第41話 赤の盗賊団 『最後の抵抗』
信じられないほどの攻撃がサタン・クロースへと降り注いでいた。
ヘルシングさんのボウガンの矢がサタンの身体のあちこちに突き刺さる。
アテナさんの槍がサタンの肉体を貫く。
グラウコーピスさんの剣がサタンを切り裂き、エリクトニオスさんのレベル5の砂魔法『砂山』の砂嵐がサタンを打ちつけた。
サタンはそのたびに異常な回復力を見せ、戦斧の反撃に出た。
アテナさんがそれをことごとく『アイギスの盾』で防ぐ。
その間、ヘルシングさんが、自身の魔力を増幅させていた。
『Amazing grace!(how sweet the sound) That saved a wretch like me! I once was lost but now I am found Was blind, but now I see!!』
(素晴らしき恩恵よ(なんと甘美な響きよ)。私のように悲惨な者を救って下さった。かつては迷ったが、今は見つけられ、かつては盲目であったが、今は見える。)
レベル5の魔力増幅呪文だ!
これにより増幅させた魔力に、聖なるチカラを乗せた剣で敵の魔核ごとその存在を断ち切るヘルシングさんの秘剣―。
「アイ! 超ナノテクマシンでヤツの動き、止められないのか!?」
「マスター! 見えない障壁がサタンの周囲を取り囲んでいます。おそらくは魔力かと推測されます!」
「なるほど! また感知できない不思議パワーか・・・。まるでダークマターだな。」
「ジン様ーっ! ヒルコの消化液で溶かすよー!?」
「おお! やれぇ! ヒルコ!」
ヒルコがそのメイド姿を解き、粘体ボディになって、サタン・クロースへと襲いかかった。
「ホイホーイッ!!」
強烈な酸性の消化液をヒルコがジェット噴射のごとく吹き出した。
しかし、サタン・クロースは今回は対抗手段を考えてきていたのだ。
「同じ攻撃は効かぬわーっ! 氷魔法『氷にさえわたり』だ!」
『あらしの吹けば立ち待つに、我(あ)が衣手に置く霜も氷(ひ)にさえわたり降る雪も凍りわたりぬ、今さらに君来まさめや!!』
サタン・クロースの周囲に凍気が発せられ、ヒルコの消化液が凍らされた!
「ああー! 僕の消化液が効かない!」
「ロケット・ナックルゥーーーッ・・・パァーーーッンチィーーッ!!」
イシカがその腕を砲弾のように打ち出した!
サタンはそれを戦斧で打ち払い、目の前のグラウコーピスに斧を振り下ろす!
それをエリクトニオスの砂嵐が防御に入り、グラウコーピスが後方に退きかわした。
「いいぞ! 退け!」
ヘルシングさんが増幅させた聖なる魔力を乗せた剣を構え、斬り込んだ!
「聖ルシアァアアーーーッ!!」
クロス十字に一瞬で斬りつけた!
サタンは斬られた瞬間、十字に裂け、血が吹き出した・・・。
「ぐおおおおおーーっ!」
だが、次の瞬間、その斬り裂かれた身体を自ら張り合わせるように両手で挟み込み、くっつけたのだ。
「なにっ!? 魔核を斬ったはず・・・!」
「我はその技は見た! 魔核は・・・斬られる瞬間に剣の軌道から避けたのだわーーーっ!!」
そして、その戦斧を振るい、その暴風から真空が生まれ、ヘルシングさんに襲いかかった!
「くっ・・・!」
ヘルシングさんはマントを翻し、後方に飛び退いた。
シュパパッ!
そして、そのかまいたちにより、ヘルシングさんの額から、血が流れ落ちた。
サタン・クロースはたった一人でオレたちと戦っていた。
だが、その動きもだんだんと精彩を欠き出していた・・・。
サタンの攻撃が空振りをし、アテナさんの槍や、グラウコーピスさんの剣、ヘルシングさんの剣が斬っている時間が長くなってきたのだ。
そんな中、ベッキーが呪文を繰り出した。
「みんな! 私があいつの動きを止めるわ!」
『童(わらべ)はみたり、野なかの薔薇(ばら)、清らに咲ける、その色愛(め)でつ、飽かずながむ、紅(くれない)におう、野なかの薔薇!!』
(レベル3の植物魔法『野ばら』! 草木を操る魔法です!)
(なるほど! それでヤツの動きを止めようというのか!?)
地面から植物のつるが一気に生えてきて、サタン・クロースの身体に巻き付いた!
「ぐぬぬ・・・!」
サタン・クロースの動きが鈍り、戦斧を振るって草木のつるをちぎるが、それ以上の速さで、草のつるが伸びてまとわりつく!
「トドメだっ!!」
エリクトニオスさんが魔法を解き放つ。
『Oh when the saints, Go marchin' in,Oh when the saints go marchin' in. I want to be in that number, when the saints go marchin' in!!』
それは闇を払う聖魔法『聖者の行進』だった。
エリクトニオスの周囲10ドラゴンフィート(50m)の範囲から邪気が払われ、その闇魔法の効果を打ち消した。
サタン・クロースの身体から魔力が打ち消されていく・・・。
「こ・・・こんな! もはや、これまでか!? 魔神王よ! 我が最後の願い! 聞き届け給えぇい!!」
『夜の風を・・・ボソッ・・・。可愛い坊や、私と一緒においで!・・・キレイな花も咲いて、黄金の衣装もたくさんある・・・。ボソボソ・・・。』
サタン・クロースはボソボソと何かの魔法をすでに唱えていた・・・が!
そこへ、呪文が唱え終える前に、一瞬早く、アテナさんがその聖なる槍を構え、一気に突き出す!!
正当に鍛えられたであろうアテナさんのその槍が正確にサタン・クロースの左胸を貫いた!
この世界でも急所・・・魔核っていうのか・・・は、心臓の部分、左胸のようだ。
血が噴水のように一気に吹き出す!
「やったか!?」
「今のは確実に魔核を貫いている。終わりだ。」
ヘルシングさんもそう確信しているようだ。
「ぐ・・・ぐあぁあああああぁ・・・あぁーっはっはっはっははぁああーーーんっ!!」
吸血鬼って断末魔の叫びがどうも喜んでいるみたいに聞こえるって特徴があるのか・・・?
先に殺ったヴァン・テウタテスたちもこんな叫び声を上げていたんだよなぁ。
だが、サタン・クロースのやつはなんだか様子がおかしい。
「ぐふ・・・ふふふふふ・・・。きざま・・・らも、道連れだ・・・。我が種族は、英雄の種族・・・。ただでは死なん・・・。」
なんだか、サタンのやつから異様な気配を感じる。
(アイ! 何かおかしい! わかるか!?)
(何かエネルギー数値が異常に膨れ上がっています! 魔力を超高圧のエネルギーに変換していると推測されます!)
(また不思議パワーか! ここは緊急避難だ!)
(イエス! マスター!)
「なにか危険だっ! みんな逃げろ! この場にいるのは危ないっ!!」
オレはみんなにそう警告した。
「まずいっ! ヤツの魔力が暴走している!!」
ギルガメシュ兵長がそう叫ぶ。
「この・・・膨大な魔力はいったい・・・!?」
ヘルシングさんも緊迫した声でそう言った。
「まさか!? 英雄レベルの魔法使いが使ったという魔核爆裂呪文『魔王』かっ!!」
グラウコーピスが叫んだ。
「みんな! 私の後ろに来るんだ!!」
アテナさんがそう言って、アイギスの盾を構えた。
「ぱぱ・・・パック! アテナさんのところへ!」
「はは・・・はい! ベッキー様ぁ!」
ベッキーとパックがアテナさんのもとへ一目散に駆け寄っていく。
「アテナ様! ご助力を!」
「ニーケ! アテナ様のところへ! 早く!」
「わわわ! はーい!ただいま!」
エリクトニオスがアテナとともに魔力を高めている間に、グラウコーピスがニーケを呼び寄せる。
「ど・・・どうか・・・。我らの魂に祝福を!! 魔神王・・・!」
サタン・クロースがそう言って、黒くまばゆい光を放ち始めた・・・。
~続く~
©「砂山」(作詞:北原白秋/作曲:中山晋平・山田耕筰)
©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)
©「聖者の行進」(曲/アメリカ民謡 詞/アメリカ民謡)
©「魔王」(曲/シューベルト、詞/ゲーテ)
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