第204話 恐竜の街へ『いざ出陣!』


 『チチェン・イッツァ』の街には、ククルカンさんの配下である『ジャガーの近衛兵』とヤム・カァシュさんの配下・魔術弓隊の一部が残り、引き続き防衛に当たるとのこと。


 まあ、目下の脅威は去ったと思われるので、問題はないだろう。


 オレたちの『ゴーレム戦士群』、いや『日本の銅像群』も引き連れて、オレたちは『ジュラシック・シティ』に向かうことになった。


 西郷さん、忠犬ハチ公、二宮金次郎、クラーク博士、坂本龍馬、上杉謙信、武田信玄、織田信長、土方歳三、松尾芭蕉…etc


 こうして、そろって行進していく銅像群を見ていると、奇妙な感覚になる。




 「ほぇえ……。ジン殿。卿はこんなにも大量のゴーレムを所有していたのか……。しかも、見たことがない髪型をしているな……。」


 「うむ。非常にたのもしい戦士たちだな。特にあのノブナガ、シンゲン、ケンシンというゴーレムは強そうだな!」


 アテナさんもヘルシングさんも、銅像たちが珍しいようだ。




 「ジンさんたちは、本当にとんでもない兵を抱えているんですねぇ!?」


 「うむ。素晴らしい兵たちである。」


 「ジン殿。頼りにしています。」


 アテナさんの三人の従者であるニーケさんに、蛇の騎士エリクトニオスさん、それにフクロウの騎士であり軍師のグラウコーピスさんだ。




 「いえいえ。こちらこそ。アテナさんやみなさんに助けられてばかりですよ。」


 「ふむ……。ジン殿は本当に謙虚な御方であるな。この世界の者とは思えないくらいにな。」


 「たしかに。エレクトニオスの申すとおりでありますな。ジン殿はチカラを誇示されないのが奥ゆかしいですね。」


 「ジンさん! 本当ですよ! ジンさんたちは勇者以上の働きをしたんですよ!?」


 「そうだな……。卿らの働きっぷりはこのアテナのチカラをも上回っていたぞ! もっと誇らしげにしてもいいんですよ?」



 アテナさんまで……。


 「いやいや、本当に能ある鷹が爪を隠しているとかじゃあなくって……。本当に仲間が助けてくれているだけなんですよ? 今回もアイのおかげなんですってば!」




 「まあ!? マスター! ……はぁ♡ ……はぁ♡ そんなことおっしゃらないで……。」


 アイは褒められると身悶えるんだよなぁ……。



 「能ある鷹は爪を隠す……? はて? そのような格言は初めて聞きますね。」


 グラウコーピスさんが首をかしげている。




 「ノワールの悪魔の右手の鷹は人を不可視にする……ですかな?」


 そう言って、話に割り込んできた者がいる。



 「ファット・フルモス大公! なるほど。そうか!」


 なぜか納得しているみんな……。


 いや、そんな格言、聞いたことありませんが?


 つかファット・フルモス大公……って、誰!?




 「おお! これは失敬。お初にお目にかかります。私はファット・フルモス。『ヴァンパイア・ハンターズ』の者です。」


 「ジン殿。新たに合流したオレのパーティーメンバーだ。あっちのヤツが、アーサー・ホルムウッド。その隣はジャック・セワード。そしてこいつがキンシー・モリスだ。」


 「どうぞ、よろしく。」


 「よろしくのぉ。」


 「よろしくおねがいします!」


 「こ……、こちらこそ、よろしくお願いします。」




 そう言えば、ヘルシングさんが言ってたっけ……。


 パーティーメンバーを集結させるって。


 合流してたのか……。


 オレは中学の時に読んだブラム・ストーカー作『吸血鬼ドラキュラ』の小説を思い出した。


 小説の登場人物が目の前にこうしてリアルに生きて挨拶してくるんだもんなぁ……。


 なんとも奇妙な感覚だよ。




 (マスター! アテナさんの影の従者『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』の者たちも、ワタクシたちにつかず離れずついてきているようです。)


 (やっぱりね。アテナさんって『法国』の重要人物だもんな。防衛大臣という役職だけじゃあなくって、ゼウス大統領の娘なんだもんな。)


 (そうですね。ですが、これほど心強いことはないでしょう。)


 (……だな!)




 聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)たちは、オレの元いた世界では、ギリシャ神話のミューゼスだろう……。


 ヘーシオドスの『神統記』によれば、大神ゼウスとムネーモシュネーの娘で9柱いるとされており、『黄金のリボンをつけたミューゼス』と形容することがある。


 カリオペー、クレイオー、エウテルペー、タレイア、メルポメネー、テルプシコラー、エラトー、ポリュムニアー、ウーラニアーの9人である。




 「ジン殿。青ひげのいた『人ごろし城』は今や、『ククルカンの蜥蜴軍』が支配下に収めている。よって、このまま北上し、東へ進路を変え、『ジュラシック・シティ』へ向かうということだな?」


 「ヘルシングさん。そのとおりです。途中でオレの仲間がいるはずです。」


 「ほお? ジン殿。卿の仲間ということは、また頼りになる者ということだな!?」


 「そうみたいですね。オレもあまり知らなかったんですけどね……。北の地で『ジュラシック・シティ』の猛攻をせき止めてくれていたようなんです。」


 「なんと!? それはすごいな。少数精鋭部隊のようだな……。」


 「一刻も早く向かいましょう! 我が『法国』も法のもとにお味方しましょう!」




 ****





 一方、そのころ、『チチェン・イッツァ』の北の防衛地では-。



 「サルガタナス様! サルガタナス様! ここら一帯の恐竜兵どもは一匹残らず『ジュラシック・シティ』に逃げ帰ったようです。」


 緑色の服を着た狩人の姿のゾレイ・レラージェがサルガタナスに報告をする。




 「うむ。レラージェ。ご苦労さま。さて……。『チチェン・イッツァ』のほうから感じられたあのとてつもない魔力の渦が消えた……。アレは大災害級であったろうな。」


 「たしかに……ですな。サルガタナス様の大呪文『星かげさやかに』に匹敵するやもしれませんな……。」


 盗賊団の頭であるロバの頭を持つライオン、ウァレフォルが相槌を打つ。




 「いったい何者がアレを封じたというんだすか!?」


 サルガタナスの料理人ファライー・モラクスが疑問を口にした。



 「そうね……。おそらくは……、かの者でしょうねぇ……。」


 サルガタナスはわかっている様子だった。




 「……でしょうなぁ。ジンと申す者からは魔力という魔力を感知することができなかった……。この盗賊のスキルを持ってして感知できないとは、いったいどれだけの隠形の技を身に着けているのだ……。底知れない御方ですなぁ。」


 ウァレフォルがそう漏らした。



 「ウォレファルよ。今後、あの御方を呼び捨てにしたら……。」


 「へ……、へい……。」


 「私がその首、ひきちぎるわよ?」


 「おお……。そ、それは怖いでんな……。それほどの御方ですかな……?」






 「ジンさん……。かの御方は敵に回してはいけない……。私のカンが全力でそう告げています。」


 サルガタナスはその目の奥をキラリと光らせた。




 「サルガタナス様のカンは未来予知レベルだわ。ジン様とは友好関係を築いていきましょう。さいわい、サルワタリのツテで私たちは『ヤプー』として協力させて頂けることになっています。」


 緑の狩人レラージェもそう後に続いて賛同した。





 「では、このまま、ジンさんたちが到着するのを待ってから……、あの『ジュラシック・シティ』の恐竜兵『ディノ・ドラグーン』たちを攻め滅ぼすとしましょうか……。」



 「「御意……!! 」」


 サルガタナスの配下の者たちは一同に賛成したのであった-。




~続く~



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