第112話 目指せ!Sランク!『ジャガーの宮殿』


 門を入り、サン・ファン川を右手に見ながら少し進むと、いったん川を渡って南の広場に出る。


 その広場の東方には巨大な神殿があった。


 『ケツァルコアトルの神殿』だ。



 「この『テオティワカン砦』を防衛してるんは、エルフのノヴァステカ種族なんや。だからノヴァステカの妖精龍ケツァルコアトルはんを祀ってるっちゅうわけや。」


 サルワタリがそう言って目の前の神殿を指差した。


 「ケツァルコアトルか……。オレも名前は知ってる。」


 「そうでっか! まあ、ケツァルコアトルはんは『エルフ国』では知らんもんはおらんさかいな。」




 神殿の周りは80ドラゴンフィート(400m)四方をシウダテーラと呼ばれる城砦で囲まれていて、その扉は固く閉じられていた。


 オレたちはその神殿の前から、北に曲がり、またサン・ファン川を越えて、大通り『デッドマンズロード』に出た。


 右斜め前方・この砦の東方部分には巨大なピラミッドが建っていた。


 これが『太陽のピラミッド』である。高さは13ドラゴンフィート(65m)で、ピラミッドの頂上部分にまで248段の階段が設置されていた。




 そして、大通りの正面、北方向……、おおよそ2ドラゴンボイス(約3.2km)には『月のピラミッド』が見える。


 高さは『太陽のピラミッド』より低く、おおよそ9ドラゴンフィート(約45m)である。


 そして、大通り『デッドマンズロード』は幅8ドラゴンフィート(約40m)でその両隣に大小の店が立ち並んでいた。




 「まあ、ここは軍事基地の街ってところやな。旅のもんには一時の補給地ってことや。宿泊施設がないのも、ここが基地やからっちゅうことでんな。」


 「なるほどね。怪しいものじゃなければ通すけど、めったやたらと泊めたりしないのは防衛拠点だからってわけか……。」


 「そういうことや。ほな、食糧や必要なもん買うて、はよ休みに行きましょか。」



 「イシカもなにか食べたいである!」


 「ホノリも少しおなかが減ったのだ!」


 「こら! ふたりとも! マスターのご意向をお聞きしてからにしなさい!」




 (マスター。イシカとホノリはその内蔵された『内臓エンジン』で消費したエネルギーの回復をはかりたいと要求しておるようです。いかが致しますか?)


 (なるほど! 機械の体でも生体金属・ライブメタルだったね。だからお腹もすくってわけか……。)



 「よし! そうだな! 先にご飯にしようか!? アイ! ムカデ爺やのぶんはどうする?」


 「はい。ご心配ありません。すでにさきほど牛のシチューを巨大鍋いっぱい与えてきております。」


 「さすが! アイに抜かりはないね。」


 「いえ。それより、では、外食にされますか?」


 「そうだね。やっぱ、知らない土地に来たらそこの料理を食べてみたいっていうのが……、旅ってものだろ!?」


 「イエス! マスター!」




 「ジンのだんな。それやったら洞窟レストラン『La Gruta(ラ・グルタ)』が美味いって評判やで。」


 「おお! さすがは情報屋! いいね。そこにしようか?」


 「いいね。サルワタリ! 有益であるゾ!?」


 「いいな。サルワタリ! 役に立つのだ!」


 イシカもホノリも上機嫌だな。まあ、あの『レール・ガン』を使って消耗したんだ。早く回復させてあげたいのはオレも賛成だ。




 太陽のピラミッドの近く大通りからまっすぐサン・ファン川にあった看板に沿って砂利道、芝生を暫く進むと……洞窟が現れた。


 上から洞窟内部にあるレストランを覗けるようになっているが、雰囲気がなんだか抜群にいいねぇ!


 さっそく階段を下りていくと、オウムの従業員に席につくように案内された。



 「いらっしゃいませ。当店洞窟レストラン『La Gruta(ラ・グルタ)』へようこそ! 私は店主イラマテクートリです。どうぞごゆっくり!」


 挨拶をしてきたのはオウムの店主イラマテクートリだった。どうりで従業員もオウムなわけだ。




 食事はモーレだという。モーレといえばメキシコ料理でソースを使用する料理一般のことだ。語源は、ナワトル語で「ソース」を意味するんだったっけ……?


 カカオチリソースのチキン料理……だな。うん。間違いない。



 「神の食べ物『カカ王』とライオンヘッドの肉のソースで味付けした姑獲鳥(こかくちょう)の料理です! 最高でしょう!?」


 店主イラマテクートリがそう説明してくれた。


 ぶっ……! 姑獲鳥って……来る時に聞いたあの不気味な鳴き声の鳥じゃあないか!




 出された飲み物テカーテというブランドのエールをすぐに飲み干す。


 うーん、だけど味は最高だな……。材料はどうか知らないが……。たぶんカカオ? が多少甘くて、ほどよいかんじだ。


 ライオンヘッドソーズ……獅子の頭……シシトウで唐辛子、、、チリソースなのかな? とにかくソースもそんなに辛くなくて丁度良い。




 レストラン内部は洞窟なので寒いかとも思ったけど……ぜんぜん平気だった。


 あ! ……そういえばオレの身体はエアコンモードだったわ。



 (マスター。そのとおりでございます。少しこの内部は外に比べると気温が低くなっております。)


 (やっぱりそうかぁ。)



 「ジン様! この鳥料理、美味であるな!」


 「ジン様! このチキン料理、美味しいのだ!」


 「どや!? ジンの旦那。ここの店は『エルフ国』でも有名なんや。美味いでっしゃろ!?」


 「まあな。サルワタリは本当にいろいろ詳しいな。いや、協力体制を組めてよかったよ。これからもよろしくな!」


 「ジンの旦那ぁ……。わてのこの見てくれは醜いやろ? 普通のもんはわてら『ヤプー』の民を差別して、利益でしか信用せーへんのや。特に『馬国』のやつらは……。それを、だんなは……。だんなに着いてきてほんまよかったと思てるんやで?」




 美味しい料理をたっぷり堪能したオレたちは、洞窟レストランを出た。


 「ありがとうございましたー! またお越しくださいー!」


 店主イラマテクートリが見送ってくれる。


 「ああ! また来ますね。」




 そして、その後夕暮れの中、デッドマンズロードを歩き、食糧や水などを購入し、門番のオセロトルさんの家『ジャガーの宮殿』を目指した。


 なにやら、ものものしい警備の兵がいる。


 『ジャガーの宮殿』の真ん前が『ケツァルパパロトルの神殿』だからか?




 「あれがこの砦の長官ケツァルパパロトルはんの宮殿やな。まあ、実質の指揮権はアトゥラトゥル・ミクトランテクートリはんっていう『投槍フクロウ』とあだ名されるおヒトやっちゅう噂やけど、どこにおるかは不明っちゅうのや。まあ、軍の機密っちゅうことやろな。」


 「なるほど。まあ、オレたちには関係ないな。とりあえず、今晩はオセロトルさんのご厚意に甘えさせていただこう。」


 「そうでんなぁ。」




 オレたちは『ジャガーの宮殿』を訪ねた。


 「すいませーん! オセロトルさーん。ご厚意に甘えて来ましたー。」


 すると奥からジャガーの男オセロトルさんが出てきた。




 「おお! よく来たな。まあ、狭いところだけど上がってくれ。」


 「いえいえ。この辺りじゃ一番の邸宅じゃあありませんか?」


 「ははは。面積だけだよ。さあさあ。遠慮なくどうぞ。」




 オセロトルさん……見た目はジャガーの顔で怖い人かと思ったけど、ホント優しい人だなぁ。



 「なにか食べてきたかい?」


 「あ、はい。洞窟レストラン『La Gruta(ラ・グルタ)』で夕食を食べてきました。」


 「そうかぁ……。そりゃよかった……。」





 そう言ったオセロトルの目がキラリと光ったように見えたのは気のせいだったのだろうか……。





 こうして夜も更けてー。



~続く~


※参考に。

カカオ豆は、古代メキシコで栽培が始まりましたが、アステカ神話によるとカカオはケツァルコアトル(羽を持つヘビの神)が贈り物として持ち帰ったもので、それを中米地域で栽培したものだといいます。 神話の中で、カカオ豆は天から授かった食べ物だから「神様の食べ物」というようです。



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