第255話 13枚目:避難誘導
造船所を飛び出してから10分後。
「しかし一体何故こんなことに」
『我も想定外である。しかし助かった。カーリャは耐える事は得意でも、その状態で移動するのは不得手であるからな』
「あれで移動出来たら逆に驚きですよ」
左腕で「第一候補」を抱え、右腕をカーリャさんの腰に回してホールドした状態で、私は再び避難所となっている造船所に戻って来た。
カーリャさん、「第一候補」を抱えた状態で、まさかの地面に半分根を張って耐えてたから、引き抜く事になったんだよね。迎えに行ったら達観した表情で「第一候補」をお願いされたよ。どうやらこのまま耐えるつもりだったらしい。
そうなるんだ……と種族間認識ギャップに驚きつつ戻って来た避難所は、また少し人数が増えたようだ。今もまだ避難は続いているらしい。
「あぁ、お帰りなさい「第三候補」さん。いらっしゃいませ「第一候補」さん」
『うむ? あぁ、『本の虫』の。現状はどうなっている?』
「そもそもの始まりからして唐突でしたし、どちらかというと避難誘導とその補助に手を回しているのでまだ原因究明には至ってません」
「で、あなた経由で直接神様にお伺いを立てるしかないか、となったところで
『なるほど、把握した』
スピンさんから受け取ったタオルで水気をふき取りながら説明する。おや? カーリャさんちょっと髪の毛から艶が無くなってる? ……ってそうか。【人化】してるけどこのヒト霊体系とは言え基本が植物だった。海近くの暴風雨なんだから、混ざった海水を浴びちゃったんだな。
さてそんなカーリャさんにお世話されつつ「第一候補」は移動していった。早速お伺いを立てる儀式をしに行ったのだろう。それなら私はどうするべきか。とりあえずはエルルを探しに行きたいところだけど、スピンさんに聞いたところ、誰も行方を知らないのだそうだ。
大声で呼んでみたら来てくれる可能性も、無くは無いが……この暴風雨だ。まともに叫ぶ時点から難しい。かと言ってその辺をうろちょろしてると余計に怒られそうだしなぁ……。とか思っていると、服の裾が小さく引っ張られた。
「どうしました?」
そこに居たのは渡鯨族の子供だ。ロリな私より拳2つ分ほど身長が低い。ていうか泣きそうなんだけど、親はどこ行った?
……なるほど。避難してる途中にその親とはぐれちゃったと。近くに居たこの子の知り合いらしい人の話では、この避難所の中には居ないとの事だった。となれば別の避難所にいるか、もしくはまだ外に居るかか。
「スピンさん。避難してきた人たちの、安否確認掲示板的な連絡場所ってあります?」
「まだそこまで手が回ってませんね。行方不明者をピックアップするのがやっとです。召喚者のメールとウィスパーは生きているので、『本の虫』から依頼を出して、名簿を作成中です」
という事らしかった。私? 他の魔物種族プレイヤーとなら連絡は付くけど、大体全員『本の虫』が半プライベートエリアにしてた空き家群に居たから、そこから一番近いこの造船所に集まってるんだよね。
となるとその方面で力になることは出来ないな。名簿は今作ってる途中だし、メールで送った方が確実で安全だ。行方不明者を捜索しようにも、そもそもその名簿が作っている途中である。
嵐の原因究明にはまだしばらくかかりそうだし、しばらくは暇かな、これは。
「えーと、ところで「第三候補」さん」
「何でしょう」
「どうやら数名、街の中で緊急避難と言うか、避難所まで辿り着けずに立ち往生しているようです。一緒に動けなくなっている召喚者からヘルプコールが来たのですが……すみません、迎えに行っていただいて大丈夫でしょうか」
と思っていたらお仕事が来たよ。……あぁうん、そうか。まだ【○○古代魔法】の使い手は少なくて、魔力で言ったら私はステータスの暴力だからな。【水古代魔法】と【風古代魔法】での防御があれば、多少は安全に移動できるか。
ここに居てもやれることは無いし、まだカバーさんから連絡がこないっていうか姿を見ない所を見ると、あの人もたぶんその立ち往生組に居るんじゃないだろうか。もしくは、部屋ごと吹き飛ばされた組。
……それに、外をうろうろしていればエルルに見つけて貰える確率も上がるだろう。ちゃんとやる事をやっていたら雷も落ちないか、緩めて貰える可能性がある。
「なるほど、いいですよ。誘導先は、最寄りの避難所で良いですか?」
「はい、お願いします。こちらから可能な限りルートなどの支援は致しますので」
そうして私は、三度暴風雨の中へと飛び出すのだった。
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