第34話 赤の盗賊団 『遅れてきた速すぎる援軍』


 マン・グースカが唱えた呪文は重力魔法『黒い瞳の』だった。


 『黒い瞳の若者が私の心をとりこにした、もろ手をさしのべ若者を私はやさしく胸にいだく、愛のささやきを告げながらやさしい言葉を私は待つ、

みどりの牧場で踊ろうよ、私の愛する黒い瞳!!』


 その手をかざした場所に、黒い球体が出現し、上空のヒート・デナシを吸い寄せ始めた。




 「な・・・なんだ・・・!? 重力魔法か!? くっ・・・こりゃやばい。」


 ヒート・デナシは体勢を保てなくなり、地面に引き寄せられる。


 「そらそらっ!! 落ちてこい!」


 「運動の第3法則。 前に進むには、何かを置いていかねばならない・・・。」


 ヒートはそうつぶやくと、ある呪文を唱えた。






 『わたしの人形はよい人形。目はぱっちりといろじろで、小さい口もと愛らしい。わたしの人形はよい人形。』


 ゴーレム召喚呪文だ! すると、ヒートとマンの間にゴーレム・機械人形が出現し、それがマンのほうへ引き寄せられる。


 反対に、ヒートはそれを踏み台にして、空へ舞い戻り、飛行呪文『はるかな青空』を唱える。


 『山が川が呼んでいる、みんな元気に出かけよう、森はみどり草に木に風にいのちがみなぎるよ、胸をはれ胸をはれ、あおげはるかな青空、道はひろくひと筋に進む我らを招くよ!』


 そして、一目散に逃げ出した。


 あっという間に遠い空へ消えていく・・・。


 マン・グースカはゴーレムが引き寄せられてきたのを見て、重力呪文『黒い瞳の』を解除し、落ちてきたゴーレムをかわした。




 すかさず、寄ってきたマザー・グースカが、ゴーレムの額に書いてあった『EMETH』の最初の文字『E』をその剣で削り取った。


 すると、ゴーレムはまったく動きを止め、地面に転がった。


 『EMETH』は真理を意味し、『E』が削られ、『METH』は死を意味する言葉となるのだった。


 「ふぅ・・・。逃げ足は速いのね。」


 「あいつ。今度会ったら許さない。」


 「つか、なんでこんなところにいたんだ?」


 「さぁ?」


 グースカ衆たちは不思議そうに顔を見合わせたのだった。





 ◇◇◇◇




 「アイ! 仕立て屋のやつが別動隊のほうへ向かってたの知ってたの!?」


 「イエス。マスター。別動隊の者たちはマスターのコミュニティの属している者ではないと認識しております。

マスターの安全をワタクシは第一に考えておりますので、黙殺してもよいと判断しました。」


 アイが堂々と、当然という顔でそう答えた。





 「そうじゃないだろ! 助けなきゃ!」


 「彼らも守備範囲に含まれると仰せでしょうか?」


 アイが少しきょとん顔で尋ねてきた。


 これは、本音で言ってそうだ・・・。たしかにそういった部分は明確にはしていなかったが・・・。






 「バカやろ!当たり前だよ! 彼らも同じ仲間だろ!?」


 オレは怒って答えた。やはり、アイは人工知能・・・人としての魂はないからだろうか・・・情が理解できないのか。


 「・・・承知しました。では、3つの下僕たちにご命令ください!」


 アイはかなり驚いた表情を浮かべ、少し泣きそうな戸惑った様子であったが、指示をくれた。


 「わかった。コタンコロ―ーぉーーっ!! アラハバキーーーぃーーーっ!!この作戦の仲間を助けるんだーーっ!」


 オレは大声でこの場にいない下僕たちを呼んだ。




 (あーい。イシカは了解であるぞー!)


 (ほーい。ホノリも了解なのだー!)


 (ご主人様!! お呼びでございますか!)


 思念通信でイシカ、ホノリ、コタンコロが応える。






 遠く離れた『霧越楼閣』から、イシカとホノリを乗せたコタンコロが第二宇宙速度になるかという超スピードで一気に飛んできた。


 ちなみに、第二宇宙速度とは、地球の重力を振り切るために必要な、地表における初速度である。 約 11.2 km/s(40,300 km/h)で、第一宇宙速度の √2 倍である。

地球から打ち上げる宇宙機を、深宇宙探査機などのように太陽を回る人工惑星にするためには第二宇宙速度が必要である。


 速度による熱の壁はマッハ3付近であり、第二宇宙速度はその熱の壁をはるかに超える速度である。


 超進化による生体戦闘機と化しているコタンコロも、ライブメタルでできているイシカ&ホノリもこの超高温の世界に余裕で耐えられた。




 2分40秒後、こちらの時間では・・・えーい、わからん・・・だけど、そのくらいの時間でコタンコロはこの上空に到着した。


 上空でイシカ&ホノリが飛び降りて、コタンコロはさらに別働隊の方へ向かう。約30秒後には別動隊の戦場に着く計算だ。




 そして、上空から一気に降下してきたイシカとホノリは、レッド・マントがまさにベッキーたちに襲いかかる寸前の場所にまっさかさまに落ちてきた!



 ドオオォオオオオオオオオオオオーーーーーンッ!!


 モクモクモクモクモワモワモワ・・・。




 もうもうと土煙が巻き上がる中、声が聞こえた。


 「ロケット・ナックル・パァーーーーンッチィイイーーーッ!!」


 イシカがその腕を小型ロケットのように噴射して、レッド・マントに一撃を加えた。




 「ぐはっ・・・!! な・・・なにもの!?」


 煙が晴れて、悠然と立つ二体の土偶娘に・・・思わずレッド・マントも目を見開いた。




 「申し遅れた。ワタシはイシカであるぞ。今からぶっ飛ばすである!」


 「抜け駆けです。ワタシはホノリなのだ。今からぶっ飛ばすぞ!」


 二人は声を揃えて告げた。




 サタン・クロースのやつも、起き上がってきたが、ヒルコがその粘性の身体で相手をしていた。


 どんな攻撃もそのパワーを散らして、エネルギーを吸収するかのように受け止めてしまうヒルコに、サタンも手こずっていた。


 「なんなんだ! おめぇら・・・。我らが敵わぬなど・・・。我が種族は英雄の種族だぞーーっ!!」


 雄叫びを上げ、サタンはヒルコに挑みかかるが、やはりその身体を引き裂くことも引きちぎることもできなかったのだった―。





 ◇◇◇◇




 ゾンビ群軍に囲まれ、重傷のウントコとオット、騎士ゾンビと膠着状態のエンキドゥ、ナンバー28ゾンビと戦うギルガメシュたち。


 まわりの女王兵団のものたちはゾンビにやられたら、しばらくすると起き上がり逆にゾンビとなって襲いかかってくる。


 どんどん敵の数が増えていく・・・。


 まさに絶体絶命・・・。そんな時、周辺が上空のなにかにさえぎられ、暗くなった。






 ファッサファッサと羽ばたく大きなフクロウの姿がそこにはあった。


 急に現れた巨大なその魔獣(?)が上空に止まったかと思うと―。


 「きえええーーーーっい!!」


 叫び声をあげ、囲っていたゾンビ共をその巨大な爪で蹴散らした。


 ついでにその羽根の旋風でゾンビ共を吹き飛ばし、さらに、ギルガメシュたちをその身体の下に保護したのだ。




 「貴殿がギルガメシュか? 我がご主人様、アシア・ジン様のご命令により、そなたらを保護しに参った。我が名はコタンコロ!」


 そのフクロウが名乗る。


 「ジ・・・ジン殿の配下の者か!?」


 「そのとおりだ。我はジン様の忠実なる下僕が一人、コタンコロである!」


 「そ・・・そういえば、まだパーティーのメンバーがいるって言ってたな・・・。貴公のことか・・・。かたじけない。」


 「貴殿らの仲間は、ほかにいずこにいるのか?」


 「そ・・・それが、もはや我々だけしか残っていないのだ・・・。ふがいない・・・。」


 「そう・・・であるか。では、この周囲の者共は、消滅させてよいのか?」


 「あ・・・あぁ。仕方がない。できれば、屍体は残してやりたいが・・・。ゾンビとなって蘇ってきてしまう・・・。」


 「そうか。では消滅するとしよう。」


 コタンコロは、そういうと、背中にギルガメシュたちを乗せ、再び上空へ舞い上がったのだった―。




~続く~

©「黒い瞳の」(ロシア民謡/日本語詞:矢沢保)

©「人形」(曲/文部省 詞/文部省)

©「はるかな青空」(作詞:平井多美子/曲/ポーランド民謡)


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