第2話 新たなる命題『ビル解体』
「・・・あの人、めちゃコスプレすごくない?」
「有名なレイヤーの人かな?」
「写真撮っとこ。」
「あの六本の腕、マジリアルなんですけど~」
「つか、なんでポチ公の前で座ってるの?ウケる~」
「つか、デカくない?」
とりあえず、吾輩に敵意を向けてくる者はいないようだった。六本腕がそんなに珍しいのか・・・。前の世界ではいろんな魔物や魔族がいたけどな・・・。
吾輩は力がほぼ枯渇していることに気がついた。どうやら、回復するのに時間がかかるらしい。まあ、勇者に魂魄まで破壊されたのだ。それも仕方ないだろう。
うーむ、とりあえず、この辺りをサクサク破壊してみるのも一興だが、それよりも、吾輩にはっきりした自我が目覚めていることにまずは新鮮な感動を覚えた。
また、力が弱まっていることもあり、破壊本能がそこまで湧いてこなかった。
それより、この異世界に興味・好奇心が湧いてきた。どうやら、魔族の存在は感じられない・・・。
すぐ前の広き場所には、鉄の塊がまあまあ速い速度で走っていく。それも何個も何個も。その中にはやはり人間が乗っていた。
ふーむ、中に乗れる馬車のゴーレムのようなものか・・・。しかし、やはり、魔法力は一切感知できなかった。
そして、その鉄の塊が止まりだして、広場には何も無くなった。
だがその周りには、驚くべきほどの数の人間が立っていた。いったいこの広場で何やら儀式でも始めるのか?
「あ、信号変わったよ。行こ行こ。」
我輩をじろじろ見ていた若い女たちが、その広き場所の向こうの赤から青い光に変わった機械を見て、歩きだした。
な・・・なんじゃこりゃ!?おいおい、無数に湧いてきた人間どもが一斉にその広場に向かって歩き出したのだ!
かつていた世界で戦争していた時の人類の軍隊のように、ここにいる人間の数、多くないか?
は!! ここは戦場だったのか?
おい、それにヤツら、全く触れ合わないし、攻撃もしない、守りもしない・・・ただただ通り過ぎていく・・・。
吾輩はいったい何を見せられているのだーーー!?
しかも・・・。静かだった。誰も叫んだりしない。
戦争なら、叫び声を上げるものだ。いや、何か話していたり、ざわついてはいるが、決して、前の人間と目を合わそうともしない・・・。
これは、戦争ではないのか・・・。この数、この大量の人間が集まって、そんなことがあるのか・・・。
一言で言えば、パニック!ここは、渋谷という場所らしい。
無限の時間がすぎるかのように思えたその瞬間、さっきまで、その広場に行き交っていた人間がまた一切その場所に入らなくなった。
そして、また鉄の塊が、何個も何個も通り過ぎる・・・。
なんという恐ろしい・・・。人類は、とてつもなく発展したということか・・・。
なにかの軍事訓練だったのかもしれないな。
とりあえず、人間のいないところにいったん移動しよう・・・。吾輩は破壊神であるが、善悪はない。
決して人類の敵というわけではなく、ただ襲ってくる火の粉を払っていただけだったのだ。
広場にまた人が群がりだしたのと同時に、吾輩もその数千人はいるであろう人たちの群れの中を歩き出した。
「お前は吾輩を 滅ぼすために やってきたのか?」
「お前は吾輩を 滅ぼすために やってきたのか?」
通り過ぎる人間どもに声をかけるが、みな吾輩がまるで見えていないかのように無視して通り過ぎていく。
しかも、驚異的なことに、こちらを見てもいないのに、見事にかわして吾輩に触れることなく、この数千人が思い思いの方向にバラバラに進んでいくのだ。
な・・・なんだこいつら?武芸の達人なのか?
誰とも吾輩は戦闘になることもなく広場を渡りきり、そのまま少し歩いてから、中央のセンター街という混雑した場所を避け、
人気のない路地に入ったところで、六本の腕をしまい、二本腕の第1形態へ変身した。
吾輩の姿には第3形態まである。さっきの姿は第2形態、第3形態は、あれにさらにしっぽと角が生え、全身は逆に少し小柄になる。
だがそれはエネルギーが凝縮されているからである。
今の第1形態は人と同じくらいか、ちょっと高いほうだろうな。人間の姿とほぼ変わりがない。
ちなみにさっきの第2形態は、人の2倍位はあった。
それもあって、誰も近寄ってこなかったのかもしれぬな・・・。
すると、目の前の何やら、布のようなもので覆われた場所の中から、どーん、どーんと振動が聞こえてきた。
その布には、人が黄色い兜をつけ、「ご迷惑をおかけしております」という意味の言葉が添えられていた。
中で、なにかを破壊しているようだった。
「くう・・・吾輩の破壊本能を刺激してくれるではないか!?」
吾輩は我慢できずにその布についていたドアを開けた。何やら鍵のようなものがかけられていたが、吾輩の力の前にはそんなもの無意味である。
ガチャ!!
ドアを開けて中に入ると、何やら高い建物が廃墟のようになっており、それを壊そうとしているようだった。
しかし、魔法師の存在は感じられない。どうするんだ?いったい。
最初に、何やら変な丸くて黄色い兜をかぶった若い人間が近づいてきた。
「ダメだよ・・・危険だから、一般人は入ってきちゃ・・・ここ関係者以外立ち入り禁止だよ?」
「お前は吾輩を 滅ぼすために やってきたのか?」
「いや、何言ってるの? 危ないから、君に注意しに来たんだよ。ほらほら、出ていきな。瓦礫が飛んできたり危ないから。」
「何?我輩を、逆に心配しているのか?」
「んんー。まあそうだね。あんたの安全を確保しなきゃ、オレが上司に怒られるからな。」
「な・・・!? 破壊神である吾輩を逆に守ろうというのか・・・。うぬぅ・・・人類はどうなってしまったのだ?」
するとそこへ、やはり同じ丸い黄色い兜をかぶった年齢はそこそこいってるであろう威厳のある人間が近づいてきた。
「何やってるの?平野くん!部外者を入れちゃダメじゃないか?」
「あ、音古野(おとこの)監督!すみません、この人が急に入ってきちゃって・・・。」
「えーと?君は?」
「吾輩の名は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイス。名前しか思い出せない・・・。自分が善なのか悪なのかそれすらもわからない。」
「へえ。そうなんだー(棒読み)じゃ、シバさん? 危ないから、出ていってくれる?」
「あれは何をしているのだ?」
吾輩は目の前にある、大きな鉄球をつけた鉄の塊が、その前の建物にその鉄球をぶつけているのを見て、そう問いかけた。
「ん?ああ、あれはビルを解体しているんだよ。壊してるってことさ。」
「吾輩は最強の破壊神だぞ、あんなもの瞬間で破壊できるぞ。」
「へええ・・・じゃ、やってみてよ。そんなことができたなら、俺たちの商売は楽なんだがな。はっはっは。」
「じゃ、いいんだな。よし。任せろ。」
と、吾輩は、その高い建物に近づいていく。
「ちょ・・・ちょっと!君!真に受けないでよ。危ない。おおおーーーい!ちょっと工事一旦中止!やめて!」
音古野監督は、そう建設機械のオペレーターに無線機で指示を出した。
鉄球の動きが止まった。
その横をスタスタと歩いて建物の前に立つ破壊神シヴァルツ。
吾輩は、破壊エネルギーを全身から発し、破壊パワーを砂系統の魔法と合わせた超スキルを繰り出した。
「最強破壊砂塵掌打ぁーーーーーー!!!」
この技はくらった対象物の内部からの破壊を根本としており、その振動により、一瞬にしてその対象物体を砂塵に変えてしまうという大技だ。
目の前の高い建物は、一瞬にして砂塵と化し、その後には砂山ができていた。
「どうだ!恐れ入ったか?吾輩の力を見たか?恐れおののくが良い、人間ども!」
吾輩がそう言って、振り返ると、あっけにとられている、人間どもが数十名、ぽかんと口を開いていた。
が、その直後に、さっきの音古野監督と呼ばれていたおっさんが、吾輩に近づいてきて、吾輩の手をとり、こう言った。
「いや、あんた!すげえな。武術の達人? いや、そんなもんじゃねえな。初めてみたよ。ありがとう!一気に仕事がはかどったわ!!」
「な・・・吾輩にとってはこれくらいたいしたことではないわ。」
「いやー、あんたには感謝しかないな。工期がこれで間に合うわ。実際やばかったんだよな。あ、これ、あんたの給料だ、三十万ある。
ま、本当はもっとあげてもいいくらいの仕事をしてくれたんだけど、俺の権限ではそこまで出せなくてな、すまんな。」
と、何やら、紙の束を吾輩の手に握らせてくる。なんじゃ、これ。給料というのは貨幣ではないのか・・・。この世界は変わってるのぉ。
「俺は大企業建設の現場監督をやってる音古野・玄馬(おとこの・げんば)って者だ。あ、また、あんたに仕事頼みたいかもしれないときに、連絡先、聞いておいていい?」
「連絡先?吾輩はそんなもの持っていない。吾輩を呼びたい時は、こう叫べばいい。最強破壊神シヴァルツ・シヴァイス様!とな・・・。」
「お・・・おぅ・・・」
なんだか哀れなものを見るような目で我輩を見る、音古野という男と別れ、吾輩はその場を去ったのだ。
破壊エネルギーを発散したことにより、少し満足したからだ。
だが、破壊の限りを尽くしてきた吾輩が、あんなに破壊しまくったのに、なんだか人間に感謝されるとはな・・・。不思議なこともあるものだな・・・。
しかし、その後、吾輩は異変に気づく・・・吾輩の魔力が回復していない。
しかも、なんだこの飢え・・・破壊の飢えではない。なにか、エネルギー不足なのだ・・・。初めて味わう・・・食欲の飢えであった・・・。
く・・・破壊エネルギーは吾輩の生命エネルギーから発動される・・・。つまり、今、吾輩は、死にそうなのだ・・・。
そうか・・・前の世界にあった、魔力のもと、魔素がこの世界の大気には含まれていないのだ・・・。
さっきの超スキルのおかげで、吾輩は力を使い果たしたのか・・・たしかにその前から弱っていたのせいでもあったからか・・・。
そして、吾輩は、その場に行き倒れたのだった・・・。
~続く~
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