第24話 探索(鈴木 聖武)

 ったく、ツイてねえぜ。なんでまたデスゲームに巻き込まれるんだ。それだけならまだしも配られたスキルがとんでもないハズレスキルだったじゃねーか。


 俺ってば、こういう時のクジ運本当にないな。前に加賀美の奴と一緒にデスゲームやった時。あの時は二人だけ生き残る殺し合いゲームだったけれど、その時に配られた武器も吹き矢とかいうハズレ武器だった。他の連中は銃や爆弾が与えられている中でかなりの理不尽だ。まあ、飛び道具だった分、近接武器よりかはマシだったけどな。


 それにしてもまた加賀美と会うとは思いもしなかった。奴は人の心を持っていない。嬉々として人を殺す正に修羅だ。幼い顔立ちからは想像できない程、恐ろしい奴だ。アイツとは出来る限り関わりたくない。


 加賀美は強かった。正直言って勝てる気がしなかった。あのゲームでは生き残れる人数は二人まで。二人になった瞬間、ゲームクリアとなる。最終的に残った三人は俺と加賀美と恋人の美紅ミクだった。そして、俺は生き残るために美紅を撃ち殺した。今まで協力関係にあった美紅を殺してしまったのだ。


 今にして思えば、俺はまんまと主催者が見たいものを見せてしまったのだと思う。わざわざ生き残る人数が二人までと設定されているのも、一人じゃ協力関係は結ぶことはできない。けれど二人なら協力関係を結ぶことができる。その協力関係を結んだ人間が裏切る様を見たい。その魂胆が透けて見える設定だ。


 事実俺は裏切った。美紅と協力して加賀美を倒そうと口では言ったけれど、実際はあいつの背後から鹵獲ろかくした銃で撃った。加賀美と真正面切っても勝てない。なら、美紅を殺すしかなかった。俺に対して油断している美紅を殺すしか。それが俺が確実に生き残る道だった。


 加賀美はそんな俺を見て舌打ちをしやがった。そして「お前のせいで一人殺し損ねた」と言い捨てた。奴は殺せるんだったら、俺と美紅どっちを殺しても良かったんだ。


 加賀美からはゴミを見るような目で見られたけれど、デスゲームの主催者からは称賛された。「素晴らしい判断だ。キミは生き残るために確実な方法を取った。キミは素晴らしい。どんな状況でも生き残れる逸材だ」と。


 デスゲームを生き残った俺には賞金が与えられた。けれど、俺がその賞金に手をつけることはなかった。俺はその賞金を匿名で美紅の遺族に振り込んだ。


 美紅はまだ行方不明ということになっている。謎の組織の力が働いているんだろう。世間的には俺は人殺しではない。だって、俺が殺してきた人間は死んだことにはなっていないのだから。


 美紅の遺族はまだ帰らぬ美紅を待ち続け、探し続けているのだろう。まだこの世のどこかで生きているという希望にすがりながら。


 俺が今探そうとしているNPCにもそういう家族がいるのだろうか。帰りを待ち続けている家族たちが。


 俺は……なんで生きているんだろう。美紅を殺してまで生きたかったはずなのに、いざ生き残ってみると虚無感しかない。


 虚無感しかない……そのはずなのに、どうして俺はまだ死にたくないと思っているのだろうか。


 さっきの真実の口の試練だってそうだ。俺のスキルを使えば、あのカギは簡単に取ることができただろう。だけど、俺はそうしなかった。できないんじゃない。しなかったんだ。


 能登 夢子。アイツがカギを取ってくれたから助かったものの、運営側の想定では俺もカギを取れる候補にあったのだろう。


 今回の時速72kmで逃げ回る救助対象。あいつも俺のスキルがあれば意図も容易く捕まえることができる。まあ、見つけられたの話になるのだけれど。


 運営は俺にスキルを使わせたいのか? その割には他のスキルで代用が効くような状況だったりするし、今回の逃げ回るやつも他の誰かがなんとかしてくれるだろう。


 だけど俺はスキルを使うつもりはない。使えないだろう。こんなスキル……


 じゃあ、なんで俺は探索に参加しているんだ。自分でも意味がわからない。スキルを使わないなら俺が参加する意味はないじゃねーか。


「ふごふご」


 なんだ? どこからか変な鳴き声が聞こえる。近くになにかいるのか?


 俺は声がした方向に進むことにした。なにか手がかりがあるかもしれない。危険かもしれないけれど、とにかく探索に参加したなら情報の一つや二つを取って来ないと意味がない。


 俺は森の中を進み、開けた場所に出た。するとそこには少し淀んだ水たまりがあって、そこに豚が水浴びをしていた。


「なんだ。豚か。豚は意外にも綺麗好きって言うしな。水浴びくらいはするだろうよ」


 豚は貴重な食料だ。このまま連れ帰ってみるかな。何日か分の食料にはなるだろう。俺は解体できないけれど、デスゲーム経験者が多くいるこの界隈なら一人くらい、解体の知識を持っている奴はいるだろう。


「ふごふご」


 水浴びを終えた豚は鼻を鳴らしながら、とぼとぼと歩いていった。なぜか、俺は今この場で仕留めようとは思わなかった。なにか直感的なものがこの豚を今殺すのはまずいと判断したのだ。


 俺は豚の後を尾行することにした。なぜそうしようと思ったかは説明できない。ただ、なんとなくそうしたかったとしか言いようがない。


 豚を尾行すること一時間ほどが経っただろうか。豚は急にダッシュを始めた。俺も釣られて走り出す。


 すると豚は前足を使って地面を掘り出した。すると黒い物体がひょっこりと顔を出す。あの物体は見たことがある。俺も大好物のアレだ。


「トリュフだ!」


 俺は全速力で走った。このままでは豚にトリュフが食われてしまう。俺は豚を蹴飛ばして、急いでトリュフを採取した。


 俺にトリュフを奪われた豚は怒って、俺に突進をしかけてくる。俺はそれを躱した。危なかった。豚は意外にも筋肉の塊なのだ。突進されたら痛いどころじゃ済まないこともある。


 俺は急いでその場から離れて豚から逃げた。


 そして、戦利品である黒いキノコの匂いを嗅ぐ。この香りはやはりトリュフで間違いない。常連客のマダムのパーティに招待された時に食べたことがある。


 よし、このことをみんなに報告しなければな。えっとチャットにログインするには名前を決める必要があるのか。名前は……Kiyoでいいか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Monchang:ヤクザだけどクッキー焼いたよ

Utan:懐かしいネタぶっこみますなあwww

Shinobi:材料あったんかいwww

Monchang:冗談に決まっとるやろがい

Shinobi:やろがい

Monchang:ただ石垣を作って、かまどを作ったぞ。これで調理はできる

Utan:おお! 流石はモンちゃん。仕事ができる男!

Monchang:ユーたんと死神の成果はどうだ?

Shinobi:しーん

Utan:何の成果も得られませんでした!!

Monchang:お前らなにしとるんじゃい!(# ゚Д゚) 晩飯抜きにするぞ!

Utan:正直スマンカッタ

Shinobi:やだこのチャット加齢臭するんですけど

Utan:いいだろ? どうせ僕たち以外誰も見てないんだから

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なんだこいつら……まあ、とにかく報告することはさっさとしよう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

管理者:Kiyoさんが入室しました

Kiyo:よお!

Utan:新参キター! 囲め囲め

Monchang:そのHNは……聖武か?

Shinobi:ねこです よろしくおねがいします

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 こいつら反応はええよ。どんだけ、タイピング極めすぎだろ!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Kiyo:トリュフ見つけた

Utan:Really?

Monchang:日本語でおk

Shinobi:おお! すごい。食料見つけるだなんて

Monchang:お前はなにも見つけてないけどな

Shinobi:失礼な。さっき牛糞見つけましたよ

Utan:草 じゃなかった 臭

Monchang:牛糞持ち帰ったら殺すぞ。わしの事務所に牛糞送るバカがたまにいてな

Kiyo:帰還したらみんなで食おうぜ

Utan:牛糞を?

Shinobi:牛糞の話から離れろ

Monchang:お前が言い出したんだろ!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一旦帰還しようかな。あんまり遠くに行きすぎても迷うだけだし。とりあえず食料見つけられたことは大きい。


 和泉と死神の野郎はまだ成果を出せてないみたいだし、それに比べたら俺は御の字だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る