第147話 七雄国サミット『爆破事件』


 『天球神殿』で『七雄国サミット』が行われている頃ー。


 その地上の都市『アーカム・シティ』。


 街の東部フレンチヒルにあるフレンチドクターズハウスでは、この時も医師ジェイムズ・シェパードの姉キャロラインはうわさ話をしていた。




 「ねえ? ガネットさん。聞いた? あの『法国』のSランク冒険者パーティーランキング1位の『モーニングスター』のルーシー・ヴィーナス様が『アーカム』に帰ってきてるらしいわよ?」


 「ほんに、あのリュツィフェール・”ルーシー”・ヴィーナス様は唯一『皇国』への通行許可を得たSSランクの御方ですもんねぇ。ありがたや。ありがたや。」


 「キャロラインさんは本当にルーシー様がお好きなのねぇ?」


 「あら? フローラ。『法国』の民でルーシー様が嫌いなヒトっているかしら?」



 フローラは大富豪アクロイドの妹セシルの娘である。


 「そりゃ、私も好きですけどね。ああ、パーティーメンバーのハマエル様とサマエル様もご一緒だってね。」


 「そうよ。サマエル様とハマエル様はお似合いのカップルよねぇ?」


 「ほんに。ほんに。」





 「あれ? そういえば、キャロライン。今日はジェイムズはどこか出かけてるのかい?」


 噂好きの老婆ガネットが聞く。



 「ええ。なんだか散歩するって言って朝早く出かけちゃったわ。」


 「あらそうなの? 珍しいわね。いつも急患に備えてなるべく家にいらっしゃるようにしてるって言ってらっしゃったのに。」


 フローラも珍しいことだと同調した。




 「そうねぇ。ジェイムズも本当に立派な医師になったわねぇ。名前を変えて本当に良かったんじゃないかい?」


 「ええ。そうね。急にジェイムズって名乗りだしたから、私もどうしちゃったのかしらって思ったけど、立派になってくれて本当に良かったわ。」


 「ああ。ガネットさん。ジェイムズさんってそういえば、昔の名前、何でしたっけ?」



 ガネットは答える。


 「ん? ああ。ジャック・シェパードじゃよ。」




 ****






 その頃、ミスカトニック川の川岸を朝のランニングをしていたラドレット老は、変なものを発見した。


 いつものジョギングコースに見慣れない樽を見つけたのだ。



 「なんじゃろ?」


 と、不用意に近寄った途端ー。





 ドカァアアアーーーーーーッンンン……



 轟音とともに樽が爆発し、あわれな善良なラドレットは爆死してしまったのだ。




 それと同時刻ー。


 フェラーズハウスに住んでいたフェラーズ夫人が屋敷ごと爆発しやはり爆死してしまった。


 夫人は未亡人だが大変裕福で、街の大富豪ロジャー・アクロイドとの再婚も噂されていた。



 さらに、魔導列車『シルバーピレン』の駅『キムリンゲ駅』の駅ビル兼ショッピングモールの『キムリンゲ・ブリック&モルタル』、通称『キムリンゲB&M』が爆破されたのだ。



 ドッコォオオオオオオーーーーッンン……




 さらに爆破が続く。


 「キヒヒーッ! すべて破壊してやるよねぇ?」


 「ああ。ランタン。平和こそが第一だよねぇ。」


 「本当にアマノは嘘つきだねぇ?」


 「僕は平和が大好きなのさ。」



 一人は派手な化粧のスーツ姿の男(?)で、もうひとりはかぼちゃのおばけである。




 二人の魔物が爆破騒ぎを起こして、大喜びしていると、そこへ都市警備隊『スプリガンズ』が駆けつけてきた。


 「貴様らぁ! 何者だぁ!?」



 「僕たちは『吸血鬼』さ! ねぇ? ランタン?」


 「きゃはは! そうだねぇ?」


 相変わらず二人はふざけている様子だ。




 駆けつけた都市警備隊『スプリガンズ』のガラハッドとパーシヴァルはこの異様な二人に戸惑いを隠せない。


 まず、この厳重な『アーカム・シティ』にこんな凶悪な犯罪者が紛れ込んでいること。


 そして、この二人の悪びれのなさ。


 『キムリンゲB&M駅』の周囲は、死傷者、重軽傷者が数百名も出ていた。


 また、他の箇所でも爆裂音が轟いていたことから、他でも犠牲者が出ていることだろう。


 『アーカム』史上、最悪の爆破テロ事件だ。




 「吸血鬼……だと!? ならば『不死国』が関与しているのか!?」


 「このやろう! 許さん!」


 

 ガラハッドが剣を抜き、アマノ・ジャックに斬りつけた。


 同じく、パーシヴァルも俊足で距離を詰め、抜刀術でジャック・オー・ランタンに斬りつけた。




 「その剣、僕に当たっちゃうねぇ!」


 それをひらりと躱すアマノ・ジャック。


 ジャック・オー・ランタンはその場でゆらりとゆれ、パーシヴァルの剣をいなした。



 「「なっ……!?」」




 『スプリガンズ』の中でも聖杯の騎士と呼ばれる凄腕の騎士である、ガラハッドとパーシヴァルはその剣がかわされたことにまず驚いた。



 「さあ! 僕の攻撃は当たらないかなぁ?」


 アマノ・ジャックが、弓矢を構え呪文を唱える。



 『菜の花畠に、入日薄れ、見わたす山の端は、霞ふかし。春風そよふく、空を見れば、夕月かかりて、にほひ淡し。里わの火影も、森の色も、田中の小路をたどる人も、蛙のなくねも、かねの音も、さながら霞める 朧月夜!』




 「なに!? あれは幻惑呪文『朧月夜』だ! まずい! ガラハッド! 気をしっかり持て!」


 パーシヴァルが叫ぶ。



 アマノ・ジャックが矢を放った。


 「けけけ!」



 ビュンッ


 ビュンッ


 ビュンッ




 「ぐはぁ!」


 ガラハッドの手足に矢が突き刺さった。



 「魔法弓士かっ!?」


 そう言ったパーシヴァルにも提灯ジャックの魔法攻撃が襲いかかる。




 『燃えろよ燃えろよ! 炎よ燃えろ! 火の粉を巻き上げ、天までこがせ! 照らせよ照らせよ! 真昼のごとく、炎ようずまき、闇夜を照らせ! 燃えろよ照らせよ! 明るくあつく。光と熱とのもとなる炎!!』


 炎熱の上級呪文『燃えろよ燃えろ』だ。


 みるみる樹が地面から生えてパーシヴァルに絡みつき、そこを炎が燃やし尽くす!


 延々と成長し巻き付く大樹と炎の竜巻のコンボだ。




 「ぐはぁあああーーーーーっ!!」



 シュゥシュゥ……


 ドサリ




 パーシヴァルが焼け焦げながら倒れた。


 「くっくっくっ! ハロウィン・パーティーの始まりだ!」


 ジャック・オー・ランタンが楽しげにはしゃぐ。




 「待てぃ! このテロリストどもめ!」


 そこへ現れたのは『スプリガンズ』円卓の騎士で湖の騎士と呼ばれるこの世で最も誉れ高き最高の騎士ランスロットだ。



 その剣が空を切り裂き、提灯ジャックの手を吹き飛ばした!




 「聖剣アロンダイトの一撃を思い知れっ!」


 「ぎにゃにゃにゃーーっ!!」



 腕を吹き飛ばされたランタンが思わず、後ろに下がる。


 「むむ……。まあ、精霊の僕に剣は効かないよ?」




 そう言うが早いかランタンの腕が炎とともに再現されたのだ。



 「ふーむ。上位精霊か? なるほど。この都市の雷撃結界をすり抜けてこれたはずだ。」


 ランスロットがそう言ってふたたび剣をかまえた。


 その間に、ガラハッドがパーシヴァルのもとへ駆けつけ、癒やしの水『セクアナの水』をふりかけた。


 パーシヴァルのやけどの傷が回復していく。




 「すまない。ガラハッド。」


 「ああ。大丈夫か? パーシヴァル。」


 「君も怪我をしているじゃあないか? 僕の『セクアナの水』を使うがいい。」


 二人の騎士も傷を癒やし、ふたたび戦闘の構えを取った。





 「うーん。簡単すぎるねぇ?」


 アマノ・ジャックはそうつぶやくのであったー。




~続く~


©「朧月夜」(曲/岡野貞一 詞/高野辰之)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る