第15話

「霊感のないはずの河本すら感じていたのに、おまえはなにも感じなかったと河本が言っていたが、そうなんだな」


「ああ、なにも感じなかった」


「やっぱり。だからお前のアパートに行く」


「なんでだよ」


「なんでもだ。とにかく夕方に行くからな。ちゃんと居ろよ」


そう言うと熊田はその場をゆうゆうと立ち去った。


午後の講義を俺は上の空で聞いていた。


熊田がミキを見つけたら、いったいどうなるんだろうか。


熊田の霊感が本物だとしたら、間違いなく一騒ぎ起きる。


どこかからか霊能者を連れてくるかもしれないし、なんなら熊田自身がおはらいができる可能性すらあるのだ。


どちらにしてもミキが除霊されてしまう恐れがある。


そんなことはたまったものではない。


気がつくと教室には俺と教授の二人だけとなっていた。


「なにしてる。講義はもう終わったぞ」


あからさまに怪訝そうな顔で教授が言った。


「はい、ちょっと考え事をしてまして」


「そんなんじゃ講義もろくに聞いてないんだろう」


むかつく言われ方だったが、本当なので反論はできない。


俺は「失礼します」と頭を下げて教室を後にした。



――ただいま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る