第22話 赤の盗賊団 『冒険者たち』
『ドッコイ兄弟』は冒険者ギルドに所属している冒険者チームで、全員が冒険者ランクはCランクらしい。
ウントコ・ドッコイが長男で、次男スットコ、三男ドッコイ、長女で妹のオット、末っ子トコロガのオーガの5人兄弟で冒険者をやっているとのことだ。
というか、長女なのか・・・まったく性別が不明なんだが……。男……つかオスが5人かと思ったわ。
で、なぜかそのウントコが不死身の化け物を倒してやると豪語したのだけど、なんだかなぁ。
「がーっはっはっはっはーーっ!!」
「あんちゃん、かっこいい!」
「あんちゃんに任せておけば心配ないな!」
「ふむ。息巻くのはよいが、話を進めてもいいかな?」
アマイモンさんがそう話を戻した。
「そうだな。その『赤の盗賊団』のアジトはわかっているのか?」
アテナさんがここでそう質問をした。
「はい。実はそのアジトの情報を得たのでこちらから一気に戦力を集め、討伐に出ようと思い、みなさんに集まってもらった次第でございます。」
フルカスさんがそう説明してくれた。
「え……っと、『ミトラ砦』じゃありませんか?」
ここでジュニアくんが発言をした。
そうだ! オレたちは大金をはたいて、情報屋の『ヤプー』からその情報を買ったのだった。
「そのとおりです。さすが、商人・・・情報通でございますね。……どこからその情報を?」
フルーレティさんがそう質問をしてきた。まあ、そうだよな。世間を騒がせている大悪党のアジトがわかっているって情報の出どころ、ソースを知りたくなるよな。
「はい。『情報屋ヤプー』のサルワタリから聞きました。」
ジュニアくんが迷いなく答えた。
「あら?本当ですか!? 実は私どもギルドにも、そのサルワタリさんから情報提供があったのですよ。金貨1枚しましたが、有益な情報でありましたので。」
「え!? 金貨1枚……。僕は白金貨3枚も払ったのに……。あいつめ!!」
ジュニアくんもこれはショックだったのだろう。鼻息を荒くしている。
「あの男……ぼったくったのでございやすな!! 許せん!!」
ジロキチも憤慨する。
「ひどいな……。マジかよ。しかも冒険者ギルドに情報提供をすでにしていたのなら、いずれわかったはず……。やられたな。」
オレもこれにはちょっと注意すればよかったと思ってしまう。
「それはお気の毒ですわね。だけど、情報を得る手段もその判断も、自己責任と言わざるを得ませんわね。」
そこで口を発したのはエルフの女性と思われる冒険者だった。
「ベッキー様のおっしゃるとおり! うぬらには悪いが、騙されるほうが悪いのだ。」
小妖精と言っても過言じゃないくらい、背丈がオレの半分以下くらい、子供くらいの身長のエルフの男がそう言った。
「さすがは我が『アドベンチャーズ』のリーダー、トム・サムですね。」
ベッキーと呼ばれた女性のエルフがそう答えた。
「騙される方が悪いなど……そのようなことはございません。いついかなる場所、どんな時代であっても、騙す方より騙される方が悪いなどということはないのです。」
アイがきっぱりそう宣言した。
「な……なによ。仕方ないじゃない……。」
ベッキーはアイの迫力に気圧されたのか、黙ってしまった。
「ジュニア様。今度取り返しましょう。今は耐えてくださいませ。」
「うん。アイ様。ありがとう。」
「ヒルコもお手伝いするよー!」
「うんうん。ヒルコ様もありがと!」
「ま、ギルドからも『ヤプー』には注意しておこう。なにせ、ギルドも情報料は払っている。こちらも騙されたといえば騙されたと言えるしな。」
アマイモンさんがそう言ってくれた。それにしても、あの関西弁のイジ汚らしい顔が浮かんでくるな。少しムカッとしたな。
(マスター……。ヤツはワタクシが懲らしめてやりましょう。)
(おぅ。やりすぎないようにね。)
(イエス! マスター!)
「そういうわけで、ヤツらのアジトが『ホッドミーミルの森』の『ミトラ砦』であることが判明した。
サルワタリの話では、ヤツラの一味の一人を突き止め、その者が街に来たときに、自白強要呪文『誰も知らない私の悩み』で聞き出したらしい。
こちらも誓約と制約の魔法『主よ御手もて引かせ給え』にて確認したから、間違いはなかろう。」
さすがはギルド長だ、賢明な応対だな。だが、そういう魔法があるんだな。便利だな。
(マスター!『イステの歌』によると自白強要呪文『誰も知らない私の悩み』はレベル4の精神魔法で、誓約と制約の魔法『主よ御手もて引かせ給え』はレベル5の精神魔法でございます。)
(なるほど。さすがアイ。かゆいところに手が届くその説明……助かるな。)
(い……いえ。もったいなきお言葉でございます。)
ん? アイの顔がちょっと赤いような気が……。それになんだか嬉しそうだ。
魔法は早急にその仕組みを解明したいものだな。
それにしても、さっき口を挟んできたエルフの冒険者たち、『アドベンチャーズ』とか言ったな。
あのなんだか偉そうな女性、ベッキーだったか。彼女はリーダーってあの背の低い彼トム・サムのことを呼んでいたな。
どうもあの女性は身分が高いようだな。リーダーのトム・サムとベッキー、その他に3名のエルフの男たちがいる。
後から聞いたが、リーダーのトム・サムが戦士職で、ベッキー・グローリアナはエルフの王女で吟遊詩人の職、トム・サムの弟のシド・サムが僧侶、パック・フィンが魔法使い、ジム・スナイパーが狩人・弓使いだ。
非常にバランスのいい冒険者チームと言えよう。『アドベンチャーズ』の冒険者ランクはリーダーのトム・サムがBランク、他のメンバーはCランクとのことだ。
一般の冒険者のランクがDランクらしいので、『ドッコイ兄弟』も『アドベンチャーズ』もそれなりの冒険者チームということがわかる。
ちなみに、Bランクは腕利きレベル、一流と呼ばれるクラスだ。Cランクは専門的なレベルで、何かに特化しているなど特色があるらしい。その上は達人レベルのAランク、超一流と言われるクラス、国家の危機レベルを取り扱えるSランク、英雄レベルなどもあるとのこと。
他には世界レベル、国家機密レベルの仕事ができる規格外のSSランクもあるらしい。
冒険者は免許制度になっている。冒険者ギルドが発行している免許を持っているか否かが最低限、冒険者と名乗っていいかどうかの線引きということだ。
3年ごとに更新制度があるようだが、運転免許制度かよ。
「それと皆様。実はヤツラに襲われて逃げ延びられたのは、ヴァン様たちだけではございません。
ペッコさんという妖精族の者が『赤の盗賊団』に襲われたけど、一人見逃してもらえたとのことです。これは本人から聞いてもらいましょう。ペッコさん! 入ってください!」
そうフルーレティさんが呼びかけると、奥の部屋から三人の妖精族の者たちが入ってきた。二人が女性で、一人が男の子(?)だった。
「どうも。僕はペッコ。エルフの商人です。僕が『赤の盗賊団』に襲われたのは、こちらにいますチコメコアトル様のお使いで『黄金都市』に行った帰りのことでした。」
そう語りだしたペッコだったが、その隣のチコメコアトルと呼ばれた女性エルフが前に出てきて喋りだした。
「うちはチコメコアトル。エルフの商人や。特産物のトウモコロシを扱ってるんやで……って、ベッキーがおるやん。うわぁ……。なんかやだなぁ。ま、いいか。しゃあないな。」
えらく関西弁の強いエルフだな。横のもうひとりの女性エルフがなんだか恥ずかしそうな顔をしていた。
「お……お姉ちゃん。こんなところで身内の恥はさらさないでね。」
「わかってまっせ。シロネン。お姉ちゃんにまっかせなさい!」
あ、姉妹なのか。妹はおとなしそうだな。
「ふーん。ああ、どこかで見たことあると思ったら、がめつい商売をしてるという噂のチコメコアトルじゃありませんか?」
ベッキーがそう言って煽るような口調で、嫌なものを見るような顔つきをした。
「ふーん。おてんば王女・ベッキーさんがこんなところでなにしてんの? あ! まさかまだ冒険者の真似事やめてなかったんかいな?」
「なによ!?」
「なんや!?」
「ちょっとちょっと! 言った瞬間にみにくい争い始めないの!? ほら、トム! そっちも止めなさいよ。ペッコ! 早く話し始めなさい!」
妹のエルフのシロネンが必死で止めに入った。
「ちょっと脱線しましたが、えーと、ペッコくん。その襲われたときの話を聞かせてくれますか?」
そうフルカスさんがビシッとまとめ直した。うむ。デキル執事だな。
そして、オレたちはペッコくんの話を聞くのだった。
~続く~
©「誰も知らない私の悩み」(曲/黒人霊歌 詞/黒人霊歌)
©「主よ御手もて引かせ給え」(曲/ウェーバー 詞/作詞者不詳)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます