第201話 12枚目:見えない目的

 一応ウィスパーを飛ばしてカバーさんに相談した所、流石に影響が大きそうなので海洋関係の護衛として『本の虫』に引き取って貰えることが決まった。流石に大陸の端から端まで移動することもある私がずっと面倒を見るのは無理だからね。

 進化して魔物種族になる可能性のあるルウは別だが、逆に言えばルウ以外はそこまで思い入れを持っていない。手元にとどめるとしても、ルウ及びルウと同じく限界突破個体の可能性がある13mサイズの個体だけだろう。

 ……まぁ、これからも大陸同士の間を行ったり来たりする可能性が高く、なんなら大陸周辺の小島の調査とかもするだろう『本の虫』にとって、海洋戦力が増えるのは諸手を挙げて歓迎できる事だ。


『悪用の類をまず考えなくていいので安心はできるんですよね……』


 そんな事があったものの、イベントは折り返してまだ続いている。私も相変わらず期末試験前の平日なので、どうにか日替わりの特殊ポップだけは逃がさないように釣りをするので精一杯だ。

 まぁそれだけの釣り行動でも超重量物は釣れるんだけど。船の上でログアウトさせてもらう前提なら沖合にも出れるし。

 あぁそうだ、私の予想は大当たりで、魚たちの集団逃走こと入れ食いタイムが終わった後の場所で釣りをすると、笑えるほどの超重量物が釣れた。


『インベントリが一杯になりかけたのは初めてです』

「滅茶苦茶釣れたな……」


 いやだって、普通は魚と魚型モンスターがほぼ同量、それを合わせたのと同じくらいの無機物で、超重量物はあっても1割ぐらいだったんだよ。

 それが入れ食いタイム後だと、魚と、魚の倍ぐらいの魚型モンスターと、魚型モンスターの倍近い無機物がかかって、無機物の半分以上が超重量物。ちなみにこれ【釣り】の「回数」の話ね。

 もちろんカバーさん始め『本の虫』の人達は大喜び。エルルがふと零した「除草剤ならともかく」という言葉も助言として活用し、そろそろ海藻にまみれていた方の正体不明物は本格的な解析に入れそうなのだとか。


「何が出てくるんだろうな?」

『情報ではなく、特殊な素材の可能性もありますからね』

「あー……あの嵐に巻き込まれても壊れなかった何かとかか」

『もしくは先人の試作品とかも含まれるかもしれません』


 とはいえイベント自体は2週間であり、既に折り返しを過ぎている。そして公式から発表されているイベントのバックストーリーは、あくまで「嵐の原因の調査」だ。

 流石に『本の虫』の人達も、あの嵐をどうにかするのはイベント後に召喚者プレイヤー有志によって、あるいはそれこそが8月イベントだろうという見解を見せている。

 レイドボスを用意するのだって大変な筈だし、そもそも召喚者プレイヤーの実力不足(魔物種族を抜きとする)は6月イベントで運営も分かっている筈だ。流石にバックストーリーにも出た以上、神々もそこは分かって無理をしない、と、思う。


『……。まぁ、人魚族にしろ渡鯨族にしろ、彼らが奉じる海の神は現代でも健在なようですし……』


 私達(竜族)や鬼族を始めとした各魔物種族のように、神が封じられているせいで、バックストーリーにちょいちょい出てくる神々の会議において意見を述べる事すらできない訳ではないだろう。

 レイドボスを退けられなかった場合、一番被害を被るのは渡鯨族だ。だからその辺、ちゃんとしてる……と、いいな。

 あくまでも、どこまでも、推測でしかないんだけど。




 そしてイベント終盤、最後の土日に突入した。ちょっと警戒度高めにログインした訳だが、今のところ大丈夫、かな……? 流石にもう期末考査が目の前になっている状態で3回フルログインは厳しいからね。やっても大丈夫なようにこれまで頑張ってきたとも言うが、最後の自信付け的なアレがあるし。

 うん。日替わりの図鑑対象も普通の魚(『本の虫』調べ)だし、あと埋まってないのは特殊な餌を使わないと釣れない相手だな。普通の魚はルウ達テイムしたマーレイ(異世界ウツボ)が捕って来てくれることもあるので、図鑑は大部分が埋まっている。

 この分だと油断しなければ図鑑のコンプリートは出来そうだ。最終日まで油断は出来ないのも確かだけど。


『だからここで更に爆弾を投下されるのはあまり歓迎できない訳なんですよね』

「いや、この類の揉め事はいつでも歓迎できないだろ」


 二度あることは三度ある、というべきか。いつかの「謎の素材独占反対運動」みたいなことが今日も発生したようだ。

 ……まぁ『本の虫』の人達のまとめによると、私が寝ているログアウトしている間や沖に出ている間に、似たような騒ぎがほぼ毎日発生していたらしいけど。

 というか、あのフライング気味な「チート野郎」という暴言。あれも証言を集めてみると、結構な人数が言われていたらしいことが判明しているし。


『しつこい割に小物と言うか、行動を起こすくせに度胸が足りないというか、面倒以外に言いようがない』

「お嬢、口調」


 しかし解せないのは本当にしつこいって事だ。『本の虫』の人達のまとめを最初期から見直したところ、今までのイベントで、何かの妨害工策かというような騒ぎがここまで頻発したことが無いのは分かっている。

 渡鯨族の人達に話を聞くに、その核となっている召喚者は大体一緒だとの事。それが入れ替わりながら騒ぎを起こしているようだ。まぁ既に半分ぐらいは牢に放り込まれて前科者になってるんだけど。

 ここで確定情報なのは、この騒ぎをわざと起こしているのは、召喚者プレイヤーによって構成された、特定の組織だって言う事だ。


『一体何がしたいんでしょうね? 百害あって一利なしだと思うのですが』

「さぁなぁ。騒ぎを起こして、その内1つでも要求が通れば儲けもの、とか?」

『組織の利益にはなるでしょうが、それで前科者になるというのは、あまりに個人が負うリスクが大きい気がするんですよね』

「まぁそれもそうか。本当の所は本人に聞くしかないし、それも素直に喋るとは思えないが」


 行動原理が意味不明過ぎて、不気味さすら感じるのは穿ち過ぎだろうか。

 ……本当に、努力を嘲笑い理解しない、ただのおバカ集団だったらいいんだけど。

 いや良くは無い。良くは無いけど、対処が無視しつつ通報して問答無用で牢にぶち込んでもらえば済むから、それ以上の何かよりはマシかな、と。

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