第114話 目指せ!Sランク!『スタンピード』
前からゾンビが大群で迫ってくる。
腐った目、腐臭、血の気のない肌……。
だが、その不死者の軍団は一糸乱れぬ隊列を組んで、まっすぐにこの『月のピラミッド』の広間に向かってきていた。
「オセロトルさん! これはまずいですね。すでに砦の中にまで魔物が侵入してきています!」
オレはオセロトルさんにそう声をかけた。
……が、オセロトルさんは悠々とその不死者の軍団の前に出て歩み寄っていく。
「オセロトルさん! 危ないっ!」
オレは思わずそう叫んだ。
しかし、戦いは起きなかった。
「おい! ゾンビリーダーはどいつだ!?」
「はぁーい。おでです!」
「ふむ。じゃあ、お前から、東門の外へ出て、迫ってきている魔物の群れに一斉攻撃だ。いいな!?」
「あいあいさー!」
へ? ゾンビと平然と会話している……?
ゾンビもゾンビでなんだか間の抜けた返事をしている。
どういうことだ?
すると、オレたちの後方、『月のピラミッド』のほうから、一人の男が歩いてくる。
頭にとさか状に羽飾りを複数つけていて、また飾りのついた長い鎖のようなものをいっぱいじゃらじゃらさせている。
サルワタリとは趣味が合うのではないだろうか。
「おやぁ? 君たちは……。ああ。オセロトルから報告があった冒険者たちだね?」
「あ。はい。冒険者パーティー『ルネサンス』のジンと言います。」
「ジンくんね。あたしゃこの砦の長官ケツァルパパロトルだあよ。よろしくぅ~。」
「よろしくお願いします。……って、あのゾンビたち、何者なんですか?」
ケツァルパパロトルさんがニヤリと笑って答える。
「ああ。あれ、初めて見たらびっくりするよねぇ? あれはあたしゃの魔術で蘇らせた不死者の軍隊『ミクトランの骨部隊』なんだよ。」
「そ……そうなんですか。ケツァルパパロトルさんは魔術師なんですね。」
「そうさね。あたしゃは闇の魔術師さ。『ミクトランの骨部隊』は150人の精鋭以外はあとは死体さえあれば無限に生み出せるんだよ。」
仕立て屋の時のこともあってか、こういう死者を使う、いわゆるネクロマンサー的なのって敵ってイメージだったんだよな。
まあ、味方なら心強いっちゃ心強いか。
「じゃあ、東門へ急ぎましょう!」
「そうさね。じゃあ、ジンくん。あたしゃたちも、はよ行きましょか!」
オレたちの後ろからゾンビの大群が隊列を組んで追いかけてくる。
シュールだな……。
そうして、東門を開けて外に出たオレたち。
「ジン様! わしも来ましたで。」
オオムカデが地中から這い出てきた。
「おお! ムカデ爺や。おまえもよろしく頼むよ!」
「わかりましたですじゃ!」
「本当にオオムカデを使役しておるとは……。これは侮れんわい。」
ケツァルパパロトルさんがつぶやいた。
「うむ。なかなかの冒険者だな。」
オセロトルさんもそれに賛同する。
「マスター! 距離1ドラゴンボイス(約1.6km)、魔物の大群が迫っています!」
「よし! そこへ行こう!」
ジャガー戦士団『オセロメー』、不死者の軍隊『ミクトランの骨部隊』は結集して、魔物の大群が迫ってきている方へ進軍していく。
ムカデ爺やに乗ってオレたちもついていく。
前からリス、ウサギ、イタチなどが走って逃げてくる。
「ラタトスクにアルミラージ、カマイタチや! なにかから逃げてきたようやで!」
「気をつけろ! 来るぞ!」
「オセロトル! 来たんだあよ!? 準備はいいかーい?」
「わかりました! ジャガーの戦士たちよ! 行くぞぉ!」
「「うおぉおおおおおおっ!!」」
「マスター! ラタトスク、アルミラージ、カマイタチは無視して構わないと判断致します! 『テオティワカン砦』の城壁を越えることは不可能でしょう。それよりも、彼らより強力な魔物がこの後におよそ1万匹やって参ります。そちらに備えてください!」
「了解だっ!!」
普段は周囲近くに展開している超ナノテクマシンの一部を周囲数百キロにサテライト式に展開し、その暗視モードで集積した情報を統合し、まるでプラネタリウムのような空間をすべて立体映像で見ることができる、名付けて『プラネタリウム・サテライトシステム』。
その統合された映像情報をリアルタイムで見ていると、魔物の大群はおよそ1万……、たしかに、先行してきたリスやウサギにかまっている場合ではないな。
「ケツァルパパロトルさん! オセロトルさん! リスやウサギ、イタチは無視しましょう。それよりもこの後、約1万匹の魔物がやってきます!」
「なんじゃて!? たしかに……。わかったわい。『ミクトランの骨部隊』よ! 総員、迎撃体制に入れぇいっ!」
魔術師はゾンビたちに指示を与える。
オセロトルさんも同様に、『ジャガー戦士団』に激を飛ばした。
「いいかっ! てめぇら! 気合い入れろっ! 魔物の大群が来るぞっ! 死ぬ気で守れ!」
「おおおお!!」
戦士団のみんながそれに応える。
「ま、死んだらあたしゃが不死の軍団の一員として再雇用してやるから、問題ないがな……。」
ボソリとケツァルパパロトルさんが声を漏らした。
うわぁ……。殉職してもまた軍隊で使われるなんて……。とんだブラックじゃあないか……。
まさに闇の魔術師……。ブラックさがハンパねぇな。
「えっと……。見える範囲で言いますね? 猿の魔物に、豚の魔物、きのこの化け物に……。鬼火のような青白い光の塊も見えるね。大蛇に、巨大な蜘蛛、ライオンに、巨大な鳥の群れも……。うーん。それぞれの数は……っと……。」
「マスター! 補足します。猿の魔物たちが約2千、森オークが約1千、きのこの化け物が約2千、ゆらゆら輝く青白い光の塊が約1千、蛇の魔物が約1千、巨大な蜘蛛の魔物が約1千、ライオンの魔物が約1千、巨大な鳥の魔物が約1千……。合計で約1万匹です!」
「おお! さっすがアイ。紅白歌合戦の野鳥の会のみなさんより数えるの早いなこれ。」
「ほお? コウハクータ合戦という戦場は聞いたことがないが、『野鳥の会』とやらは凄腕と見えるな。冒険者か?」
あちゃぁー……。オセロトルさんなにか勘違いしちゃったぁ!
「まあ、それよりも、猿の魔物はおそらく猩猩(しょうじょう)やコリアンデール、マンダリル、ソンウーコンなどであろう。森オークに、マタンゴ、ウィル・オー・ウィスプもおるんか。」
「そのようですな。レッドバイパー、ギガントタランチュラ、ライオンヘッド、姑獲鳥……あるいはロック鳥か? ふーむ。これはなかなかにしんどい仕事になりそうだな。」
「投槍器フクロウ・ミクトランテクートリ様も動いていらっしゃる。心配なかろうて。」
ふむふむ。どうやら投槍フクロウさんも動いているのか……。
(アイ! ミクトランテクートリさんの動き、わかるか!?)
(彼は……『月のピラミッド』から出て、『太陽のピラミッド』に向かっている状況です。お供はピューマの男と数名の者です。)
(なるほど。やはり名前の通り、投槍器を使って遠隔攻撃で援護射撃が可能なのかなぁ……。)
(マスター。そろそろ戦闘開始です。)
(了解。)
「イシカ! ホノリ! 連戦で悪いが、チカラを貸してもらうぞ!」
「ジン様! 遠慮はいらないゾ! 任せるである!」
「ジン様! 問題ないのだ! 任せろなのだ!」
「ジン様! 爺やも張り切って戦いますぞ!」
「ああ! 頼んだぞ!」
こうして、魔物の大群、スタンピードにオレたちは立ち向かうのであったー。
~続く~
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