第51話 7枚目:生活の変化

 さて。エルルという頼もしい同行者をゲットした私の生活がどう変わったか、というと。


「おーいお嬢、薬草霊草オンリーの野戦料理だが飯ができ……まぁた土食ってんのかこの降って湧いた系お嬢!?」

「キュー(やーん)」

「やめろって言ってるだろ! 一応お嬢なんだから手当たり次第に何でも食うな!」


 まず、焦げドラの時から分かっていたがエルルは大変と愉快だった。なのでそんなエルルが加わったことで、毎日がとても賑やかになったのだ。さよなら孤独。

 そしてその呼び方から分かるように、私が召喚者だというのは分かった上で「真なる竜の血族」……つまり、ドラゴンの皇族の一員として扱う事にしたようだ。なので、土や骨を食べていると怒られるようになった。グッバイ自由。

 あと、意外と何でもできる系のイケメンだったのか、エルルが料理を作ってくれるようになった。まぁ肉も調味料も無いから、本人が言ったように野草霊草オンリーで焼いただけの料理(?)だけど。


「キュー(エルルが食べればいいのに)」

「どこに真なる竜の血族を差し置いて自分の飯を確保する兵士が居るかっ! しかも俺一応士官だぞっ!?」

「キュキュ(だって非常事態だし)」

「余計にだっ!!」


 あ、エルルは夢の途中……まぁ、ダンジョンをクリアする前の状態でテイムしたからか、普通に生きた元気なドラゴンです。だから土でも石でも食べられる私と違って、食料が限られている筈なのだ。

 が、それでも私を優先してくれる辺りは流石というか何というか。正直に言えば全然足りないから、食料探しに出かけてる間に土とか骨とか結晶とか食べてるんだけど。

 まぁつまり、口説き文句の通りにエルルは私のお世話をしてくれている訳だ。やったね! ちなみにエルルは同族ドラゴンなので、言語スキル無しの鳴き声でも話が通じるらしい。もう素は見せちゃったから敬語は取っ払ったが、こっちの方が楽なので鳴き声コミュニケーション継続だ。


「つぅか知識は何か山ほど入ってきたが、肝心の部分が無いのはこれどうしたらいいんだ……」


 まぁそのエルルはエルルで、現在位置が自分の記憶と大きく違うのに頭を抱えているようだけど。しかも独り言の内容からして、記憶と現実の乖離を埋めるような知識はテイムでは入らなかったらしい。

 なので、エルルにも現在位置が世界のどこかは不明。うん。結局脱出の目途は立っていない。まぁ仕方ないね。すみやかに諦めて建設的な事を考えよう。

 あ、そうそう。建設的な事と言えば。


「あぁクソ、これなら世界地理をもっと頭に入れとくん……あ? お嬢? どこ行っ……オイ待てだから俺が行くって言ってるだろ!?」


 エルルが作ってくれた焼き薬草の盛合わせをぺろりと食べ終わり、【霊視】と【魔力感知】で捉えた流れの先へと向かう。そして古びた木戸をくぐろうとして、慌てて追いついてきたエルルに捕まった。

 うん。この岩壁というか、岸壁というか、どうにもちょいちょいダンジョンが発生する様なんだ。難易度はまぁ、お察しだが。あまりに数が多いから、イベント中だけでもこれで、えーと5個目か6個目?

 まぁ中には「たからばこ」含めて色んなアイテムが一杯あるから、もちろん挑まないという選択肢は無い。そして大体の場合エルル無双になる。いやー、流石元ダンジョンボス。強いのなんの。


「キュー(見つけたからには挑まないと)」

「……確かに、肉を確保できるのは助かるが……っ!!」


 地形的特徴なのか、悉くダンジョンの名前に「竜」の文字が入る岩壁のダンジョン。その難易度はエルルが居るから無視できるのだが、大事なのはもう一点。エルルが倒せば、ドロップアイテムが手に入るのだ。

 ……まぁ、正しくはエルルが倒した場合死体が残り、それをリアル解体して色々な素材を手に入れるのだが。あと、エルルはインベントリを持っていることが判明した。

 ドロップアイテムとかインベントリとかどういう認識になってんの? という顔でもしてたのか、エルル曰く。


「そうか、お嬢たち召喚者は違うのか。俺らは戦えるようになる前に【解体】を覚えるのが大前提なんだよ。でなきゃ、友軍の遺体すら持ち帰れないからな。インベントリは……何だろうな? 生きてりゃ持ってる筈のもんだけど。個人差あるの含めて、魔力と一緒なんじゃねぇの?」


 との事。うーん、戦う人の考え方だ。……という事は、住民(NPC)は全員【解体】を持っているという解釈でいいようだ。……まぁ、戦争をして、敵軍とは言えドロップアイテムになっちゃうのは、ちょっとね……。

 ちなみにスキルは普通にある物として扱われ、進化は器の才能という事になっているようだ。つまり、同じスキルを持っていても何レベルで進化するかは個人差。

 たぶん召喚者が優遇されるのは、その辺りだろう。最初だけとは言え好きにスキルを選べるのだ。イベントやらなんやらでぽいぽいと「白紙のスキル書」も手に入る。……住民からしてみればあれ、反則級のチートアイテムなんだよなぁ。


「んー……」


 と、ダンジョン【草竜の仰ぐ空】という、ひたすらに草原と青い空がだだっ広く広がるダンジョンをエルルの懐に入れられて攻略(?)していると、ふと、エルルが足を止めた。

 何? と声をかける前に、周囲を一度見まわしてからエルルはしゃがみこむ。その視線の先にあるのは、辺り一面に生えているのと同じ、丈20センチぐらいの芝のような植物だ。


「……やっぱりこれ、ビッググラスか」

「キュ?(何?)」

「俺らだって四六時中本来の姿な訳じゃ無い。燃費が悪いからな。移動中はこっちの姿で、移動専用の飛竜に乗るとかもやるんだ。特に体が重い奴はそっちの方が速い」

「キュ(うんうん)」

「で。このビッググラスってのは、そういう移動用の飛竜の飯に使われる事が多い。……んだが、意外と産地が限定されてる。当然俺らの国も輸入してた」

「キュ。……キュ(ほうほう。……という事は)」


 ひょこ、と軍服の襟元、ではなく、大きな破れから顔をのぞかせて、でっかい芝草を見る。現実世界の芝は凶悪なまでの生命力を誇るが、フリアドでは事情が異なるようだ。

 よいしょ、と立ち上がりながら、エルルはもう一度周囲を見回した。


「この場所自体が空間の歪みとか言うもの由来だから、あんまり当てにはならないかも知れないけどな。外にもこれが生えてるなら、大分現在位置が絞り込める筈だ」

「キュキュー(まぁ此処がこの地域出身の竜が見てる夢とかじゃなければねー)」

「それが問題だなぁ……」


 現在位置が分かる証拠は大歓迎……なのだが。ダンジョン内部だからね、ここ。

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