第150話 七雄国サミット『事件後』


 『アーカム・シティ』のフレンチ・ヒル近くのフェラーズ婦人の屋敷の消火も無事収まったようだ。


 魔女モルガンがてきぱきと他の『スプリガンズ』に指示をして、後片付けに入っている。


 怪我人は医師のジェイムズ・シェパードのもとで応急手当を受けている。




 ジェイムズが手当をしていると、その時、なんだか違和感がして、自分だけに声が聞こえてきた。



 (ジャック・シェパード医師。聞こえるかい? 思念通信で話しかけている。)


 (ま……、まさか!? ヴァニタス様……。)


 (そのとおりだよ。今回の計画はここまでだ。君はこのまま普通に医者としての責務を果たし給え。)


 (では、警備隊の連中をやらなくても良いと?)


 (その通り! また、しばらくは本当の自分を眠らせておきたまえ……。)


 (了解しました。)




 魔女モリガンが救護室に入ってきた。



 「やあ。ジェイムズ医師。助かったよ。ここはひとまずなんとかなった……。まあ、屋敷の当主フェラーズ婦人は亡くなったがな。」


 「しかし、テロリスト『ジャックメイソン』の仕業といっておりましたが、何のためにこの婦人の家を爆破したのか、犯行の動機はわからずじまいですか?」


 「そうなんだ。ジェイムズ医師もなにか知らないか?」


 「さあ。姉のキャロラインなら何か噂なら知ってるかも知れませんが、私にはとんとわかりません。」



 「ところで、フェラーズ婦人はご主人も数年前になくされていたね?」


 「そうですね。たしか……。私が看取りましたよ。薬の誤飲……だったようです。」


 「そうかぁ……。不幸が続いて気の毒だな。」


 「そうですねぇ……。不幸の連鎖が止まってくれればいいのですがねぇ……。」






 ミスカトニック川の川岸での爆破は事故と処理された。


 大量に『爆裂コショウ』の樽が放棄してあり、どうもかの『ジャックメイソン』が置き去りにしていたらしい。


 そこに、不幸にも近づいたラドレット老人が偶然に爆発に巻き込まれたと思われるのだ。


 カラドックは現場の調査を終えて、そう判断した。




 こうして、魔導列車『シルバーピレン』の『キムリンゲB&M駅』の爆破テロ事件以外は、犠牲者も少数で抑えられた。


 駅の事件も早々に解決されたため、もっと被害が出ていただろう最悪の事態は免れたということだ。




 ラドレット老は身寄りがなかったため、数少ない知己であったジェイムズ医師がその財産管理を任された。


 フェラーズ婦人も身寄りがなかったため、ジェイムズ医師の推薦もあり、大富豪アクロイド氏のもとで財産管理がなされることとなった。


 この結末に、婦人の財産目当てでアクロイド氏が爆破事件を仕組んだのではないかと口さがない噂が流れたが、もちろん証拠も何もなく、犯行は『ジャックメイソン』の仕業と大大的に報じられると、街の住民もそんな噂はすぐに忘れてしまったのであったー。




 Sランク冒険者ルーシー・ヴィーナスは現場の後始末を『スプリガンズ』に任せ、どこかへ消えてしまった。


 彼らは民衆にもてはやされるために戦っているのではないのだ。


 事後処理で役に立たないことも知っている。




 「さすがは、ルーシー様だ!」


 「あの魔物たちを一瞬で倒してしまわれた。」


 「ああ。たった一振りだったらしいぞ?」


 「すげぇなぁ。そこに痺れる、憧れちゃうね。」




 だが、人々は彼ら『モーニング・スター』を絶賛する噂で持ちきりだ。


 かつて起こったことのない『法国』の首都『アーカム・シティ』の駅ジャック事件はこうして幕をおろしたのだ。




 ****





 『天球神殿』では、タイオワがヘルメスと協力し、『魔協』にて地上の様子を見るために魔鏡を持ってきた。


 彼らは『魔協』の『24人の長老たち』でもあり、『法国』と『エルフ国』は同盟関係にある。


 タイオワは個別に小さな魔鏡を使って、『魔協』の魔境知恵のカリスたちに連絡を取る。



 「鏡よ。鏡よ。鏡さん。世界で一番美しい蜘蛛女さんはだぁれ?」


 タイオワが魔力をこめて、魔鏡に向かって語りかけると、魔鏡の鏡面の像がゆらぎ始めた。




 クモ女・コクヤングティが白いケープをまとった双子とともに魔境に映る。


 そして彼女は双子のポカングホヤとパロンガウホヤに言った。


 「ポカングホヤ。パロンガウホヤ。あなたたちは、魔鏡が接続されたときに、この魔鏡に秩序を保たせるのです。あなたも、魔鏡が接続されたときに、蜘蛛の巣に地上の様子をよう見せなさい。これがあなたたちの役目です。」


 ポカングホヤとパロンガウホヤは魔鏡に魔力を注ぎ込みその波動を固めた。



 魔鏡に隈なく魔力を込められ、両極を貫く地軸に沿った波動中枢の全てが、彼の魔力の波に反響した。


 全地は震え、宇宙は共鳴して揺れた。


 こうして、彼は全世界を音の道具にして、長老タイオワの元へ『アーカム・シティ』の映像の情報を届ける道具としたのだ。




 そして、地上の事件が収まったことを各国の者たちは見て、ざわめいている。


 ロキがおどけた様子で言う。


 「おっかしなヤツラだったねぇ? それにしても『法国』は緊張感がないんじゃあないの? 『七雄国サミット』がまさに行われている『アーカム』の都市のお膝元でこんな事件が起きちゃうだなんてね? くくく……。」


 「ロキ。それについては『法国』として誠にすまないと言おう。」


 あっさりゼウスがその失態を認める。




 「いや……。あのジャック・オー・ランタンは上位精霊だ。それに、もうひとりのヤツは嘘しかつかない体質だったのだな。」


 「なるほど。アヌ龍王。それで警備をすり抜けたということですかね?」


 「うむ。その通り。さすがはハスター殿下。実に慧眼であるな。」


 龍王と海皇子が意見を同じくする。




 「思わぬ中断がありましたが、会議を続けましょうか?」


 光の皇子フォルセティがふたたび議長らしく場を引き締めた。




 「冒険者『ルネサンス』のジンを新たなるSランク冒険者に認定は決定。それと、『海王国』の砂漠の開拓は許可。『帝国』の『火竜連邦』への進出は却下。ほかに何かあった?」


 ロキが今までの会議の決定事項を振り返る。


 「ああ。だが、もうひとつ吸血鬼どもの処遇だな。」


 オベロンがここで意見を述べた。




 「たしかにな。あの爆破テロリストどもは吸血鬼を名乗っておったな。」


 ヴァイローチャナ将軍が同意する。


 「たしかにねぇ。吸血鬼……、『不死国』のものどもでしょうねぇ?」


 ニャルラトホテプが言う。




 「なんにせよ。『法国』としては看過できませんね。」


 「ああ。『法国』の威信をかけてヤツラを放置はできぬ。」


 「あなた。きっちりとあの不死の化け物に借りを返しておしまいなさいな。」


 『法国』のヘルメス、ゼウス、ヘラも『不死国』への報復を決意したようだ。




 「もちろん、『エルフ国』も参加しますぞ? ゼウス大統領閣下。」


 タイオワ長老も賛同する。




 「アヌ様。我々『龍国』はいかがいたしますかな?」


 「うむ。エンキ。我が『龍国』も戦に備えるとしようではないか?」


 「御意。」




 「ハスター。俺たち『海王国』はどうするんだ?」


 「ふふふ。余はもちろん『海王国』の精鋭を派遣するとする。」


 「ほお? 誰か適任がいるにゃ?」


 「ははは。すべて余に任せておけ。」




 「オシリスや。我が『地底国』は様子見だな?」


 「はい。遠方にわざわざ派兵する意味はありません。」


 『地底国』は様子見のようだ。




 「王よ。某(それがし)たちはどうすべきなのだ?」


 「アトラスよ。『エルフ国』へ監視役を派遣するのだ。その者の報告しだいで対応する。」


 「サスガハ王ダ。ソレガ賢イヤリカタトイウモノダロウ……。」


 『巨人国』も様子見である。




 「将軍閣下。我が『幕府』はいかに?」


 「うむ。備えはしよう。備えあれば幽霊なしだ。」


 「な……。なるほど。さすがは閣下。備えておけば死なないってことですね?」


 「はっはっは……。」


 とりあえず、『幕府』も様子を見るようです。






 「では、以上で会議を終わります!」



 フォルセティが閉会の挨拶をし、こうして『七雄国サミット』は幕を下ろすのであったー。





~続く~


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