第5章 第11話
「あんの女狐めぇぇぇ…やってくれたわね!」
翌朝、待ち合わせの時間より早くSeregranceはログインしてくると、
寝ていた俺をたたき起こし、現実世界での状況をぶちまけた。
[ViertenSpielerのガチ対戦!公式が晴らしたチーター疑惑!実力の程は!?]
というタイトルでストリーミング配信されていたらしい。
公開対戦にしていたからなぁ。
仕方が無いとは言え、スキルから何から手の内晒した闘いが
丸見えというのは気にかかるところだ。
内容を見ると、明らかにあの対戦の観戦者だろう
と言う事だっが、今更どうしようもない。
「あなたの神速はもとより、私の死者蘇生も分かる人には分かるし、
ここまで隠しながら進めてきたのが台無しよ!」
『まぁ。晒されたもんはしょうがないよ。
そういうのも含めて困難な道ってことだよ。
後は降りかかる災難だと思ってどうにかしよう。』
「はぁ…そういうところは大人な対応よねぇ…
いいの?ここまできっちり隠しながら進めてきたのに。
あの動画のせいで、ほぼ全部手の内晒しちゃってるわよ?」
『良いさ。むしろ、この先は名前が売れてくれるくらいで丁度良いと思う。
エアスタさんに名前が届けば話が出来るチャンスがあるかもしれないんだ。』
その後も怒りが収まらない様子のSeregranceをなだめながら
ドリッピーと合流する。
「あぁ、それボクも見たよ。SCARSのWEBサイトにものせてあったね。
ちゃんとスピさんのチーター疑惑を晴らす内容も書いてあったけどね。」
合流するなりSeregranceからまくし立てられたドリッピーは、あっけらかんと答える。
「でも、スピさんはエアスタさんと話すのが目的なんでしょ?
それなら丁度良いんじゃない?
あれだけ強いってバレちゃえば、変なPKに絡まれる事も無くなるだろうし。」
俺とドリッピーが異口同音に問題ないと話すこともあって、Seregranceも少し落ち着いたようだ。
「2人がそう言うなら良いわ。結局相手次第だものね。
じゃあ、さっさと進めちゃいましょ!」
宿を出て街で数人のNPCと会話する。
アクセサリ装備を解放するクエストの、開始条件を満たすためだ。
クエストが開始してしまえば、これまでと大して変わらない。
サブダンジョンに行って、ボスを倒して、手に入れたアイテムを渡すだけだ。
幸い、1日あたりの入手個数制限もなく、すんなりとアクセサリ装備を解放する事ができた。
**********
「スピさん、セレさん、クエストお疲れさまー。」
ドリッピーが明るく声をかけてくる。
『いつも通りのおつかいクエストだし、大して疲れた訳じゃないけどね。』
答える俺の姿を見て、やれやれと首を振るドリッピー。
「セレスピ夫婦が居るからサブダンジョンのボスもあっさり倒してるけどねぇ。
本来は防御力が高くて、小さなダメージをコツコツ積み重ねて、
なんとか倒せるような、かなり苦労させられるボスなんだよ?」
こっちの攻撃力が高すぎて全然分からなかった、ということらしい。
『まぁ、ほら。この間の霧のボスには苦労させられたんだし…』
と言ってから気付く。
しまった!
このエリアに来てから、色々あったお蔭で忘れてくれていたはずなのにっ!
「あははははっ!そうだったそうだった!
スピさんの見事なドップラー効果!
あははははっ!」
思い出して爆笑するドリッピー。
くそっ、墓穴掘った!
「ドップラーなスピラー…ドピさんとでも名乗る?」
隣でSeregranceがボソッとつぶやく。
なっ…すでに燃え上がっている炎に、油を投げ入れやがった!
「あははははははっ!ドピさん!
良いねドピさん!セレさん、それいただきっ!」
腹を抱えて笑っている…そのうちこの辺を転がり回るんじゃなかろうか。
名前売れれば良いとは言ったものの、こういう売れ方は勘弁して欲しい。
『やめてくれっ!リッピーはともかく、セレにもそう呼ばれるのは、なんか卑猥だ。』
油が注がれ劫火となった後では無駄と知りつつ、僅かばかりの抵抗を試みる。
「むぅ…ボクはともかくって言うのは少し引っかかるけど、
女の子が連呼するあだ名じゃないねぇ、たしかに。
勿体無いけどやめるか、ドピさん…うくくっ。」
思いがけず、すんなり引いてくれた!
『あだ名は置いといてさ。
クエストも終わった事だし、さっさと次のエリアに行かないかね?』
この話はこのままフェードアウトさせてしまうに限る。
「それもそうね。あだ名は、この先また面白いものが付けられるかもしれないしね。」
待て待て、Seregranceよ。これ以上面白くしてくれるんじゃない。
「オッケー。セレさん、また面白いの考えよーね!」
なんとかあだ名事件も鎮火してくれたところで、次のエリアを目指す。
元々クエストの為だけの寄り道だったのだし、後は単純にボスを倒すだけ。
Seregranceとドリッピーが、まるで女子会のように盛り上がるのを横目に見つつ
ダンジョンに向かって進んでいると、フレンドチャットの着信が入る。
「いよう、スピラーさん。久しぶり。すっかり有名人になってるな。」
第1エリアで何度か絡んだThinkerだった。
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