第121話 幕間その3『楼蘭の発展』


 砂漠の都市『楼蘭』ー。


 『楼蘭』はおよそ住民2000人の小都市だ。ロプノール湖というオアシスを中心とした街で主な民族は月氏種族(ネズミの種族)である。


 その周囲に広がるのは砂漠であるが、見渡す限りの砂山というわけではなく、時折、赤褐色の岩山が露出しているような荒涼とした大自然である。



 しかしこの砂漠の街が、商人が集い、観光客がどっとやってきて最近栄えつつあるのだ。






 山に囲まれたサファラ砂漠の盆地に固まるように『楼蘭』の市街地が集中している。


 砂漠の中ということで常に空気が乾燥しているので、夏は暑いがそれほど不快感はなく、逆に冬の冷え込みは大変厳しいものになるという。


 決して暮らしやすい土地ではないはずなのだが、広大な砂漠の中であるにもかかわらず、『楼蘭』の街中は気温が適温で、非常に過ごしやすい。そんな中で、白い家々が建ち並び、巨大な噴水が大量の水を噴き上げている。




 交易が盛んで、サファラ砂漠のさらに南方にある『海王国』の都市『無名都市』や、砂漠の北にあるバビロン地方の『円柱都市イラム』と『東方都市キトル』、それに『エルフ国』で最も商業が盛んな『黄金都市エル・ドラード』などと交易路を開通していて、最近はどんどん商人がやってくるようになってきているのだ。


 デザートバギーと呼ばれる4つの輪っかがついた無人で動くゴーレムが無料で利用でき、まるで遊戯のように砂漠を疾走する爽快感が味わえると商人の評判がいい。



 この街に向かってやってくると、近郊の砂漠のなかに突然あらわれるポップな色使いの石柱が、巨大なラッコの石像の上に7本立っていて目を引く。


 『Seven Magic Mountains(セブンマジックマウンテン)』である。


 『円柱都市イラム』の中心にある『ガイトウテレビ』の大画面にこの景色が映し出されて紹介されているということもあり、『楼蘭』いちばんの見どころスポットとして、バビロン地方だけでなく『海王国』や『エルフ国』からも観光客がやってくるようになっている。




 そしてこの街を今取り仕切っているのは長老・旧鼠であるが、実質切り盛りしているのは代理である女性モルジアナである。



 「旧鼠様ぁーーーっ! こっちの商人さんの商業許可出しておいてって言いましたよね!?」


 「す……すまんのぉ……。ほい。今、判子押しておいたぞい!」


 「まったく……。クレームが来るのこっちなんだから……。」




 「モルジアナ姉さぁーーん!」


 大きな声でモルジアナに駆け寄ってくる少女。



 「あら!? ズッキーニャちゃん! どうしたの? 今日は魔法のお勉強、おやすみの日じゃあなかった?」


 「うん! でも遊びに来たのぉ!!」


 「あら……。でもお姉ちゃんは忙しいんだよねぇ……。」





 するとそこへ声をかけてきた者がいた。



 「今日くらい休んだら? モルジアナ。僕が代わりに対応しておくよー。」


 「あ! ジュニア様。いいんですか? ジュニア様も『黄金都市』の商人たちとお忙しいのでは……。」


 「うん、『黄金都市』の商人たちも今日はもう『砂竜列車』で帰路についたよ。」


 「忙しいですね。少しはのんびりしていけばいいのに。」


 「まあ、砂竜のボス・ガレオンが連れてきた砂竜たち20尾がフル稼働してくれているからね。『黄金都市』や『無名都市』との往復でも日帰りで済むようになったからね。」




 『黄金都市』からはコムギト麦や黄金羊、魔鉱石、ライオンヘッドの身、シダの花などが交易品として入ってくるようになった。


 また、『無名都市』からは海産物、クラーケンの身、サザエオニなどの貝類、ワカメ・ワーカー、シー・シー・プーやマイコニド(きのこ類)などが取引されている。


 『円柱都市イラム』ではグガランナ牛やサテュロス羊など、『東方都市キトル』からが香料が主な交易品となっている。




 そして、商人たちの往来が盛んになるとともに、その護衛任務の冒険者達がこの『楼蘭』にたくさんやってくるようになったのだ。



 「あー。そういえば、最近やってきたあの冒険者……『パウアトゥン・ファミリー』のバカブさんたち、すっごく強そうでしたね。」


 「そうですねぇ。『イラム』の冒険者でしたね。」


 「そうそう。ジン様たちと交流があったとか。」


 「へぇ……。じゃあ、今後とも付き合い出てきそうですね。」




 「あれれぇ? みんな集まってなぁに話してるの?」


 そこにメイド姿の水色の髪の少女が現れた。



 「あ! ヒルコさん! こんにちは!」


 「ヒルコさん! ……あの子たちは元気にしておりますか?」


 「んんー? ああ、パックとジムのことぉ? うん。そうだね。もうすぐベッキーたちが『楼蘭』に来るって言ってたよ。」


 「そうですね。まだ『楼蘭』からは出ないほうがいいでしょうね。この街ならジン様やアイ様が守ってくださるでしょうから。」




 「ところでぇ……。街の入口でなんだか揉めてるよぉ?」


 「え……? なんですそれ?」




 さっそくジュニアたちが街の入口へ行ってみると、たしかに揉めている者たちがいる。


 かたや背が高く人間に似た輪郭を持ち、人間を戯画化したような顔、鮮紅色に燃え上がる2つの目を持ち、足には水かきがある。「眼のある紫の煙と緑の雲」に包まれし者……。


 もう一方の者は、頭部にある大きな花が開いたかのようなデカい口の中に異常に長い舌がうごめいている。……デモ子だ。




 「貴様! デモ子とか言ったな? 我はイタカだ。ハスター様の眷属である。『風に乗りて歩むもの』とは我のことだ。忘れたのか?」


 「いやいや。だーかーらー! 通行証とかギルドの身分証とかあるでしょうがっ! そーれーをー出せって言ってるんだっつーの! ほら出せ! 早く!」


 「ぐぬぬぬ……。そんなものは持ち合わせておらんわ。だが、貴様は我の顔、覚えておろう!? ほら! 早く街に入れろ!」




 「デモ子……とか言ったな……。ハスター様とが貴様らに交易を許可してやったんだろうが? 早く我をもてなせ!」


 「へぇ……? でもアイ様からは許可証のある者しか入れちゃダメって言われてんだよねぇ……。おまえが偽物かもしれないし。」


 「いやいや、そんなわけないだろ?」


 「いやいや。そんあわけもあるかもしれないでしょ?」




 「「ああぁ!?」」



 二人はぎろりと睨み合った。




 「お……おふたかた……。ちょ……ちょっと……!」


 「イタカ様! デモ子様! 冷静に……お願いします!」


 「おーい! デモ子ぉー! 問題起こしたら、アイ様におしおきしてもらうよぉー!?」




 「いーや! あたしはあーたんところのハスターってのが決めた取り決めを守ってんでしょーが!?」


 「おいおい!? だったら貴様は我がはスター様の配下だってわかってるんじゃあないか!?」



 「なによっ!?」


 「なんだよっ!?」




 「ええーーーっい! おもてに出ろ! 貴様!」


 「ああ! あーた! 言ったわね? 異界の混沌と夜の恐ろしさを味わうがいいさ!」




 「ッシャアアァアアアアアーーー!!」


 デモ子が大口を広げ、イタカに食いつく!




 「ぐぁああっ! 貴様ぁ! よくも!」


 「ッシャアア……!」




 恐ろしい魔力が辺りに吹き荒れ、通行人たちが飛ばされそうに成る。



 「きゃあ……!」


 ズッキーニャもそれに巻き込まれそうになり、思わず悲鳴を上げた。




 すると、そのズッキーニャの周囲に、超ナノテクマシンの集合体が現れた。


 その姿は赤い帽子をかぶった白ひげの姿だった。



 「我が娘を泣かせる悪い子はどこだぁ?」




 そう言って巨大な両の手でイタカとデモ子を掴んだ。



 「やっべぇな。貴様ら。このサタン・レイスから悪い子には、死のプレゼントをあげるべ!?」




 「ぎゃぎゃぎゃっ!!」


 「ぎゅぎゅーーぅっ!!」




 そして、二匹(?)は締め付けられ、意識を失ってしまったのであったー。



~続く~


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