第17話 街のおまわりさん夫婦
宿を出た四人は二手に分かれて略奪する探索者を討伐しに行った。組み分けはヤトとクシナ、カイルとロスタだ。
理由は単純、ゴーレムのロスタが主人のカイルと離れるのを嫌がったからだ。だから必然的にヤトとクシナが組む。
二手に分かれてからさっそく現場を発見した。宿の近くにある商店から悲鳴と何かを壊す音が鳴り響く。店の側には血を流した中年男が痛みに震えていた。
「中に何人います?」
「さ、三人。あんたらは?」
「後始末しに来た領主の使いです」
短い応対だったが、助けに来たと分かった店主の男は安堵して礼を言った。
音が止むと中から武器を持った男三人が出てきた。先頭は全身を毛で覆い曲がった牙を生やした猪の面をした猪人。あとは人間二人。全員が戦利品と武器を持っている。
「おっ、そこの若造共も漁りに来たのか?先に悪いな」
「いえ、違います。領主から犯罪者を始末するように言われました。今から武器を捨てて自首するなら命は取りません」
「は、ははは!!なに女連れのガキが偉そうに言いやがる!お前ら、こいつ殺して女は楽しもうぜ!!」
「「いえーい!!」」
盛り上がった三人の馬鹿面が宙を舞った。ヤトが居合で三人の首を一度に刎ねたのだ。
「大体こんな感じです。最初に武器を捨てて自首するように言って、言うことを聞かなかったら殺しても構いません」
「うん、分かった」
転がる三つの死体を気にせず降伏の手順を教える光景は異様だったが、突っ込む者は誰もいない。
「次があるのでもう行きます。死体はこのままにしておいたほうが略奪者除けになるでしょう」
恐怖で震える店主を残して二人は別の現場に向かった。
次の現場は既に火の手の上がった大きめの商店だった。そこでは店の前で五人の若い男女が商人家族を縄で縛って暴行を加えている最中だった。幸いまだ死者は出ていない。
クシナはヤトに言われた通り降伏から始めた。
「えーっと、武器を捨てろー。じしゅしろー」
「は?」
暴行に参加していなかった女の一人が間の抜けた声を出し、次に笑う。連中からは片腕の小柄な女が安い正義感から止めさせようとしているようにしか見えなかった。だから武器も捨てないし、指を差してクシナを笑う。
例えその行動が致命的な失敗だったとしても彼等が理解する時には全てが遅かった。
クシナは手近にいた女の顔を軽く殴る。下顎が吹き飛んだ。首も折れてその場に倒れる
全員が呆気に取られる中、さらに一人の男が腹に蹴りを食らって後ろに飛んだ。こちらは口から血泡を吐いている。鎧を着ていたので内臓破裂だけで済んだようだ。
残った三人のうち一人がクシナに襲い掛かる。金属で補強した粗末なこん棒がクシナの手足の届く外から振り下ろされて頭に当たる。
頭を砕いて勝利を確信した略奪者だったが、反対に自分のこん棒が砕けたのを見て目を見開いた。
「おい、儂の頭に触るな」
クシナの無傷な頭と砕けたこん棒を見比べたのが最期の光景だった。怒ったクシナが相手の頭を掴んで地面に叩き付け、ブドウの実のように頭が潰れた。
残る二人のうち一人はようやく戦意を喪失して武器を捨てて泣きながら命乞いを始めたが、もう一人は往生際が悪く商人家族に剣を突き付けて人質にしていた。
そちらはヤトが死角から首を刎ねて事なきを得た。
商人家族の縄を解き、消火活動を手伝おうと思ったが、その前に若い女が子供の名を叫んで燃える店に入ろうとしたので家族が必死で止める。生まれたばかりの赤子が中に残ったままらしい。
「まだ鳴き声は聞こえますね。生きているなら助けた方が良さそうですね」
本当は見捨てても特に非難される謂れはないが、半端に助けるのも締りが悪いのでヤトは自分の上着を近くの家の水がめで濡らして家の中に入った。
クシナは生き残った略奪者を捕まえ、家の者は井戸から水を汲んで必死で延焼を防ぐのに追われる。
近所の人が応援に駆けつけて消火作業に当たっても依然火の手が増していく。母親は必死で神に祈っているが、とうとう家が崩れ始めて入り口を塞いでしまった。
子供と見知らぬ男一人が炎に焼かれてしまった最期に泣き崩れる。
しかし塞がった出入り口からではなく横の壁を切り裂いて人影が出てきた。その手には泣き叫ぶ赤子を乱暴に抱いて。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
泣く我が子をしっかりと抱きながら母親は軽く焦げた半裸のヤトに何度も泣いて頭を下げた。竜の特性を得たヤトが火事で焼け死ぬとは思ってなかったが、服が燃えるのを失念していた。
「服が燃えてしまいました」
薄く笑って自分の失態を誤魔化すが、周囲からは無理に笑って強がっているようにしか見えなかった。
家は全焼したがかろうじて延焼は防げたのを見届けた二人は命乞いをして生き残った一人を駆け付けた街の衛兵に任せて、さらに別の事件現場に向かった。
この日、街は騒乱に包まれたが終わってみれば半日で暴動は鎮火した。
街の住民は暴力に酔う無法者と共にそれらを狩り続けて人助けをする若い男女の姿を度々目撃した。半裸の剣士、隻腕の痴女鬼、少年エルフ、殺戮メイド。それ以外にも多くの探索者が救援に駆けつけた。
住民は無法の探索者を怨んだが、同時にそれらから助けてくれたのも同じ探索者と知って心中複雑な想いを抱いた。
そして探索者全てを街から追い出せという意見もそれなりに出たが、遺跡から持ち帰った品の価値と一定数善良で秩序だった探索者が居る事実が広まったため、どうにか排斥論が主流とならずに済んだ。
残るは勝手に遺跡に入った連中だったが、こちらは出入り口を封鎖するだけに留まった。許可証を持った者は帰還を許され、それ以外は勝手に入った罪を問われて捕縛。抵抗する者はその場で斬られるか、再び鉱山に追いやられた。その後どうなったかは知らないほうが幸せだろう。
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