第95話 波紋と波動 『コタンコロと龍国』


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 レムリア大陸のはるか上空にある浮遊大陸『マゴニア大陸』に『龍自由連盟』の首都ニビル・シティがある。

その雲海湾の真ん中にある『天空城ラピュタリチス』に、コタンコロは来ていた。


 八大龍王が一龍でもあり、『龍国』の元首アヌと対面をするためである。


 東方の海上を支配している冥龍王ネルガル・メスラムタエアを除いて、地上のレムリア大陸に散らばってそれぞれ領地を持ち、独立して自由に支配しているのだ。よって天空を支配しているのはアヌだけであり、他の八大龍王よりもアヌは格上の存在とみなされているのだ。




 「うぬがコタンコロか……?」


 龍王アヌが問いかけてきた。



 「はい。龍王閣下。お初にお目にかかれて光栄でございます。我はコタンコロと申す者。はるか南方から参りました。」


 コタンコロがよどみなく返事をする。




 「南方……であるか……。うぬは『エルフ国』の者か?」


 「いいえ。我はマスター・ジン様にのみ仕えし者。どこの国家にも属していません。」


 「なんと……!? 個人であれほどのゴーレムを運用しているのか……。」


 「我が主は、文芸復興の伝道者。今後は空路を使って大規模に交易を広げていく所存。『龍国』ともよしみを通じたいとお考えなのです。」




 「空輸だと!? それはいまだどの国家も行っておらぬ。」


 「我が主はそのために我をこの地に派遣なされた。大型の飛行生物を捕獲するために……。」


 「なんと!? コタンコロ殿よ。うぬは、なぜ、どの国家も空輸を行っていないか理解しておられるのか?」




 「それは、なにか空輸ができない理由があるということです?」


 「ふむ。そのとおりである。領空侵犯は宣戦布告とみなされるのじゃ……。」


 「なるほど……。……では、逆に言えば同盟を結んだ国家同士なら問題ないということですな?」




 「それは……!? そのとおりであるな! 今までそれを行おうと発想するものはいなかったぞ? うぬの主は、そこまで考えているということか……?」


 「もちろんでございます。この『龍国』と我が『霧越楼閣』とを結ぶ航路にはバビロン地域と『エルフ国』があるのみである。さらに、我は『龍国』まで無抵抗で来ることができた……。この事実は、つまり『龍国』『エルフ国』『バビロン地域』を結ぶ空輸便は可能だということを示している。」


 「アヌ様。この者のいうことは概ね正しいと思われますぞ? 空輸が可能となればこの『龍国』はさらなる発展が期待できるかと思われます……。」


 龍王のそばで聞いていたエンキが口添えをした。




 「父上! それはエンキの申す通りだと私も思います。……が、しかし! 先日の魔力爆発の件をお忘れか? 『エルフ国』は今、戦争の準備をしているやもしれませんぞ!?」


 『龍国』首相エンリルが意見を挟んできた。


 先日の『赤の盗賊団』の事件の後、エンリルは調査隊を派遣していた。


 まだその報告は返ってきていないのだ。




 「たしかに……。エンリルの申すことは懸念事項ではあるが……。しかし、このコタンコロ殿が今こうしてこの『龍国』に、しかも空にある『マゴニア大陸』にまでやってきたということをお忘れなく……。かの魔力爆発の件は、タロエルの帰還を待ってから判断すればよろしいかと存じますぞ。」


 「エンキ! エンリルの言うとおりですよ! 『エルフ国』と戦争にでもなれば交易などと言っていられませんよ!?」


 エンキに対してキ夫人が反発する。


 「うぬぅ……。エンキの意見もエンリルの意見も一理あるのぉ……? コタンコロ殿はそのあたりのことをどう考えておるのだ?」




 コタンコロはだまって聞いていたが、ニヤリと笑い口を開いた。



 「龍王よ……。その魔力爆発とやらは我が主・ジンがすでに解決した事案……。『エルフ国』に戦争の意思はないと判明しておりますよ。」


 「なに!? どういうことだ? コタンコロ殿。詳しくお聞かせいただけるか?」




 「はい……。実は……。」



 こうしてコタンコロは『龍国』に早い情報をもたらした功績もたたえられ、龍王アヌから今後『龍国』と交易をするための許可をもらった。


 その後、『龍国』にも『七雄国サミット』開催の報が伝えられることとなる。


 コタンコロからの情報により、正確に情勢を掴んでいた『龍国』は慌てることなく、参加に臨むのであったー。





 ****



 ……ところで、『龍国警備隊』のタロエル、レオネルとアストラエルはというとー。




 「タロエルよ? どうもこちらの方向は、『エルフ国』ではなくないですか!?」


 「いやぁ……? まっすぐ来たのではなかったかな? なあ? レオネル兄さん?」


 「いや、アストラエルよ……。どうもここは淡水の海『アプスー』の上だ。方角を間違えたようだ。それに……、あちらに見えるのは……なんだ!?」




 三人の前に現れたのは、なんと霧に包まれた巨大な船だった……。


 海洋に漂う不気味な船……。


 その船上には人影は見えず、氷のスフィンクスの彫像が見えた。




 「なんとも大きな船だな……。こんな巨大な船は見たことがない。」


 「タロエルよ。これは、4万6328トンと推定される。煙突は4本見えるが、4本目は黒煙が排出されていない……。ダミー的なものかもしれないな……?」


 「レオネル兄さん。魔力タービンの換気用かもしれませんね。」




 その船には誰の姿も見えなかった。


 これほどの巨大な船なら、乗組員が少なくとも500~1000人、乗客乗員は合わせて2000人以上は乗っていると思われるが……。


 北の氷が漂う海にこれほどの巨大な船が人影も見せずに漂っているのだ。




 「あれ? あそこに、何やら文字が書いてあるのが見えますね……。」


 「うーむ。『七雄国文字』ではない文字ですねぇ……。古代文字か?  RMS Titan……? 削れてしまって読めないな。」


 「さすが博識のレオネル兄さんですね。RMS Titan……って、タイタン? 巨人……『巨人国』の船か!?」




 すると、その船の上から歌が聞こえてきた!


 『Nearer, my God, to Thee, Nearer to Thee! E'en though it be a cross That raiseth me; Still all my song shall be,. Nearer, my God, to Thee, Nearer, my God, to Thee, Nearer to Thee!!』


 「こ……これは!?」




 彼らの目の前に突然、巨大な氷塊が出現し、その巨大な影で覆われ、一瞬にして辺りが暗くなったのだ!


 避ける時間もなく、そのまま氷塊と衝突してしまう。




 「ぐはぁっ!!」


 「ぐあああっーーっ!!」


 「この……魔法は……!?」




 彼らは氷塊とともに冷たい海の中に落ちる……。


 そして、大渦が海に出現し、飲み込んでいく。


 その巨大な渦と、大波にもその船はまったく動じることもなく、佇んでいる。




 船の周りを無数の青白く光る灯が輝いていた……。



 それは、この海域を彷徨う……『幽霊船』だったのだー。




 『巨人国』のあるゾティーク大陸西方には氷に包まれた大陸・北極大陸があり、そこを隔てる海には巨大な氷河が両大陸をさえぎっている。


 その南方には淡水の海『アプスー』の氷の海域が広がっているのだ。


 そこにははるか過去の遠い昔から、いつからさまよっているかもわからない『幽霊船』の伝説が存在するのだ。





 氷の海の海域でそれと出会って、生きて帰れたものはいない……と。






 その後、彼らの姿を見たものはいないという……。




~続く~


©「主よ 御許に近づかん」( Nearer, My God, to Thee)」「讃美歌」320番。(詞は『旧約聖書』創世記28章11節・12節を基にサラ・フラー・アダムス/旋律:ローウェル・メイスンによって書き起こされた「ベサニー(Bethany)」が基)


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