第2章 第8話
これからの長い挑戦の入口になる、初心者エリアのダンジョンにやってきた。
「初めての対人戦」クエストは、実験に付き合ってくれた小夜香の別キャラを倒してクリアした。
1勝958敗。何か大事なものを失った気分になったが、大きな間違いだと言い聞かせた。
ダンジョン内の宝箱からは、初心者エリア限定のポーションや、
初心者装備用の強化材料などが手に入る。
…しばらくお世話になる装備だろうし
と、強化材料を求めて宝箱も開けまくった。
事前に調べたマップの通りボスの部屋に辿り着く。
扉を開けて中に入るとボスが現れた。倒し方もすでに理解している。
最初だけはパターンの確認のために、ゆっくり様子を見ていたが、
単調な攻撃であることも理解しているので、淡々と倒してしまった。
★ 攻撃力向上3%
★ 回復力向上1%
★★★ 発火能力
★ 防御力向上3%
★ 体力上昇3%
初心者エリアのボスを倒した時に★★★が手に入ろうものなら、結構な勝ち組の扱いだ。
中でも発火能力は使用に関する制限がほとんど無く、
お使いクエストでの料理やダンジョン探索時の灯り、戦闘時の火力補助と
有効な場面が多く非常に重宝されているらしい。
ここでスキルを選択すると初心者エリアは卒業となる。
いきなりレアスキルの中でもかなり重宝されるという発火能力があったことで、
一瞬決定してしまいそうな誘惑にかられるが、ここはぐっと我慢。
俺の、ほぼ詰んでいる状況を打破するには、この程度ではダメなのだ。
スキル選択のメッセージが表示されたまま、
俺は武器を振りかぶり
自分を斬り付けた。
**********
再びログインした私が目にしたのは、ボス部屋の開かれた扉が閉まる様子と、
部屋の奥から大きな足音と共にあらわれたサイクロプスだった。
もう一度ボス戦からやり直しになるのね。
一度戦ってしまえば慣れたもの。
淡々とボスを攻撃し、倒してしまう。
シュワンッ
複数の固有スキルが並ぶウィンドウが表示された。
★ 移動速度向上3%
★ 攻撃速度向上3%
★ 状態異常抵抗3%
★★ 移動速度向上8%
★ ダメージ軽減1%
最初に表示されたスキルの一覧と全く変わらない。
偶然の可能性もあるわよね。
もう一度ログアウトし、再ログイン。
三度閉まる扉と現れるサイクロプス。
シュワンッ
★ 移動速度向上3%
★ 攻撃速度向上3%
★ 状態異常抵抗3%
★★ 移動速度向上8%
★ ダメージ軽減1%
3回目も同じスキルの並びなら、偶然ではなく変わらないということよね…
ひとまず第一段階をクリアしたことにホッとする。
次がいよいよ本番。
スキルの一覧が表示されたまま、手にした武器で自分を斬り付ける。
ちゃんとHPが減ってるわね。
そのまま斬り続ける。
倒れたボスを目の前に、自分で自分を攻撃するというシュールな光景。
お願い!うまくいってね!
最後のHPを削りきると、幽霊状態でボスと並んで倒れる自分の姿を見下ろしていた。
30秒のカウントダウンが終わり、街の蘇生ポータルに転送される。
期待が大きくのなるのを抑えながら、慌てて辺りの景色を見渡す。
間違いない。初心者エリアだわ。
戦績は1勝1敗。負けが1つ増えている。
ボスに倒された訳じゃなくても、あの部屋の中で死ぬと負け扱いになるということなのね。
熟練度を確認してみる。ボス戦で上がった数値がそのまま残っている。
けれど、まだ安心できない。
3度目となるダンジョンに侵入すると、今度は一気にボス部屋まで突っ走る。
ボス部屋の扉は空いているのか、閉じているのか。
閉じているわね…
扉を開け、中に入る。そして、部屋の奥から大きな足音が響いてきた。
ドキドキしてきた。
もう4度目となって、単純作業になってきたボス戦がもうすぐ終わる。
ここまでは順調なの。うまくいってね!
ボスを倒し終わる。
シュワンッ
★ 移動速度向上3%
★★ 攻撃速度向上8%
★ 状態異常抵抗3%
★ 回復力向上1%
★ 体力上昇3%
「やったわ!」
さっきとは違うスキルの並びを見た瞬間、思わず声が出てしまった。
急いで自死し、街で待っている彼の元に駆け付ける。
そして、何も言わずにぎゅーっと抱きしめる。
上手くいった場合でも、決して街中で「スキルの選び直しができた」事を
口にしてはいけないと、念を押されていたのだ。
そして二人で同時にログアウトした。
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