第238話 迷路館の戦い『切り裂きジャック、再び』


 アイとオレが月氏の三匹の後をついていく。


 トコトコと歩いていくその後姿を見ていると、なんだか和むなぁ。


 ああ、戦いとかどうでもいいから、今すぐ家に帰ってあのアニメ『ぴょっとこハムスケ』を観たい……。


 オレがそんなことを考えながら、前を進んでいくと、アーリくんたちがピタッと足を止めたのだ。




 見ると前に誰かが立っていた。


 緑の髪がかぶっているシルクハットからツンツンにはみ出し、黒のスーツとマントに身を包み、革のエプロンを着けたその姿……。


 そのエプロンの革はヤツが手にかけた犠牲者のヒトの皮でできているという……。


 『ホワイトチャペルの殺人鬼(Whitechapel Murderer)』や『レザー・エプロン(Leather Apron、革のエプロン)』とも呼ばれるこの男……!


 忘れるはずもない……。


 「ああ……! あの『コショウジャック』の時の……!!」


 ジロキチも覚えているようだ。




 「ジャック・ザ・リッパー!! 貴様……っ!?」


 「ふっふーん……。さすがに覚えてくれてたんだねぇ? あまちゃん冒険者のジン!」


 「忘れるはずもないだろう!? ここで会ったが百年目……。あの『コショウジャック』事件の報いを食らわせてやる……、千倍返しだ!!」


 「いや……、百とか千とか何言ってんだ……? なんだそりゃ……、おまえ、バカじゃないの? はっはっはww」


 くぅ……。やはりこの世界では通じないのか…・・。




 「マ……、マスターに……、暴言を……。ゆ……、ゆるさでおくべきかぁああああーーーーーっ!!!」


 アイが突然、奇声を発するかのように、ブチギレた……!!


 ジャックがさすがにいち早く危険を察して、後方へ飛び下がった。


 その瞬間、ジャックのいた場所に大きな穴が空いたのだ!




 「シャドウアーム・殴打っ!!」


 アイがそのまま超ナノテクマシンを集合させて、巨大なげんこつでジャックを殴りつける。


 ドカン!


 ドカッ!!


 ズシン……




 そのエネルギーの残滓だけしか周囲にはわからないであろう。


 床や壁、天井がひび割れ、穴が空き、破片が飛び散る……。


 そのアイの攻撃を気配だけでかわすジャック。




 「きっひっひ……! こわい女だねぇ……。これはさすがに俺ひとりでは、虫も外骨格が折れるわ……。」


 ジャックが呪文を唱えた。


 「少年よ! 呼び戻し給え! 我が愛しの娼婦たちを! レベル4の闇の召喚呪文『かわいいあの娘』!!」


 『かわいいあの娘は誰のもの、かわいいあの娘は誰のもの、かわいいあの娘は誰のもの、いえあの娘はひとりもの。かたつむりはどこから? 川からたんぼへ、 恋人はどこから? 眼からこころへ。ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ラササーヤ サーヤゲン!!』





 『デュッセルドルフの吸血鬼』と呼ばれたペーター・キュルテンも使っていたあの忌まわしい呪文だ!


 この呪文はヤツ自身が今までに殺した命を縛り、この世に呼び出す召喚呪文なのだ。


 あのキュルテンに召喚された可愛そうな少女霊たちは、オレがその縛りから解放したんだ……。


 それを、ジャック・ザ・リッパー……、ヤツも使えるのか……。




 「私はメアリー・アン・""ポリー""・ニコルズ。」


 「あたしはアニー・チャップマン。」


 「うちはエリザベス・""ロング・リズ""・ストライド。」


 「あたしはキャサリン・""ケイト""・エドウッズ。」


 「あたいはメアリー・ジェーン・ケリー。」


 現れた5人の女性の霊体たちがそれぞれ名乗った。




 うん……?


 なんだか聞き覚えのある名前だぞ?


 そう、オレは彼女たちを知っている……。


 いや、厳密にはその記録を読んだことがあったと思うのだ……。


 えーっと……。



 するとそこにアイが思念通信で伝えてきた。



 (カノニカル・ファイブ(canonical five)……、でございましょうね……。)


 (ん……? あ、……ああ、それだ! そうだな! うん、知っていたぞ?)


 (さすがは我がマスター。さしでがましくお伝えさせていただいたこと、失礼いたしました。)


 (うん……。かまわないよ。もちろん……。ほら? 再確認のためにもさ、わかってはいるけど、念の為にこれからも伝えてくれるといいぞ?)


 (おお!! ワタクシの偉大なるマスター! ありがたきお言葉!)




 「カノニカル・ファイブ(canonical five)」と呼ばれる5つの事件、すなわち、切り裂きジャックの犠牲者の女性たちの名前だ!!


 まさか、ヤツは元の世界の時代の犠牲者である彼女たちの魂をこの世界でまで縛り付けているというのか……!?


 「あああぁ……っ! いったいいつの世まで私たちは苦しめられるの……?」


 「うううぅ……!! あたしは永劫の苦しみをなぜ……!?」


 「ぐるううう……! あなた達もうちらと同じ苦しみを味わうがいいわ!!」


 「殺して……!」


 「呪ってやる……!」






 「きーっひっひ! この俺のために死んでも働け! この薄汚い●ッチどもがっ!!」


 ジャック・ザ・リパーが声を荒げた。



 「許せない……。切り裂きジャック! おまえには……、その罪を償わせてやる……! 元の世の警察の代わりに……な!!」


 「ふん……! 前にもてめえには言ったよなぁあああ? それ君の価値観だろ? 君は何も殺しちゃいないの? 命に優劣なんてないんだよなぁ。俺は自分に正直に、自分らしく生きているだけなんだよ!?」


 「他人の自由を侵害する権利は……、おまえにもない!!」




 「てめえも切り裂かれて逝ってしまえ!! 武器の嵐っ!! 『ダンカングレイ』!!」


 『ダンカングレイ! カムヒアトゥ・ウー! ハ! ハ! ザ・ウーインゴット!』


 レベル4の武器召喚魔法『ダンカングレイ』だ!


 ジャックが呪文を唱えた瞬間に、無数のナイフが空中に現れ、オレめがけて飛んできた。


 「帳をおろせ!! サイコガード!!」


 オレは周囲を超ナノテクマシンで防御した。



 キンッ


 キンキンッ!!


 カキンッ!!


 ナイフが弾かれていく。




 それと同時にカノニカル・ファイブの霊体たちが、怨嗟のまなざしで襲いかかってきた!


 「レベル5闇魔法『グッドナイトレイディース』!! みんな合わせて合唱よ!!」


 『Goodnight, ladies! Goodnight, ladies! Goodnight, ladies! We're going to leave you now. Merrily we roll along, roll along, roll along. Merrily we roll along, o'er the dark blue sea!!』


 くぅ……!?


 な、なんという……!!




 「ジン様っ!! これは恐るべき闇の魔法でチュ!!」


 「ああ!! なんという禍々しい呪文の調べなんだ!?」


 「あああーーー!! 拙者もこれにはマイッタでござるぅうう!!」


 三匹の月氏たちが、苦しんでいる!!





 うん……。


 ええーっと……。


 オレには軽快な楽しい感じのメロディーにしか聞こえないぃいい!!


 そう後半部分はあの有名な『メリーさんのひつじ』じゃねえかよww


 (マスター! 『グッドナイトレディース』が『メリーさんのひつじ』の原曲であるという説があります。)


 (あー、なるほど! どうりでメロディーが一緒のようだ。)




 「ジン!! てめえ……、なんであの闇魔法をくらって平気なんだ!? ば……、化け物か……?」


 ジャックがそう恨み節を吐いた。





 ふぅ……。


 今度はこちらの番だ。


 こういう輩には、目にもの食らわせてやる。


 目には目を、歯には歯を……だ!!


 オレはそっと腰に下げているアダマンタイトソードを抜いた。






~続く~


©「グッドナイトレイディース」(曲:エドウィン・ピアース・クリスティ/詞:アメリカ学生歌)

©「ダンカングレイ」(曲/スコットランド民謡 詞/スコットランド民謡)



「続きが気になる!」


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何卒よろしくお願い致します!!



あっちゅまん



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