第141話 10枚目:戦闘?模様

「先程まで最前線で使っていたものをブラシと人手が必要な洗剤とするなら、こちらは流し込んだら後は放置するだけで良い燻煙剤に近いでしょうか」

「なるほどのー。後の面倒が無いなら派手に使ってしまえという訳じゃな」

「はい。まぁ煙ではなく液体なんですけどね。どうしても一部手順が分からない部分があったのですが、それは「第三候補」様のお陰で解決しましたし」

「ふむ、分からない部分とな?」

「えぇ。薬草団子を作った後にそれを特定の素材を溶かした液体に漬け込む事で原液が完成する、という、なかなか回りくどいレシピでして」

「それはまた難解じゃのう。……今、原液と言ったかの?」

「もちろんあの通路には最高濃度である原液を流し込んでいます。漬け込む薬草団子は再利用が可能でしたから」


 「第二候補」に説明しているカバーさんだが、その内容は何気に殺意が高い。原液って確か、薄めて使う事が前提のものに使う表現だった筈なんだけどなぁ。絶対に許さないという心を感じる。

 で、そういう話を聞きながら私が何をしているかと言うと、あの地下室から上がって来た建物で、どんどん運び込まれてくる洗浄剤……今の話で行くと、燻煙剤(液体)タイプの原液……に、便利お掃除魔法の「クリーン」を付与する形で働いているのだ。

 元々微妙にキラキラしていた薄青い液体が、アビリティを付与するとぱぁぁっと輝きだすのは見てて楽しい。それに数が数なので、塵も積もればなんとやらで結構良い経験値になっているからなかなかに美味しかったりする。


「しかし、実際歩いて見て思ったがあの地下通路、かなり広さがあったぞい? 水攻めにするには相当な量が必要じゃと思うのじゃが」

「えぇ、流石に必要量をあらかじめ作っておくことは出来ませんでしたね。けれど今もプレイヤーの皆様の協力で、流し込むのと同じ量だけは作れるようになっていますから、あとは時間さえあれば最下層まで届いて満たせると思います」

「ははぁ、「第三候補」が儂に話を持ってきておった、【鍛冶】の訓練と似たようなことをやっておるんじゃな?」

「そうですね。それに、ようやくイベントストーリーの全容が分かりましたから、皆さん大変協力的になって下さって助かっています」


 あー、なるほど。確かにあの爺さん始めあの墓地の最上階に居た奴らのクズっぷりとやらかした事を知れば、一般人間種族召喚者プレイヤーも殺意ゲフンやる気が出るか。

 経験値の美味しい訓練になるという実利があって、心情的にもストーリー的にも無視できないとなれば、イベント参加者総出での一大協力体制にもなるだろう。まぁ、それでも一部自分の好きにするやつはいるだろうがそれは仕方ない。


「特に、一部プレイヤーのやる気がすごいですね」

「ふむ?」

「話に出て来た「猫型の魔物」の姿が、長毛で小型の黒猫が直立したようなものだという情報が知れ渡ってからは、特に。望み薄とは言え、僅かにでも生きている可能性があるのであれば、と」


 ……可愛いもの好きが相当やる気を出しているようだ。うん、まぁ、ちょっと想像してみたけどなにそれ可愛い。酷い事をした奴は許しておけないし、万が一にでも助けられる可能性があるならそりゃ頑張るわ。


「……警備が大変ではないかのう?」

「……何処で手に入れた情報かは伏せております」


 想定内だったらしく、墓地への被害は回避されていた。…………まぁ、何も知らない一般市民も眠ってる場所だからね。うっかり何の対策も無く襲撃されて対墓荒らし用のトラップを発動されても大変な事になるし。

 そこまで話を聞いて、ほー、と感心したような「第二候補」は、何故かこっちを見た。何故見る。今忙しいから相手できないぞ。


「つまり、今回の戦いはあれじゃ。生産スキルを使っての大規模レイド戦という事じゃの」

「ははは、言い得て妙ですね」


 和やか~に喋っているカバーさんと「第二候補」だが、カバーさんはそうこうしながらもメールを打つ手を止めていないしメールを見る目も止めていないので、実質のほほんとしているのは「第二候補」だけだ。

 というか魔法型ならそろそろ【○○古代魔法】を覚えて参戦してくれないかなぁ。結構忙しいんだけど!?

 ……と、思ったのが悪かったのか、それとも「第二候補」の発言がフラグだったのか。


――――ッドン!!


 結構大きな爆発音が、地下から響いてきたのは……ちょうど、そのタイミングだった。

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