第203話 12枚目:大転換

 港に戻った時にはあのはた迷惑な騒ぎも収まっていて、平和な物だった。奥歯に何かの筋が挟まってしまった様な気持ち悪さは残るものの、直接被害があった訳ではないから動きようがない。

 超重量物を定位置に置いて、さて残りの時間をどうしたものかと考える。もう一回外洋に出るにはちょっと時間が足りないけど、このままログアウトするのも時間が勿体ない気がするんだよね。

 かと言って沿岸で釣りをしていると、ルウ達に周りの人が反応してそこそこ騒ぎになるからなぁ。今日の分の日替わり図鑑対象はもう釣ったし、釣りを続ける必要は無いっちゃ無い。


(まだ時間は残ってるのが勿体ない気はするけど、まぁ、後に回したって思えばいいか)


 ログイン回数制限自体は既に撤廃されている。だから、無理に3時間目一杯ログインし続ける必要は無い。後でログインできるかどうかはまた別の話だが、それならそこでやる予定だった勉強を前倒しでやってもいいだろう。

 ゲームは細かく制限が付けられてなんなら見張られるまであるのに、勉強ならそれこそ1日20時間やってても怒られないどころか褒められるからな。どっちも睡眠時間や姿勢が固定される事での健康的な危険度は変わらないのに、不思議だ。

 学生の本分は勉強です? そうだね。


「うん? お嬢、寝るの?」

『外洋に出るぐらいしかやる事が無いんですが、それだと途中で寝そうなんですよね』

「あぁ、港の周りだと色々あるからな……。でもそれなら船の上で寝かせて貰えばいいだろ?」


 察したエルルはこの後も続けて外洋に出る船に乗るらしい。まぁ超重量物が資源だと分かったから、少しでも集めておきたいのは分かる。まして「対巨獣槍」のサイズは穂先だけでも超重量物判定だ。正直、いくらあっても足りないのだろう。

 ……エルルの言葉に少し考える。確かに平日はずっとそうしていたし、それなら週末の休憩で似たようにしても一緒だろうか。

 ログアウトする寝るまでは【釣り】で超重量物を釣り上げる事になるんだし、その分資源が増えるのならそれはそれでオッケーなのか。まぁ船の上でログアウトした時はエルルに「あとはよろしく」な状態なんだけど。


「……つか、この間からの騒ぎでなんかヤな予感するから、お嬢近くに居て」

『まぁそれならそうしましょうか。後よろしく』

「だから口調」


 と思ったらなんか本音が零れたよエルル。確かに私もずっと何か引っ掛かってる感じがしてるけど。プレイヤーが主導するイベントはともかく不穏はノーサンキューなんだけどなー!




 という訳で予定通りの時間にログアウト。船の上なので、私が街に来てからログアウトに使っている籠(『本の虫』提供)はエルルが管理している筈だ。

 とりあえず休憩を兼ねてのんびりとご飯。そこから勉強タイム。ログインしたい気持ちを抑え込んで、集中、集中!

 暗記物対策として、テスト範囲の重要そうな文章を教科書から書き取るという作業を3回繰り返す頃にはいい時間になっていたので、そのまま休憩からの晩ご飯その他もろもろを済ませる。


「はー、ログイン時間減るの辛い」


 しかしちゃんと勉強というか知識を頭に詰め込む作業をしておかないと、困るのは後の時間軸の自分だ。流石に未来の自分頑張れと丸投げすることは出来ない。今の自分にやられたらブチ切れる自信があるから。

 とはいえ、それはそれこれはこれ。今日やるべし! と過去の自分が決めた分をやり切ったのだから、楽しむ権利が今の自分にはある。

 という事でー、内部時間1日後かな? いざ、ログイン!


「キュ?(ん?)」


 おかしいな。私は籠の中に入って布をかぶる事でお布団に入った状態になりログアウトした筈だ。つまりふかふかクッションと柔らかハンカチに挟まれている筈で、間違ってもこんな真っ暗で重力を強く感じる状態ではない。

 テントと違って空間がロックされる訳ではない為、移動させようと思えばできる筈だ。とはいえあの籠に入ってログアウトする寝るのはエルルが『本の虫』の人達に相談したからなので、エルルが自分で動かすとは考え辛い。

 ……んだけどこの現状の感じ、完全にエルルの服(鎧)の中に入ってるいつもの格好なんだよね。つーかエルルが割と激しく動いてる感じもするし、そもそも結構な戦闘音がしてるな?


「キュ(どういうことなの)」


 私がログアウトしてる間に何があった?

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