第211話 恐竜の街へ『滅びの序章』


 『ジュラシック・シティ』のあちこちに、周辺の村から集められた哀れな犠牲者たちがところかしこに転がっている。


 ものいわぬ死体と化して……。


 この街の住民でさえ、その悪しき手にかけられ、無残な姿となっていた。


 生き残りの者は少ない……。




 「ホノリ! あっちを探すであるゾ!」


 「イシカ! わかったのだ!」


 「じゃあ、僕は向こうを探すねぇ~っ!」


 オレのしもべたちが、テキパキと手分けして、生存者を探している。




 「なんだ? おまえら……ぐぎゃっ!」


 「んん~? どうした? ……ぎゃっ!」



 ヒルコたちに気づいたディノエルフたちは、あっという間にヒルコたちが倒してしまう。


 吸血鬼といえども、『魔核』とやらがある心臓を一瞬で破壊されたら、死ぬようだな。


 このあたりの街中にいるディノエルフ程度じゃあ、イシカたちは止められない……。




 アイはタイラント・ティラノのいる『殺戮ゲームの館』に監視の目で縦横無尽に探索をかけている。


 そのティラノ帝が、また、近隣の村から生贄を連れてくるようにディノエルフ賢種のヴェロキラプトルに指示を出している。




 「いいか? 若い生娘を連れてくるのだ。アブダクションだ!」


 「陛下。俺様の開発した空飛ぶ円盤の闇呪文『ロウロウロウユアボート』でまた遠隔操作で連れてきてやりますよ?」


 「おお! そなたは賢種の中でも一段と賢いな? さっそく連れてまいれ。生きの良いエルフをな……。」


 「じゃあ、さっそく、館の外で儀式を行ってまいりますぜ?」




 すると、ヴェロキラプトルと入れ替わりに同じ賢種の長トロオドンが慌てて、帝の間へ入ってきた。


 「ティラノ様! 申し上げます! 『法国』のアテナが『翼竜種』の空軍を……、殲滅しました! きゃつめは恐るべきフクロウの魔獣を使っている様子!」



 「なんだと!? おのれ……、アテナめ! 許せん! 余の新しく得たチカラで葬り去ってやるわ!」


 ティラノが全身の羽毛を逆立てて怒りをあらわにする。


 タイラント・ティラノは吸血鬼になった際、新たな能力に目覚めたのだ。


 すなわち、かの『ズメイ・ゴルイニチ』と同様に、『ワールドボス』としての魔力に……。




 「怯えるな……。トロオドンよ。余はタイラント・ティラノ帝その人であるぞ? アテナが来るなら来るが良い。余にはそのチカラを吸収して成長する能力があるのだ。逆にアテナのチカラを奪ってやるわ!」


 「おお! ティラノ様。さすがは我が君……。」


 「そうよ。トロオドンのおじいちゃん。私のティラノ様がそんなじゃじゃ馬姫に負けるわけないじゃあないの?」


 「そうそう。私のティラノ様は強いんだからね? ねえ? ティラノ様。」


 「うむ。すべてこの余の前に膝まづかせてやるわ! わーっはっはっはっ!」




 ティラノ帝がいる『殺戮ゲームの館』の地下に、カモ、ニワトリ、ダチョウのエルフ種族と、水棲人類(トカゲ類・カメ類・ワニ類・ヘビ類)、小型の獣人たちが囚われていた。


 アイはそれを発見すると、デモ子に命じ、『異界の穴』を使って、こっそりと街の外まで避難させた。


 見張りについていたディノエルフ種の門兵は、あっさりとデモ子によって食べられた。


 「ぺっ……。まずい……。淀んだ血がなんともまずい……。」


 「おまえはゲテモノ喰いだねぇ……。」




 かつての恐竜絶滅の時、第5度目の大量絶滅だったのだが、生き残った生物種もいる。


 この過酷な環境を生き抜いた彼らはどのようにして、この大災害を乗り越えたのか、その原因は詳しくはわかっていない。


 しかし、生き抜いた生物たちには、共通点がある。


 それは、恐竜たちに虐げられ、限られた生息場所を棲みかとしていた敗者たちであったということである。




 古鳥類を除く真鳥類、水辺という生息地で暮らしていた爬虫類、小型の哺乳類が大災害を耐え、生き残った。


 鳥類につながるエルフ種族と、爬虫類につながる水棲人種と、哺乳類につながる小型獣人たちを避難させられたのは、偶然の一致というのだろうか……。


 今後、彼らの子孫がこの世界で繁栄していくことになるだろう。




 (マスター! 『ジュラシック・シティ』から囚われた者たちはすべて救出いたしました。半径100ラケシスマイル(約160km)より避難完了でございます。)


 (わかった。被害が広がらないように防衛手段は大丈夫か!?)


 (半径100ラケシスマイルの範囲の境界……『K-Pg境界』と名付けましょう……この境界の範囲に、超ナノテクマシンを数千京個ほど増殖させ、下はマントル領域まで、上は大気圏外まで反エネルギーシールドを張っております。ご安心を。)


 (さすがはアイだな。アテナさんや、ヘルシングさん、サルガタナスさんたちにも警戒するよう知らせよう!)


 (イエス! マスター! ワタクシから通信を飛ばしておきます!)


 (うんうん。デキるオンナは違うねぇ。)


 (まあ!? ありがたきお言葉!! くふぅ!!)




 (……アテナ様。……アテナ様。)


 「むぅ!? この声は……、アイ殿か!?」


 (はい。さようでございます。今、アテナ様たちがおられる場所より、『ジュラシック・シティ』にはこれから近づかないよう警告をお知らせします。)


 「なにか……、やるのか?」


 (今から……、かの街を未曾有の大災害が襲いますゆえ、巻き込まれないようご注意ください。)


 「……そうか。わかった。みんな! 撤退だ! 大至急、撤退するぞ!」


 「アテナ様? ……わかりました。撤退します!」


 「うむ。我がご主人さまが、ついにご決心されたようです。では、我もあの『翼竜種』どもを範囲内へ追い立てまする!!」


 (コタンコロ! 頃合いを見て引きなさいね?)


 「了解だ。心得た!」




 (……というわけございます。ヘルシングさん。)


 「……なるほど。理解した。じゃあ、最後にあの『十の災い』どもの前線を押し下げてやる!」


 (ヘルシングさん。くれぐれもお気をつけて……。)


 「承知! オレに撤退の文字はない!! おおぉらぁーーーっ!!」






 ちょうど『十の災い』の軍とぶつかっていたヘルシングさんたちは、ヤツラの軍を少しでも『ジュラシック・シティ』のほうへ押し下げようと、踏ん張っている。


 「ここから進ませるな! いいかっ! 野郎ども!」


 「「おおぉーーっ!! 」」


 メンバーがそれに応える。




 「ぬぅうう! こしゃくな!?」


 「これはこれは……! 我ら『十の災い』の者にかなうとでも?」


 「……で、あるな……。」


 「ティラノ様に捧げる! 我がやつらを殺ってやる!」


 「いいや! 俺に任せろ! このアロサウルスにな!」



 『十の災い』モササウルス、タルボサウルス、シアッツ、カルノタウルス、アロサウルスたちが攻めてこようとする。




 「聖なる結界の剣・『サン・マリノ』っ!!」


 ヘルシングさんが迫ってくる『十の災い』たちの眼前一帯にぐるりと弧を描く剣閃を飛ばした。


 その斬撃がまるで光の壁のように地面を切り裂き、そこから上空へ向かって光が差した。


 追ってきたシアッツや他の『十の災い』たちも、その光の壁に触れた瞬間、高圧電線に触れたもののように、ものすごいエネルギーで弾かれた。


 「なんだと!?」


 「ぐぅ……!」


 「痛てぇじゃあないか……!?」




 さすがに低位のスケルトンどもと違って、消滅してしまうようなことはなかったが、その全身を止めるには十分だったようだ。




 そして、その頃、天空に巨大な隕石がその姿を見せたのだった-。


 突然、空が暗くなり、誰もがその異常事態に気がついた。


 だが、どうすることもできない……。




 「なんだ!? あれは? おい! トロオドン! どうにかしろ!?」


 「ティラノ様……。あんなモノ……我らにどうすることもできません……。」


 『ディノエルフ種・賢種』の長、トロオドン・ステノニコサウルスがそう進言した。


 「な……!? ならば、このまま座して死ねというのか……!?」


 「魔神の思し召し……なのかもしれません……。我らはその魔神の尾を踏んでしまったのやもしれぬ……。」




 その場に居合わせた者たちは全員、ただただ空を見上げていたのだった……。




~続く~



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