第5章 第7話

狙いは悪くなかったと思う。

二度の不意打ちで、5人は倒している。


だが、無理やり囲いを突破してでも弓を倒しておくべきだった。

多人数戦でここまで弓の影響が大きいとは…勉強不足だった。


矢の頭部クリティカルを喰らうと、攻撃を中断させられてしまう。

その後の硬直はキャンセルできるからまだ良いものの、

要所要所で守らざるを得ないように仕向けられるのだ。


パーティーメンバーには攻撃が当たらないという特性もあって、

2列目、1列目のプレイヤーを無視して矢が飛んでくるのも、非常にきつい。


そしてこっちの攻撃は防御態勢でがっちり止められる。

当たったとしても一撃で倒せないまま、後列に下がられてポーションで回復される。

こっちはじわじわとHPを削られ、今や50%を切っている。

ポーションの連続使用ペナルティもあって、がぶ飲みしたところで

大して回復もしてくれない。


「スピ。返事しないで聞いて。」

Seregranceからパーティーチャットが届く。

「やっと相手は私の事を忘れてくれたと思うわ。

 ここから弓で何人か倒すつもり。

 ただし、私の攻撃だって気付かれないように、気を逸らして欲しいの。」


「とりあえず、私とあなたの直線上に敵の弓プレイヤーが来るように、

 うまく誘導して!そして、合図と同時に敵の気を逸らしてね!」


「リッピーさん。私が弓を構えてるの見られるとバレるかもしれないから

 念のために敵の視線から隠して欲しいの。

 その大きなフライパンは透けないように出来るんだったわよね?」


「できますよ…できますとも…半透明なのは切替可能なオプションだから…

 でもフライパンはあんまりだよ…」


Seregrance達の準備は整ったようだ。

囲いの中でジリジリと動きながら、弓の1人をSeregranceとの直線状に配置する。

なるほど、こっちを見てるとSeregranceは真後ろになるから全く見えないのか。


「スピ、準備は良い?」

Seregranceの問いかけに対して

『COMMAND! USE SKILL!』

大声で音声コマンドの入力を開始して返答する。


「3、2」

Seregranceのカウントダウンに合わせ

『slot number two end』

小さな声でコマンド入力を完了させる。


「1」

発火能力を発動し、振り向きざま目の前に居た敵の眼前に、

5つの火を固めて出現させる。まるでデカい火の玉だ。


「うわっ!」

これがラストの不意打ちだ。当然発動させると同時に相手の懐に飛び込んでいる。

そのままメイスで一撃!

1発では倒れてくれない事も分かっているので、そのまま連続攻撃を叩きこむ!


1人倒す間にあっという間に距離を空けられてしまう。

手を変え品を変え色々やってみたが、不意打ちももう3度目だ。

さすがに警戒されて通用しなくなるだろう。


周りを見渡すふりをしてSeregranceの方を見てみると、

首尾よく後ろにいた弓を倒してくれている。

これで7人。…やっと半分か。


そうこうしている間にも残る2人の矢は飛んできているし、

じわじわとHPが削られ続け、30%を切ってしまっている。

さすがに1人じゃこの辺が限界か…



「スピ!派手に暴れなさい!」

Seregranceから再びのパーティーチャットだ。

『暴れると言っても、相手の前衛もガードは固いし、

 そうそう倒せるもんでもなさそうだよ?

 何より、俺のHPがもうやばい。』

「それでもよ!言ったでしょ?

 たとえ死んだとしても、相手から目をそらさないでって。」

『分かった。これも勝つための作戦ってことだね?』

「そうよ!」


『っしゃあ!ひと暴れ行くか!』


大剣で薙ぎ払い、槍で突き崩し、メイスで殴り付け、剣で切り裂く。

さすがに短剣と弓の出番は無いが、持てる武器をフル活用して、

出来る限り暴れまくる。


攻撃の組み立てなんてあったもんじゃないが、

防御をかえりみない苛烈な攻撃スタイルへの切り替えに戸惑ったのか、

統制の取れていた敵の連携が乱れている。


俺が死ねば、どうせSeregranceとドリッピーにも攻撃が行く事になる。

さっきまでの敵を引き付けるように乱戦を狙うやり方から、

とにかく包囲網を抜けて敵の裏に回り込む事を狙う。


敵の頭数も減り、前衛を1人倒せば抜けられるかもしれない。

槍を持った前衛をしつこく崩しにかかるが、

こちらの狙いもすぐにばれたようで、うまく盾持ちにカバーされてしまう。


崩して崩して崩して崩して…

着実に俺のHPも削られていく。

20%…15%…10%…

もうポーションを飲んでも1%も回復しない。


だが、執拗な攻撃が功を奏したか、ついに槍持ちを倒し包囲網を突破する。

そして裏に回った瞬間


キンッ


狙っていたかのような矢のクリティカルヒット。

一瞬目の前が真っ白になり…


ドスドスザシュッ


ゆっくりと地面が近づいて…

幽霊になった俺は、倒れる自分の体を見下ろしていた。

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