波紋と波動

第91話 波紋と波動 『ナナポーゾと長老タイオワ』


 ****



 『円柱都市イラム』でスワンプマン事件を引き起こしたナナポーゾは魔女ランダに連行され、バロン男爵の『ウブドの屋敷』に来ていた。


 部下のコヨーテ・スピリットも一緒に捕まって、今は屋敷の牢獄に入れられている。


 ナナポーゾがバロン男爵に対面するため、謁見の間の前に引き連れられてきた。




 ナナポーゾとバロン男爵とは同じ『エルフ国』の出身であり、さらに顔見知りの間柄でもあるが、その種族は異にする。


 バロン男爵は、エルフの中でも白エルフと呼ばれる種族で、その種族の長老はオベロン、ホルダと2人の長老が占める最大派閥のひとつである。


 対して、ナナポーゾは長老タイオワのネイチャメリカ種族である。


 しかしながら、ネイチャメリカ種族は、『フェアリーブック』という世界規模の商集団を築いた誇りある種族なのだ。なにも卑下するところはないとナナポーゾは思っている。



 「バロン男爵。ナナポーゾのヤツを連れてまいりました!」


 ランダがそう言って、部屋に入る。




 部屋の奥にバロン男爵はいた。


 威厳のある獅子の顔に、ぎょろりと飛び出した目、白い体毛、黄金のたてがみ・髭のある頭に冠をかぶっていた。


 タキシード姿にステッキを持っており、宝飾で飾られた椅子に腰を掛けている。




 「ナナポーゾ。久しいのぉ。」


 「バロン男爵にはご無沙汰しておりました。お元気そうで何より。くくく……。」


 「貴公は相変わらずのようだな。奇妙な実験をしていたとか?」


 「ええ。魔法の探求に終わりはないのだよ。君みたいな俗物にはわからんのだろうけどな……。」


 「ふぅ……。ま、貴公の処遇は、我が『ユグドラシルの長老』タイオワ様と話し合うとする。」




 「くくっ……。まあ、俺様はかつてギガントマキアであの巨人の英雄を殺した男だからな! おまえごときが、そんな不遜な態度を取ること自体、本来は許されんのだぞ!?」


 そう言い残し、ランダとナナポーゾは部屋を出た。



 「ナナポーゾめ。過去の栄光をいつまでも誇りおって……。農園の被害は甚大……。この冬の『イラム』の食料をいったいどうする……? 頭が痛いわ。」




 また、牢屋に戻されたナナポーゾ。


 「兄貴! バロンのやろうなんて、ぶっちめればいいんですぜ!」


 コヨーテが息巻いて鼻を鳴らす。



 ナナポーゾはこのコヨーテが昔、可愛がっていた巨人族の子どもを思い出す。


 あのかつての戦争で、戦争孤児になった子をコヨーテは育てたことがある……。


 こう見えて、このコヨーテも優しいところはあるのだ。




 「まあ、そうもいかねーんだよ。それに……。バロンのやつはまだいいんだ。バロンのやつ……はな。」


 「え? どういうことで?」


 「おまえなぁ……。あの心臓を魔神掴みにされたようなあの女の恐ろしさがわからなかったのか!?」


 「へ? あの女って誰のことですか?」




 ああ……。このコヨーテのやつは、恐怖のあまり、あのときのこと記憶喪失にでもなったのか。


 あれは恐ろしい……。逆らってはだめな存在だ……。


 ナナポーゾは早く森に帰りたい……そう思うのであった―。





 ****



 『エルフ国』の鉄の森・ヤルンヴィド。フェンリル狼の棲む森としても有名なこの大森林の東方に流れるリンヌンラタ(天の河)。


 その川岸の都市ミタクェ・オヤシン。


 『ユグドラシルの長老』の一人、ネイチャメリカ種族の長老でもある長老タイオワの館『牧師館』に、使者が来た。




 それも、四組もほぼ同時に……。


 これにはタイオワも驚いた。


 ひさかたぶりの訪問者かと思えば、四組も……!




 ひと組目は、『法国』からの使者である。


 しかもかの法国執政大統領ゼウス・オリュンポスその人からの使者であり、直下の近侍カリスト殿とエウロパ殿である。


 先の魔力爆発についての情報をお求めのようである。



 しかし、とても美しい乙女であるがその腕は似つかわしくないほど毛深いカリスト女史。


 青銅製の自動人形(オートマータ)と鋭い目をした猟犬を連れているエウロパ女史もやはり美しい女性であった。


 ふたりともゼウスの愛人という噂があるが、他国のことで詳細は伝わっては来ない……。


 まあ、ゼウス大統領は、見たところ好色そうな顔をしておったがの。






 ふた組目は、なんと『巨人国』からの使者、ギャールプ殿とグレイプ殿である。


 こちらも巨人の王ウートガルティロキ様からの直接の使いだ。


 正直、『エルフ国』と『巨人国』はそれほど親密ではない……。


 かつての大乱・ギガントマキアでは『巨人国』の英雄・ポール・バニヤンをレッド湖スケトウダラでの40日間の戦いで我がネイチャメリカの奇才ナナポーゾが討ち取ったのだ。



 もちろん、それだけではよしみを通じるわけもないが、その後、孤児となった巨人の子をナナポーゾの部下コヨーテが引き取り育てたのだ。


 彼は今や『巨人国』のスーパースター、立派な勇者に成長したのだ。


 その縁もあって、ネイチャメリカ種族と『巨人国』は比較的、交流が深いのだ。


 そういう事情もあって、この長老タイオワに使者を寄こしたといういきさつがあるのだ。




 三組目は、同じ『ユグドラシルの長老』が一人、今や『法国』の守護者でもあるオベロン・アーサー・ペンドラゴンからの使者のマダム・レイク・ヴィヴィアンである。


 どうやら、オベロンのやつは、先の魔力爆発を危険視し、長老会議を開こうと画策しているようだ。


 これにはタイオワも異論はない。


 しかし、マダム・レイクが持ってきた情報はそれだけではない。


 オベロンの娘っこから聞いたところによると、その魔力爆発を押さえた者……ジンという冒険者らしい……が『円柱都市イラム』にいるらしい。


 タイオワは、そっちのほうにむしろ興味が湧いていた。




 そして、最後の四組目は、これまた『エルフ国』の大貴族、バロン男爵からの使者で、戦士バロン・タイガーであった。


 これがまた、今話をしたばかりのそのナナポーゾめが、悪さをしたという報告である……。


 しかも、聞くところによると、そのナナポーゾを捕らえた者がかの冒険者ジンだというのだ!


 これほど、いろんなことが関係してくるのは、ウロボロスの蛇の絡み合いか! ……って思うくらいじゃ。




 長老タイオワはここで一気に情報をまとめて伝えることを思いついた。


 それぞれ個別に対応するのはもう面倒だから、みなを一同に集めてしまえ! ……と。



 そしてみなを一同に今、集めたというわけだ。




 「カリスト女史にエウロパ女史よ。先の魔力爆発については『エルフ国』の者の犯行だったようじゃ。お騒がせしてすまないの。じゃが、そやつはもうすでに討伐されたとの報告を受けておる。」


 「ほう? それはそれは。しかし、かの呪文は戦時にしか使わない、しかも自己犠牲呪文だと解釈しているが……? まさか『エルフ国』はいずこかと戦争を?」


 鋭い目をしたカリストが答える。




 「いや。カリスト殿。それは絶対にないとそれがしが保証する。」


 バロン・タイガーが即座に否定する。


 「あなたは何者なんですか?」


 エウロパが質問する。




 「それがしは『エルフ国』のバロン男爵の配下、バロン・タイガーでござる。」


 「ほお? あの森の王バナスパティ・ラジャの配下とは……。それは『エルフ国』を代表しての意見と考えてもよいな? 二言はないか!?」


 そう言ったのは巨人族の女ギャールプである。


 『吠える者』と称される彼女らしく、さっそく吠えたようだ。




 「それは、私も保証しますわ。あの魔力爆発を起こしたものは『エルフ国』のはみ出しもの、レッド・キャップ種族のものでしたわ。」


 そう言ってバロン・タイガーを肯定したのは、マダム・レイクであった。


 マダム・レイクは当事者のベッキーから話を聞いている。





 「……ということじゃ。これは禁呪とされた『魔王』の使用についてと、その背後で暗躍した『不死国』の是非について、世界に問わねばならんのぉ?」


 タイオワがみなにそう語り、みなはおのおの肯定の意を示した。





 「二百年ぶりかの? 『七雄国サミット』を開催するのは……。」




~続く~

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