吸血鬼殲滅戦・離
第186話 吸血鬼殲滅戦・離『援軍・到着』
「ガォオオオーーーォーーオオオーーーーーッン!!」
『餓者髑髏・飛龍型』が吠えた。
ものすごい突風が生じ、イシカとホノリを吹き飛ばす。
まるでハリケーンのようだ。
「イシカ! 近づけないのだ!」
「ホノリ! 同じくであるゾ!」
イシカとホノリもさすがに強力な風の抵抗で近づけない。
そうかと思えば、急に超強力な吸引で、周りのものを吸い込み、さらに強大化していくのだ。
まさに、超引力と超斥力が交互に襲いかかるのだ。
すると、そこへものすごい速度で駆けつけてきた空を飛ぶ馬車が舞い降りてきた。
御者ロイグが駆る、愛馬マハの灰色とサングレンの黒毛の二頭立ての戦車に乗っていて、髪は百本の宝石の糸で飾られ、胸には百個の金のブローチを付け、左右の目には7つの宝玉が輝く美しい容貌の美男子であった。
彼の名はセタンタ・クー・フーリン。Sランク冒険者『クランの猛犬』のリーダーであり、『エルフ国』唯一の『勇者』の称号を持つ男であった。
生き残った軍勢の目の前にあらわれた、クー・フーリンさんの勇姿はまことに華麗であった。
頭髪の色は三層に染め分けられていて、頭皮に近い根元は黒く、中程は血赤、毛先は黄色で、金の王冠さながらの形に結い上げた髪は襟足で三つ編みにまとめられ、たくみに櫛を入れた幾筋かの細長い巻き毛や、金色に輝く何本かの房毛とともに肩まで垂れていた。
うなじには紫金の巻き毛が百筋ほど輝いていた。
琥珀のビーズをちりばめた百本の飾り紐が、頭髪全体に彩りを添えていて、左右の頬には各々四つずつえくぼができていた――黄色、緑、青、紫のえくぼだった。
まさに、王者の威厳を放つ左右の目には、各々七つの宝玉がまばゆく光っていた。
左右の足先には指が七本ずつ、両手にも指が七本あり、各々の先端から生えた爪――あるいはかぎ爪――には、鷹や鷲獅子に匹敵する強い握力があるのだった。
Sランク冒険者『クランの猛犬』のパーティーメンバーである、スカアハ、フェルディア、オイフェ、コンラたちも一緒に戦馬車から下りてきた。
「やあ! 『チチェン・イッツァ』の街の諸君! 私が勇者クー・フーリンである! 私が来たからには安心するがいいぞ!」
なんとも爽やかな透き通るいい声で、戦場全てに彼の声が隅々まで響き渡った。
もちろん、オレたちのところにも……。
今から、『人ごろし城』を脱出し、ガシャドクロ・スカイドラゴンとの戦いに参戦しようとしていたところだったが、援軍の到着にはホッとした。
まあ、だからと言って、駆けつけないわけにも行くまい。
急いで、そっちへオレたちは走っていくのだった。
クー・フーリンさんは全身輝く白銀の鎧で身を包み、一本の槍を取り出した。
それを見たククルカンさんは感心するように見て言った。
「あれこそは、聖なる槍『ゲイ・ボルグ』か! ゲイ・ボルグは銛のような形状をしており、投げれば30の鏃となって降り注ぎ、突けば30の棘となって破裂するという……。」
『エルフ国』の中でも、相当の苛烈な戦いか、国家をあげての戦争、かつての森水大乱(エルフカイマキア)くらいでしかお目見えしたことがないだろう。
ククルカンさんも実際、自分の目で見たのは初めてのようだった。
スカアハは、アルスター物語群に登場する予言の力を持った武芸者であり、その名前は「影の者」という意味を持つ凄腕の女戦士である。
フェルディアは、スカアハに師事し、クー・フーリンの兄弟子に当たる人物で彼とは非常に仲が良く、ケルト神話(アルスター・サイクル)に登場する英雄で、コノート側最強の騎士であり、女王メイヴの切り札とも言われる。
オイフェは、ケルト神話の女神であり、同時に魔法戦士であり、クー・フーリンの妻でもあり、オイフェとスカアハは、両者共に『エルフ国』において最強の女戦士なのだ。
そして、コンラはクー・フーリンとアイフェの間の息子であり、父親以上の武芸者であると評判の高い若武者である。
そんな一流のSランク冒険者である彼らが駆けつけたことで、『チチェン・イッツァ』防衛軍は、歓声をあげた。
それほどに『勇者』、そして、Sランク冒険者の名は信頼されいるのだ。
ガシャドクロ・スカイドラゴンは、何を考えているのかわからないが、彼らの登場をただじっと身動きせずに待っていた。
『餓鬼魂』からすれば、魔力の高いご馳走にしか見えていないのかもしれない。
急に、そのガイコツの窪みの暗い闇が赤く輝き、クー・フーリンたちのほうへ向き直ったのだ。
あきらかに、クー・フーリンたちをターゲットとしている様子だ。
クー・フーリンたちが動いた!
「あたしの一撃を喰らいなっ!」
スカアハが一瞬でガシャドクロ・スカイドラゴンの骨の翼を一刀両断にした。
「俺もスカアハ師匠に続きますよっ!」
フェルディアも負けじとその反対の骨の翼を切断する。
両翼をもぎ取られ、地面に落ちようとするガシャドクロ・スカイドラゴン。
オイフェがすかさず、加速の上級呪文をコンラにかける。
『Dans la forêt lointaine On entend le coucou 遠くの森からカッコウの声が聞こえる! Du haut de son grand chêne Il répond au hibou. 大きなカシの木の上からミミズクに呼びかけてる! カッコー、カッコー! カッコー、ミミスク、カッコー!』
コンラの身体が光り輝き、ガシャドクロ・スカイドラゴンに対してスタッフスリング(投石機)で、魔力を最大限に込めた魔力弾丸を投げつけた。
「スタッフスリング、投擲(とうてき)・極投!!」
ドッシュゥゥウウウウゥゥーーーーー……ン……
すごい衝撃波が周りに伝播し、みなはなにかに掴まらずにはいられないほどであった。
ボッグォオオオーーーーォォーーーンッ!!
ものすごい轟音とともに、ガシャドクロ・スカイドラゴンの魔核である『餓鬼魂』が一瞬、吹き飛ばされた!
残された『餓者髑髏』の残骸が、音を立てて崩れ落ちていく。
やったのか……!?
みなが一瞬、そう思ったところが、『餓鬼魂』は、少し吹き飛ばされたが、すぐに再生を始めていたのだ。
しかも、コンラの放った魔力弾丸をすべて吸収し尽くしていたのだ。
さらなる魔力と呪詛を拡大させ、成長しているのだ。
クー・フーリンが、その『ゲイ・ボルグ』であっという間に、『餓鬼魂』の真ん前に距離を詰め、槍で一突きにした!
「喰らえ! 『ゲイ・ボルグ』の乾坤一擲!!」
ものすごい魔力のこもった一撃と、『餓鬼魂』の魔力吸収の呪力がスパークした!
ズガガガガァーーーーッ……ン……
「くっ!? 『ゲイ・ボルグ』の刃先が一部、削り取られたか!?」
クー・フーリンの魔力全集中の突きの一撃でも、『餓鬼魂』を滅することはできなかったようだ。
「クー・フーリン様のあの一撃でも滅せられぬというのか!?」
勇者の一撃でも滅せられない『餓鬼魂』に、辺り一同、みなが驚き、落胆する。
ふたたび、『餓者髑髏・飛龍型』の姿に再生していく……。
どうやって倒せるんだ?
みなに不安がよぎったそのとき、空の上から、翼を持った天馬、ペガサスに乗った一団が現れた。
「みなよ! 諦めるな! 正しき正義の『法』が敗れることはない! たとえ『ワールドボス』が相手であろうともな!?」
透き通る美しいその声の持ち主の見目麗しい女性は、『法国』の防衛大臣であり、世界の『法』の守護者、パラス・アテナその人であったのだ。
『法国』からいち早く戦場に駆けつけてきたアテナたち一行が、今、到着したのであったー。
~続く~
※クーフーリン容貌、参照。
キアラン・カーソン,『トーイン クアルンゲの牛捕り』, P153~154
©「静かな湖畔」(曲/スイス民謡 詞/作詞者不詳)
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