第202話 吸血鬼殲滅戦・怒『戦線復帰』
オレたちはその日に、戦線に戻ることにした。
最初に行く時、あれだけ苦労したが、今回は便利な化け物デモ子がいる。
「では、行きますよぉ~! 開け! 『異界の穴』!」
「よし! じゃあ、行ってくるよ!」
「留守を頼みましたよ? ヂュ・バージェ。サーシャ。……そして、サタン・レイス。」
「わたすにお任せください!」
「私もがんばります!」
「娘のことはお任せを!」
みんなが応える。
そして、トンネルを抜けると……、そこは『エルフ国』だった。
「おお! すごいな。あっという間に『チチェン・イッツァ』の街の近くじゃあないか?」
「はい。ジン様。アイ様に座標を示してもらいましたので、わかりやすく空間と空間をつなぐことができましたよ。」
「さすがはアイだな。その有能さは変わりないな?」
「まぁ!? マスター! くふぅ……! 嬉しいお言葉! この新しい身体に、染み渡りますぅ♪」
「お……、おぉ……。」
「あれ!? なんだ? あれ!?」
オレは『チチェン・イッツァ』の街を取り囲むように立っている無数の銅像に気がついた。
「はい。マスター。あれは保管していた銅像群です!」
「あ……! そんなこと言ってたよね……。あれは上野の西郷さん!? それにあっちは二宮金次郎か! それに、織田信長に、クラーク博士まで!?」
「イエス! マスター! 日本中の銅像を集めて保管しておきました!」
アイが期待をこめた目でオレを見てくる。
これは褒めてほしそうな顔だ……。
「うん……。ええと……、よくやったぞ! アイ。オレが銅像好きだってよくわかったな?」
「もちろんでございます! マスターが残していたパソコンのデータを何度も何度も解析しましたからっ!!」
「お……、おぉ……。なんだか恥ずかしいな。自分が死んだ後、パソコンデータ見られるなんて……。まあ、るーたろうにアイのこと頼んでたからなぁ。」
「はい。るーたろう様がそれはそれは、大切に保存していてくれました!」
「そっか……。るーたろう……。約束守ってくれたんだな……。」
「ジン様ぁあああああああーーーっ!!」
「ジン様ぁ! おかえりなさいであるゾ!」
「ジン様ぁ! おかえり……なのだ!」
「我がご主人さま! よくぞご無事で!」
見ると、街からヒルコ、イシカ、ホノリ、コタンコロが駆けつけてきた。
そして、そのままの勢いでオレに飛びついて抱きついてきた!
いや、そりゃペットで飼っていたフクロウや、粘菌だったけど!
ペットが飛びつくように今、来たら……。
街のほうでオレのほうをジト目で見ている人たちがいる。
『チチェン・イッツァ』の街の防衛に務めたクラウン・バジリスクさんや、妖精種族の人たちだった……。
「ええ……。こほん。これはジン殿であるか!? やはり、コタンコロ殿やヒルコ殿が言っていたように、生きておられたのですな?」
レストラン『オックストン』のオーナーでもあり、魔術弓隊を率いる神・E(イー)ことヤム・カァシュさんだった。
「ヤム・カァシュさん! 先の戦いでは魔術弓隊に助けられました。ありがとうございます!」
「ふむ……? はて? ヤム・カァシュと名乗りましたかな? 神・Eで通していたので……。まあ、良いですが……。」
「あはは……。なんか聞いちゃったような気がしまして……。」
「いえ。ヤム・カァシュでいいですよ。ヤムとお呼びください。」
「ヤムさん。またお店に料理を食べに行かせてもらいます!」
「もちろん! いつでも大歓迎いたしますぞ!」
「ジン殿! ぜひ、我が主、ククルカン様の神殿にどうぞ!」
「はい。わかりました。じゃあ、行くぞ!」
「「はぁーい!」」
『エルカスティージョ』と呼ばれるピラミッド型の神殿へ招待された。
ジャガーの戦士たちが警備をしていたが、その全員が、オレの顔を見ると、敬礼をする。
『ジャガー近衛軍』の長でるバラムさんが、急いでやってきた。
「ジン様! これは生きておられたか!? あの怪物『餓者髑髏(がしゃどくろ)』は……ほうむり去っていただけたのですか!?」
「ああ。バラムさん。心配ないよ。もうヤツは永遠に消滅したよ……。」
「もちろんでございますわ! マスターにできないことはないのですから! キリッ!」
アイがそう言って、オレを持ち上げる。
いやいや……。アイさん……。それ、君のお手柄じゃあないか?
(いいえ! マスターがいたからこそ、ワタクシが覚悟を決められたのですから! マスターのおかげなのですよ!?)
(え……えぇ……。そんなものかぁ?)
(そんなものです!)
「おお!? それはすごい! ささ! どうぞ! 中へ入ってククルカン様にご報告を!」
「あ……あぁ……。」
バラムさんが驚き、そして中へ案内する。
ククルカンさんの部屋には、みなが勢揃いしていた。
「おお!? ジン殿! 卿は無事だったのか!? あの怪物をほうむってくれたのですね!?」
「ジン殿! ご無事で何よりです! それにしてもすごい! あの怪物の存在ごと消し去られるとは……。」
「ふふ……。オレはジン殿が生還してくるって信じていたぜ?」
アテナさん、クー・フーリンさん、ヘルシングさんだ。
「おお……。ジン殿か……。よくぞ、この街の危機を救ってくれた。礼を言うぞ。」
ククルカンさんも頭を下げてきた。
「みなさん! ご心配かけました! あの怪物『ズメイ・ゴルイニチ』はアイのおかげで、なんとか消滅しました。」
「おお!? アイ殿のお手柄か?」
「いいえ! マスターのおかげです! マスターのおチカラあってこそでございます!」
アイがそこは断固として、ゆずらないようだ……。
みんなも、アイにそう言われて、改めてオレの方に向き直り、口々に褒め称えるのだった。
な……、なんだかなぁ。
「そうだ! そうだ! ジン様のおかげで僕たちがいるのだから! すべてジン様のおかげなんですぅ!」
「そうであるゾ! ジン様あってこそである!」
「そうなのだ! ジン様のおかげなのだ!」
「うむうむ。我がご主人さまは偉大である!」
オレのしもべたちも口々に褒めて持ち上げる。
「そうなのジャァァアアアアーーッ! ジン様の存在があたしたちを動かしたのさァアアアア!」
デモ子がそう叫んだ時は、一瞬、みなが臨戦態勢になったけど、オレとアイでみんなにデモ子を紹介して、事なきを得たのだったー。
****
『チチェン・イッツァ』の街から、約250ラケシスマイル(約400km)北西に位置する街『ウシュマル』。
その『総督の館』の部屋に、この街を支配した吸血鬼がその中央にえらそうに座っていた。
ゴシックロリータの格好をしたその美少女の吸血鬼の前に男がひざまづいている……。
「エリザベート様! やはり、『人ごろし城』の青ひげ男爵と連絡が取れません!」
吸血鬼のしもべが恐怖にふるえながら、そう報告した。
「なんですってぇ? 妾(わらわ)のしもべをよくも! 誰のしわざかわかってるのかえ?」
恐ろしいほどの冷酷な目をして、エリザベートが部下に問う。
「は! 『ルネサンス』という冒険者パーティーで、新参者の冒険者ジンという者でございます!」
「ジン……だって? おのれ! その血をすすり、拷問して泣き叫ばせてくれようぞ!」
「へへへ……。その時はあっしにも……。」
部下の吸血鬼がゲスい声で笑ったその瞬間ー。
シュパシュパッ……
ポトリ……
ブシャァアアアアアアーーーッ!!
部下の吸血鬼の首が落ち、血が噴水のように吹き出したのだ。
「だまれ……。下郎が……!」
エリザベートは怒りに身を震わせていた。
「ど……、どぼじで……?」
部下の吸血鬼は不死のはずだが、上位の吸血鬼であるエリザベートの殺意そのものをぶつけられ、その生命が消えていく……。
「こんなものじゃあすまさないわよ? ジンとやら……。」
エリザベートはワガママで強欲で残酷で理不尽なのだ。
そして、その恨みが今、ジンに向いた瞬間だった。
~続く~
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