ありふれた日常 第3話『社会科見学』


 黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。


 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。


 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたジンはなんと蘇生されてしまったのだ。



 ジンが目覚めたのは自分の自宅が魔改造された超人工頭脳のアイが管理する『霧越楼閣』。


 そして、その中でジンの下僕であるコタンコロが管理する農園は、空間収縮技術工法によって作られた東京ドーム5個分の広さの『コタンコロ農場』と呼ばれている。




 さて、ある日のオレの自宅『コタンコロ農場』でのこと……。



 「コタンコロ! いますか?」


 アイがズッキーニャとモルジアナを連れて『コタンコロ農場』にやってきた。



 この農園のはるか空の上ー。


 その大空を悠然と飛ぶ巨大なフクロウ……それがコタンコロだ。


 そして、今、その翼をふわりとはばたかせ、アイたちのいるそばの地上に降り立った。




 「アイ様。ようこそお越しで。」


 「ああ。今日はズッキーニャたちと農場の見学に来ましたよ。」


 「しゃかいかけんがくぅ!」


 「そうです。社会科見学に参りました。コタンコロ様。」


 「おお! ズッキーニャにモルジアナ。よくぞ我が農場に参られた。存分に楽しんで行かれよ。」




 「コタンコロの農場はお花も見れて遊べるところもあり、農業体験できる所もあり、楽しいことばかりですよ?」


 アイがまるで観光案内のように説明をする。


 「わーい! わーい! モルジアナ! あの花、綺麗だねぇ!」


 「本当ですね。ズッキーニャ。」




 「あっちの果樹園に行ってみましょう。おいしい採れたての葡萄が食べられますよ?」


 コタンコロが果樹園に案内する。



 果樹園に行くと、背の高いスラリとしたロボットが静かに歩いてきた。


 両手両足が非常に長い人型ロボットだ。


 その両手いっぱいに採集した葡萄を抱えている。




 「あ! ゴーレムがいるよ!」


 「まあ。本当ですね。果樹園の管理をしているのかしら?」


 「ああ。あれは園庭ロボット・ラピュ太郎です。ラピュ太郎! こちらにおいでなさい。」



 ラピュ太郎が静かに歩いて近寄ってくる。


 落ち着いたロボットだ。


 そして、少し離れた位置で止まり、抱えていた葡萄をその長い手でアイたちのほうへ差し出してきた。




 「まあ! なんて美味しそうな葡萄なの!? こんな美しい葡萄は見たことないわ……。」


 「うん! 輝いてる!! こんな葡萄見たの初めてっ!」


 「この品種はこの美しい光沢から、かつて古代では『輝いている葡萄』と呼ばれていたそうですよ。」


 「へぇぇ。すごいね。」


 「じゃあ、さっそくいただきましょうか?」


 「うん!! 食べたぁい!」





 さっそく、輝く葡萄をみんなでいただきます。


 「うわぁ! 美味しいっ!」


 「なんてみずみずしいの!? こんな果物がこの世に存在するなんて!?」


 「ええ。美味しいですわ。コタンコロ。ラピュ太郎。いつもご苦労さまです。」


 「はい。我も喜んでもらえて嬉しい限りです。」


 ピコーン……。


 ラピュ太郎もなにやら反応し、喜んでいるようだ。




 「あれ? なにか変な穴が見える?」


 ズッキーニャが指をさした方向に、突然、空間に大きな穴が空いたのだ。



 頭部にある大きな花が開いたかのようなデカい口の中で、異常に長い舌がうごめいた奇妙な生物がその穴の中から這い出てきたのだ。



 「シャァアアアアーーー!!」


 その生き物が叫ぶ。




 「きゃあああ! こわいっ!」


 「ズッキーニャ! 私の後ろに!」


 モルジアナがズッキーニャを後ろにかばった。



 しかし、その瞬間ー。




 その生き物が途端に地面にへたり込んでしまったのだ!



 「あいて! 痛ててててっ! 痛い! 痛い! アイ様ぁ! 勘弁してくださいなぁ!」


 「デモ子……。あなた、いったい何しに来たの? 可愛いズッキーニャを脅かすなんて……。そんなに消滅したのかしら?」


 「違います! 違いますって! あたしもその輝く葡萄をいただきたいなぁ……なんて思ったりしただけですってば!」


 「デモ子よ。我の農場に許可なく入ってきたら、害虫と判断して退治してしまうぞ?」


 「ええええっ!? そんなぁ……。コタンコロの兄貴も勘弁してくださいよぉ?」





 どうやら、美味しい葡萄に釣られてデモ子がやってきたようだ。



 「あ! ああ!! あああ! 魂魄消滅プログラムがっ! 来てるって! また流れて来てるって!」


 「あら? ごめんなさい。つい……。」


 「もぉ。アイ様。スパルタ過ぎですって。あたしにだけ厳しすぎません??」




 「て……敵じゃあないんですか?」


 「魔物じゃあないの?」


 「あい! あたしはデモ子。アイ様の忠実なる下僕にして、ジン様に忠誠を誓うものですよ。可愛いお嬢ちゃんにきれいなネズミちゃん?」




 「そっかぁ……。じゃあ、よろしくね? デモ子さん!」


 ズッキーニャがニコリと微笑む。



 「おお!? 可愛い! この娘、食べちゃいたいくらい可愛いんですけどぉ!」


 「デモ子? ズッキーニャはワタクシの保護対象ですよ。もし、ちょっとでも傷つけようものならぁ……?」


 「あ! ああ!! あああ! また! またっ!? 魂魄消滅プログラムがっ! また流れて来てるって!」


 「容赦なく消滅させますからね?」


 「はいはい! わかりました! わかりましたってば!!」




 「わかればよろしい。じゃあ、また葡萄の試食をいただきましょうかしら? 仕方ないからおまえも食べていいわよ。デモ子。」


 「ありがたき幸せぇ!!」


 「わーい! いただきまぁす!」





 今日も『コタンコロ農場』は平和なのであったー。





~続く~



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