第43話 赤の盗賊団 『終結』
ものすごい爆発音とともに、一点からほとばしるほどの超絶エネルギーが一気にスパークし、ミトラ砦は崩壊した・・・。
ズガガガガァーーーーァアアアアアアーーーーッン!!
砂埃が、周囲に飛び散り、粉塵が立ち込める。
もわもわ・・・。
煙がだんだん薄れ・・・。
人影が見えてきた―。
砂煙が晴れたその場所は、何もなかった。
ミトラ砦のあった場所、周囲の森林も何もかも、おそらく百キロ以上、四方にわたって何もなくなり、半球状にえぐり取られていた・・・。
だが、その中心に、盾を構えたアテナさんが立っていて、その背後にいたオレたちは無事だった。
「ぷふぅーー。これはヤバかったな。」
アテナさんがそう言ってオレたちのほうを振り返った。
なんとも眩しい限りの美しい笑顔。正統派な笑顔って感じの印象を受けた。
女神級とでも言えばいいのだろうか。一瞬、目を奪われた・・・。
が、すぐに現実へと引き戻された。
「うわぁーーーーあああん・・・。おっとぅ! おっとぅーーーっ!」
それはレッド・ズッキーニャが泣き叫ぶ声が響き渡ったからだ。
オレたちはかける言葉もなく、ただただ、静かに周囲を見ていたのだった。
アテナさんがオレに声をかけてきた。
「正直、この威力、わたしたちの氷結防御呪文で守り切れたとはとても思えん。ジン殿。卿の助力があったのであろう?」
「ああ。まあ。はい。この周囲すべてに防御フィールドの電磁場を張り、爆発のエネルギーを球状にそらしたんです。」
「む・・・。な・・・何を言っているのかはわからんが、とにかく助力いただけたのだな。感謝する。」
「うむ。貴公は本当にすごいな。英雄級に匹敵すると私は思うぞ。」
グラウコーピスさんもそう言ってオレを持ち上げる。
「で、ありますね。魔力を感じさせないそのスキル。感服です。」
エリクトニオスまでそう言ってきた。
「ジン様はすごいんですねぇ! ニーケもびっくりです!」
ニーケさん・・・。
「いえ。オレなんかたいしたことはしていませんよ。」
と、オレは謙遜してみたが・・・。
「いやいや。ジン殿がたいしたことがなかったら、私どもは何もしていなかったことになってしまいますよ! なあ? エンキドゥ。」
「ええ。まったくです。自覚してくださいよー!」
ギルガメシュ兵長とエンキドゥもそう言ってきた。
「まったく、そのとおりですわ。マスターの活躍がなければ、ワタクシたちは82%の確率で全滅の可能性がありましたよ。」
「そうだそうだー! ジン様はすごいんだよー。」
「そのとおりでございますね。ご主人様はそして大変慎み深いのです。」
「イシカもジン様はすごい働きと思うぞー!」
「ホノリもジン様は圧巻の活躍であったのだ!」
アイと3つの下僕たちがさらに輪をかけてオレを褒めちぎる・・・。や、やめてくれぇ。照れる・・・。
実際、オレ・・・、なぁーんもしてなくね?
「ジン殿の功績は大きかったのは間違いないな。」
ヘルシングさんまで渋い声でそう言ってきた。
「いえ。ヘルシングさんこそありがとうございました。」
オレもヘルシングさんは本当に心強かったと心底思ったのだ。
「ジン殿。いや、ジン様。本当に助かりました。今回の作戦、ジン様がいなければ、我らは全滅でしたよ。」
「本当に我らグースカ衆もみな感謝しています。」
「本当に。すごい人ですねぇ。ジン様は。ああ! コタンコロ様! ありがとうございました!」
マザーさん、マンさん、ツンさん・・・。
「いえ。間に合ってよかったです。」
「我はご主人様の命に従ったまで。感謝は我が主へ。」
「ありがとうございました!」
「ふ・・・ふふん! まぁ、認めてあげてもいいわよ。」
「べ・・・ベッキー様。認めるも何も最初から勝負になってませんけど!?」
パックとベッキーって仲が良いんだな。
オレは隅っこでうずくまって泣いているレッド・ズッキーニャのそばに行った。
「君の名前は・・・えっと・・・。」
(マスター。サタン・クロースにズッキーニャと呼ばれておりました。)
(そうか。ズッキーニャだな。)
「ズッキーニャって言うのかい?」
「うう! おめぇたちがおっとぅを! おっとぅを・・・。」
「そうだね。オレたちは君のお父さんと戦った敵だよ。」
「おっとぅを返せ! 何もかも奪っていく悪者たちめ!」
「うん。君から見ればオレたちは悪者なんだろうね。」
「うう。うう・・・。」
「でも・・・。あそこにいるカシム・ジュニアくんは、君のお父さんに彼のお父さんを殺されたんだよ。」
そう言ってオレは、荒れ地になったミトラ砦跡地をじっと涙を溜めて見つめているジュニアくんを指差した。
「え・・・?」
ズッキーニャはジュニアくんを見た。
肩を震わせ、涙をこらえるジュニアくんもこちらに気がついたようだ。
こちらに歩み寄ってきたジュニアくんが、ズッキーニャを見て声をかけた。
「君もつらかったね・・・。行くところがないようなら、僕たちと一緒に来るかい?」
「え・・・。あなたはお父を殺されたんじゃないの? あたしが憎くないの? あたしはあなたの父のカタキの子なのよ!?」
「うん・・・。それはわかってるよ。でも、君に罪はないだろう?」
ジュニアくん・・・この戦いで本当に大人になったなぁ。
オレは自分の子が大人になったかのように、感じてしまった。
ちょっと、泣きそう・・・。
「ジュニアくん。君はもうりっぱな大人だよ。そして、立派な当主になったね。」
「ジン様! う・・・うぅ・・・。僕は! 僕は! 当主になんてまだなりたくなかった! 本当は父にまだまだ当主として教わりたかった!」
「ああ。そうだね。わかってるよ・・・。」
「ジン様ぁーーーっ!!!」
ジュニアくんがオレに抱きつき、おいおいと泣いた。
そして、オレはズッキーニャを優しく抱き寄せ、頭をなでて、こう言った。
「君も思い切り泣くといい。今は・・・。」
「うっ・・・。うう・・・。うわぁあああああああっん!」
二人はただただ思い切り泣くのであった。
「坊っちゃん・・・。ぐず・・・。カシム様! 坊っちゃんは立派な当主になりやすよ・・・。」
ジロキチも涙を拭い、ジュニアくんをただ見守っていた。
そんなオレに抱きついている二人をなんだか殺気のある目で見ているのは、アイとヒルコとイシカ、ホノリ、コタンコロの下僕たちだった・・・。
いや・・・。嫉妬!? こんな場面で? ちょっと・・・みんな、オレのこと好きすぎるんじゃないか?
オレはそっと二人を離し、二人の頭を撫でた後、アイ、ヒルコ、イシカ、ホノリ、コタンコロの順に彼らの頭も撫でてあげるのだった・・・。
ここに来る前に乗ってきた竜馬は全部、いなくなってしまっていた。
馬車も爆発に巻き込まれたのだ。
帰る手段が・・・。
「ご主人様! 我にみなを乗せて戻りましょう。」
コタンコロがそう言ってくれた。
「そうだな。そうしようか。歩いて帰るのも・・・なんだかなってなるしな。」
すでに歩いて帰る準備をしていたアテナさんや、ギルガメシュ兵長らにオレはその旨を申し出た。
「何!? 本当か!? 卿には本当に頭が下がる。感謝いたす。」
アテナさんたちは嬉しそうにそう言ってくれ、早く帰れることに素直に喜んでいた。
だが、ギルガメシュ兵長とエンキドゥの二人だけは、なぜだか、なんとも引きつった笑いを浮かべていた。
そして、コタンコロが巨大なフクロウの姿になり、みなを背中に乗せて、円柱都市イラムに向けて、飛び去ったのだった―。
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます