Dance with The Weapon

まっしー

第0章 第1話

- プロローグ -


「うぉおぉぉらぁっ」

振りかぶられた大剣が暴力となって襲い掛かってくる!


圧力をともなうような攻撃に対して、右手に持ったハンマーの横殴りを合わせ、

相手の攻撃の軌道をずらす。

そのまま相手の裏に向け飛び込むように前転しながら、装備を短剣に変更する。

立ち上がり、背を向けたまま思い切り背後に一閃。


ザシュッ


小気味良い効果音が聞こえる。

綺麗にヒットしたことを確信しつつ反動のままに振り返る。

大剣の重さに泳がされていた相手も、こちらを向きなおす。


「さっきからちょこまかと…戦績も武器もしょぼい野郎が鬱陶しい!」

相手が吠える間に、軽く距離を取る。

癖といい性格といい、攻撃が読みやすいことこの上ない。


やや白けた顔で見ていると、相手も距離を取る。

そこで両手を後ろに隠し、装備を弓矢に変更しながら後ろ向きに歩き始める。


あいつの大剣は…確か第5エリアで手に入るレア武器か…

特に奪いたいモンでもないなぁ。


「ちっ…これでも喰らっとけぇっ」

攻撃のたびに叫ばないと気が済まないのだろう。

大声で吠えると一気に駆け寄ってきた。

タックルか、大剣で攻撃か…2択だが律儀に付き合ってやる必要も無い。


後ろ向きに走りながら弓に矢をつがえ、立ち止まり引き絞る。


せっかく一直線に走ってくるのだから、クリティカルを狙わせてもらおう。

この距離なら矢が描く放物線を考える必要も無い。

頭を狙い矢を放つ。


「クソがっ」


キィンッ


相手の罵声と同時にクリティカル特有の甲高い効果音が響き、相手の足が止まる。

硬直している間にまた矢をつがえ、狙いを定める。

冷静な相手であれば避けられる可能性もあるが、相手はすっかり頭に血が上っている。

突っこんでくると確信して、先に矢を放つ。

すぐさま装備を槍に変え、相手に向かって間合いを詰める。


キィンッ


まさに走り出そうとした相手の頭を矢が捉え、再びクリティカルヒットする。

硬直の間に槍で軸足を狙う。

両手武器を装備している場合限定。被クリティカル時に僅かながら硬直が長くなる。

絶対に避けられない。


「ぐあっ」

ヒットと同時にメイスに持ち替える。

軸足を狩られ転倒する相手の頭部にメイスを叩きつける。


キィンッ


三度のクリティカルヒット。

ありがちな頭部をくるくると回る星のエフェクトが発生し、眩暈効果が付与される。

転倒状態で眩暈になるとしばらく起き上がることすらできない。


大剣に装備を変え、大きく振りかぶり、叩きつける!

即座に振りかぶり、再度大剣を叩きつける。


あと1回行けるっ。

相手の挙動を見ながら、三度目の大剣を叩きつけた。

叩きつけた勢いのままに前転しながら、両手にそれぞれ短剣を装備する。


「てめえええええええっ!」

叫びながら相手が起き上がってくる。

元気のいいことだ。だがそろそろHPも尽きる頃だろう。

残りは瞬間火力で押し切ることにする。


殺気だった目で大剣を振り回そうとする相手の懐に飛び込む。

「馬鹿が!死ねやっ!」

右手から切り付け、右手で切り払う。体の反動を使って左手も切り付ける。

体勢が悪くても攻撃判定を持った攻撃が相手に当たってさえくれれば

ダメージを与えてくれるシステムだ。


そこに相手の大剣が降ってきた。

避けるつもりはない。

先手を取れる体勢でさえあればいい。


身をかがめた状態の肩口で受ける。

相手も流石にそこそこの攻撃力がある。1割ほどHPゲージが削られる。

だがこちらも弱防御態勢だ。体に硬直は無い。


やっと攻撃が当たり、ゆがんだ笑みを浮かべる。

そんな相手を見上げ、短剣での連撃を再開する。

もう相手に攻撃できるチャンスは無かった。


「…ああっ、てめ」

最後は情けない罵声のような悲鳴のような声と共に勝敗が決した。



体感型MMORPG「Dance with The Weapon」の世界での一幕。

俺から巻き上げようと戦いを挑んできた相手をぶちのめしたところだ。

相手にとってみれば、負ける要素の無い格下相手にカツアゲ失敗という感じだろうか。


[奪取するアイテムかスキルを選択してください]

奪いたいモンでも無いとは言ったものの…。

まぁこれくらいしか無いか。

ひとまず勝者の権利を行使し、奪取可能なアイテムの一覧から大剣を選択する。


[奪取可否の抽選中…]

[奪取に失敗しました]

ま、俺の戦績じゃこんなもんだよな。


奪取失敗のメッセージを見て、すぐに歩き始める。

「おいっ…待ちやがれ…」

幽霊状態の相手が騒いでいるが、無視して立ち去る。

「さっきのは一体なんなんだっ!」

どうせ相手もすぐに蘇生ポータルに転送される。

律儀にネタばらししてやるような安いネタじゃない。

勝者ポータルに歩み寄ると転送先に街中を選び、闘技場を後にした。



エリア攻略に取り掛かって1ヶ月。

後半エリアに入ると、さすがに戦績を見ただけで絡まれるようになってきた。



ここは体感型MMORPG「Dance with The Weapon」の世界。

魔法は存在せず、自分の体と武器だけで遊ぶゲーム…のはずだ。

今年で27歳になる俺は、事情によりこの世界にどっぷり漬かることになり、もうすぐ3年。


強いやつが偉い、という分かりやすい世界。

全てのプレイヤーは、戦績をいう看板を掲げ、己の強さを誇示しながらプレイする。

4勝、18625敗。

ピラミッドの最底辺すら突き抜けた最下層。

負け組の中の負け組という位置で、この世界を過ごしていた。

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