすんな」


 ディックさんとエルルはそんな話し合いをしている。ルチルとフライリーさん? ネレイちゃんと一緒にあったかいねーって和んでるよ。平和だ。

 しかし、今の話の流れからすると……ある筈の渡鯨族の港町が、「無くなってる」可能性が高い、って事、だな?

 いやまぁ百年以上あの嵐のせいでほぼ一切の交流が断絶してたけどさ。一体その間に、こっちの大陸に何が起きてたんだろうね?

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