男と女はばかしあい
第1話 108本のバラの意味
これってつまり、プロポーズなんだろうか。
結局部長が寝たあとでスマホをいじることは諦めた。と言うよりか部長より遅く寝ることは叶わなかった。理由は察していただきたい。
なので、翌日家に帰ってバラの花束をいったいどうしようかと悩み、とりあえずコップやガラスの瓶などを家中からかき集めて水を溜めて活けておいた。この本数を維持しようと思ったら、花瓶が何本あっても足りない。実際水にあぶれて花束の包みの中で悲しくしょげているバラもある。
安易にバラの花束とか幼稚園の女の子みたいなこと言うんじゃなかった、と若干の後悔を抱きつつ、パソコンで「バラ・本数・意味」で検索してみる。
なるほど、部長が言った以外の本数にも意味があるようだ、たとえば、四本だと死ぬまで気持ちは変わらない、になるらしい。で、百八本は……。
「…………マジで?」
結婚してください。
百八本の項目を二度見する。何度見ても、結婚してくださいと書いてある。これってつまり。
「……プロポーズされている……?」
パソコンの前で固まって、どうしよう、と思う。
部長に、「避妊しなかったから君は妊娠しているかもしれない」と虚偽の証言を持ち出されたときよりも、わたしは混乱していたかもしれなかった。
だって、部長と結婚なんて、そんなの考えもしていないし、そもそもわたしの父親より年上だし、離婚歴あるからうまくいく保証なんてどこにもないし。
たしかに、たしかに部長にはわたしの人生設計図のことは話した。二十二歳で彼氏、二十五歳で結婚、そしてこどもを産んで育休を取ったのち仕事復帰して、こどもはふたりほしくて……。もしかしたらそのことを覚えていてくれているのかもしれなかったけれど。
どうしよう、部長の策略にまんまとはまってしまったまではいいけれど、その先のことなんか一切考えていなかった。軽い気持ちで好きになれる相手じゃなかったのだ。だって部長だぞ。
「こ、断るべき……?」
ふと、昨晩部長が言っていたことがふわりと頭によみがえる。「あとで自分で調べられたらご褒美をあげよう」。
ご褒美ってなんだろう、盛大な結婚式……?
「どうしよう、どうしよう」
とりあえず落ち着こうと、水を飲みにキッチンに行くと、否が応でも目に入るやっつけで挿したバラたち。
知らなかったとは言え、わたしはこのプロポーズを受け取ってしまった。それは、部長にはわたしに結婚の意思があると見なされてしまったのではないだろうか。
結局、水を飲むコップが見つからず、何も口にせずパソコンの前に戻ってくる。
やっぱり……、人生設計図を書き直すべきだ。二十二歳で彼氏、は一応達成したので、その先を。
部長の存在しない、やっぱり富永さんなんかが登場するような、設計図を。少しずれてしまったけれど、軌道修正しなければわたしに明るい未来などない。部長といて幸せになんて、到底なれるはずがない。
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