第21話 救出サバイバルゲーム
次のフロアに来た私とタクちゃん。他のみんなは私たちを待っていたようだ。
「遅いね。ユリリン。なにかあったの?」
夢子ちゃんが私に突っかかってきた。確かに、すぐに次のフロアに行かなかったら疑問に思うよね。
「ごめんごめん。ちょっとお腹痛くて……タクちゃんに看病してもらってたんだ」
私は嘘をつくことにした。正直に夢子ちゃんのスキルを調べるために行動してたとは言えない。
「えー本当? ぽんぽん大丈夫? ユリリン」
「え? そうなのユリ。大丈夫? 言ってくれれば私も残ったのに」
夢子ちゃんと杏子が私を心配してくれた。うぅ……そういう風に心配されると嘘ついたのが申し訳ない。特に杏子は本心から心配してくれているのが伝わって辛い。
「嘘くせー」
聖武さんが私たちに対して冷ややかな視線を送る。まずい。私たちがしていたことがバレた?
「どうせ、二人してイチャイチャしてたんだろ。チクショウ」
そういう思考回路!? この人、鈍いんだか鋭いんだかよくわからないよ。
「ああ。実は言うとそうだ。羨ましいか」
タクちゃんまでなに言ってんの! そこ肯定する意味がわからないよ。
「ちょっとタクちゃん」
私は小声で話しかけた。
「俺とユリができている。やつらにそう思わせた方がいいだろう。その方が二人だけで行動しても怪しまれないし、ユリも軽薄なやつにナンパされるのは嫌だろ」
「あ、そうだね。まさかタクちゃん。私のためにそう言ってくれたの」
私はタクちゃんを見直した。良かった。タクちゃんがボケ発言したのかと思ったよ。やっぱりタクちゃんは凄い。頭がよく回る。
「アンタらイチャつくのも程ほどにしなさいよね。デスゲームでは、なぜかよくカップルが死ぬから」
名取さんが髪をかき上げながら私たちに忠告をした。カップルが死にやすいのって都市伝説とかジンクスとかそういう
まあ、でも実際には私とタクちゃんは付き合ってはいないわけだし、そこは心配する必要はないかな。
「あはは。カップルが死にやすいってことは、逆を言えばモテない人が生き残りやすいってことだね」
神原さんが笑顔でサラっと毒のあることを言う。無自覚で言ってそうだから逆にタチが悪い。
「やめてくれ神原たん。そのセリフは僕に効く」
そういえば、和泉さんは宮下さんの次にデスゲーム参加数が多かったね。やっぱりモテない方が生き残りやすいんだ。
私たちが適当に雑談していると背景が急転換した。なにもない殺風景な部屋から、周りには木々が覆われた森の中に変わっていった。
背景が変わったということは次のゲームが始まるんだ。
「はーい。お待たせ。みんなのアイドル。ジャクソン・ラビットだよー。サイン書いてあげようか? あ、でも転売はやめてね。芸能人のサイン転売問題も中々根深いものがあるからね」
「テメーのサインなんかいらねえよ!」
聖武さんのツッコミが炸裂する。
「えー。僕的には次に来るのはウサギのキャラクターだと思いますけどねえ。夢の国のネズミ。リンゴ三個分の体重のネコ。電気ネズミ。地縛霊のネコ。この流れなら次はウサギが来るでしょうが!」
「ネズミとネコしか流行ってねえじゃねえか!」
なんかここまで来ると一々ツッコミを入れてあげる聖武さんって優しいんだなって思い始めた。
「まあ、そんな話は置いといて。次の試練を発表するよ。次の試練はずばり迷子探しー」
「は? 迷子探し? なんだそれ。相手は子供か? なら困るな。ワシの顔見たら子供泣くぞ」
御岳さんの自虐ジョークが炸裂する。こういうのって笑っていいのかどうかわからないから困る。
そして、誰も反応を示さなかったので御岳さんはしょんぼりしてしまった。ああ、笑って欲しかったのね。本当に顔の怖い人の自虐ジョークはやめて欲しい。聞かされる方の身にもなって。
「この東京ドーム二百五十個分の面積の森の中に迷子が三人います。彼らを全員見つけたらミッションコンプリートです。迷子の特徴はお手元のタブレット端末に転送したので後でご確認下さい」
「東京ドーム何個分ってよく聞く表現だけど、ぶっちゃけどれくらいの面積かよくわからないよね」
私は何気なしにその発言をした。すると杏子の目がキラリと光った気がした。
「ユリ。東京ドームは46,755平方メートルなの。つまりそれが二百五十個分ってことは11,688,750平方メートルだよ」
「そ、そう……ありがとう。杏子」
えー杏子もそういう知識あるの。私と同じ一般人枠かと思ったのに、なんか裏切られた気分。
「東京ドームの面積を知らない阿呆はおいといてさ。話の続きをしてくれよジャクソン。どうせ、時間制限があるんだろ?」
「いい質問ですね加賀美さん。正確に言うと時間制限はありません。ですが、完全に無制限というわけでもありません」
「どういうこと?」
宮下さんがジャクソンに尋ねる。するとジャクソンは宮下さんを見てニヤニヤと笑い始めた。
「まあ、状況によっては宮下様が生き地獄を味わうハメになるかもしれませんね。なぜなら、救出対象の迷子が死亡した場合、代わりにテストプレイヤーのみな様の誰かのライフが一減ります。これは無作為で選ばれますよ。あ、きちんと運営側が用意した乱数表使うので安心してね。乱数だから多少の偏りはあるかもしれないけど、そこはご愛敬で」
「迷子が死ぬと俺らのライフが一減る……そういうことか」
タクちゃんが納得した表情を見せる。相変わらず飲み込みが早いな。
「そういうことです。迷子だってNPCですが、生きている人間と同じ扱いです。当然飲まず食わずでは死にます。つまり、みな様は迷子が死ぬ前に彼らを救出しなければならないのです。ただし、ライフを犠牲にして復活したところでお腹が膨れるわけではありません。またすぐに餓死してしまいます。一日くらいは持ちますけどね」
「時間制限はない。けれど、無制限というわけにはいかない。俺らの命そのものが時間制限だと思った方がいいな。そして、救出対象の残り人数になったら一日に減るライフは一になる。もし、生存者が宮下一人の場合、一人でこの広い空間で迷子を捜し続けなければならない。宮下のスキル的に自殺でもしなければ死ぬことはないからな」
「生き地獄ってそういうことだったんだね。タクちゃん……」
一人取り残されて、視界の悪い森の中で迷子を捜し続ける。確かにこれは地獄と呼ぶのに相応しいかもしれない。
「それにこの試練のいやらしいところは迷子が三人だってことだ。そして、ライフが減る対象もランダムに決定されるってところ。最初のタイムリミットで全員餓死した時、運が悪ければ誰か一人のライフが一気に三も減ることになる。名取以外がこれを食らえば一発アウトだ」
タクちゃんは恐ろしいことを解説した。確かにそうだ。私たちがライフを減らす対象を選んでいいなら均等に割り振ることで死亡は回避できるけど、ランダムなら死亡を回避できない可能性もあるんだ。
「ジャクソンたん、質問があるのです。迷子は動き回ったりするのですか? 迷子が特定の位置にいないと永遠に見つからないなんてこともありえますからな」
「おお。これもいい質問ですねえ。迷子は基本的にじっとしてます。まあ、生命の危機を感じるようなことがあれば、その対象から逃げるくらいのことはしますかね。人間だもの。まあ、そうプログラムされているだけで、ここにはクマみたいな凶悪な動物はいないのでそういった挙動を示すことはないので安心してください。あ、でもクマよりも凶悪な顔をしている人がいたら逃げるかもしれませんね」
ジャクソンが御岳さんの方をチラっと見た。すると御岳さんはバツが悪そうな顔をしてシュンとしてしまった。この人、自虐する癖に自分が弄られたら落ち込むのかい。
「あ、そうそう。迷子を見つけた時の保護方法だけど、迷子にタッチして迷子の名前を言ってあげて下さい。そうすると迷子は自動的に運営側に転送されます。これで救出完了です」
「タッチしてか……ふうん。なるほどね」
加賀美さんがなにか企んでいる顔をしている。そういえば、この人のスキルって触ることでなにかが起こるスキルだっけ。嫌な予感しかしない。
「それとみな様お気づきの方もいらっしゃると思いますが、昨日と違いお腹空きませんか?」
え? 確かに今まで意識してなかったけれど、なんかお腹空いているような気がする。昨日はなにも食べなくても平気だったのにどうしてだろう。
「ふふふ。昨日はデスゲーム初日ということで空腹の概念は実装してませんでしたが、なんと今日からみんなは普通にお腹が減ります! そして、空腹になれば当然みな様自身も餓死の可能性が出てくるのです。あ、餓死してもライフが減るだけで死亡には至らないので安心を。まあ、それでライフが尽きたら毒針プスーですけどね」
そ、そんな。こんな森の中でなにを食べていいのかわからない状況でそんなこと言われても困る。どうしよう。
「ナるほどナ。つまり、俺たちは迷子の餓死だけじゃナくて、自分の餓死も気にしナきゃいけナいってわけか。幸いここは森の中だ。食い物は見つけられるだろうナ」
「一般人なら栄養失調で死ぬだろうが、ワシらはデスゲームの経験がある。当然サバイバルの知識も豊富じゃ。そう簡単に死にはせんじゃろう」
加賀美さんと御岳さんは逞しいな。というか、杏子以外余裕そうな表情をしている。流石、デスゲーム経験者たち。肝の据わりかたが違う。
「それと今回はみな様、別行動を取ることが多いと思うのでタブレット端末に新しい機能を追加しました。その名もチャットシステム。これで離れたところにいる相手とも連絡を取れますよ。あ、そうそう。チャットのログはちゃんと運営側が確認しています。なので卑猥なことや犯罪めいたことは言わないで下さいね。自殺しますとかメンヘラ発言されても対処に困るから本当にお控えください。自殺ほう助も犯罪ですよ!」
この念の推しようジャクソン……過去にチャット管理のことで嫌なことがあったんだね。
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