第34話 諦めきれず(3)

ビールなんかじゃ


普段は全然酔わないが。


ゆうこは真太郎と一緒に食事をしているというだけで、気持ち的に酔ってきた。




「今度の週末はゼミのみんなで箱根に旅行に行くんです。」


「へえ。 いいですねー。 なんか、懐かしい。 学生時代を思い出します。」


「もう・・卒業もすぐですからねー。」



彼が


大学を卒業しても


別に


何も変わることはないって




そう信じたいけど。




ゆうこはやはり気になってしまった。




「あの。 南さんとは・・」


「え?」


「どうして、おつきあいをするようになったんですか、」



こんな話をきいて


どうしようというのか。



聞きたくないくせに。


だけど


すごく


気になって。



突然、南の話をされて、真太郎はあからさまに動揺し、



「えっ・・。」



ハンカチで口元を拭った。



「南さんから聞いて。 二人がおつきあいされてること、」



「・・はあ。 ど、どうしてっていうか。」



いつも


年下とは思えぬほど冷静な彼とは別人のように、赤くなってうつむいている。



「ぼくが高校2年生でむこうは21くらいの時だったと思いますけど。 バイト先で知り合って。 まあ。 ほとんど、ひとめぼれですけど、」



ひとめぼれ・・。



あのエネルギーが体中から発しているような


彼女は


女の自分から見ても


本当に魅力的で。


美人だけど、さっぱりしてて


話がおもしろくて。


とにかく


明るくて。


引っ込み思案な自分からすると


うらやましいほどの女性・・。



「・・ステキな、人ですよね。」


ゆうこは思わず頷いた。



「でも。 その頃・・彼女つきあっている人がいて。」



「え?」



「不倫だったんですけど。 そんな妻子ある人と恋なんかして。 なんの未来があるんだって・・ホント、腹が立って。 向こうから見たらぼくなんか、子供にしか見えなかったんでしょうけど。 その彼のところに行く彼女を見送るのはつらかったですけど。」



真太郎は思い出したように


ふとつぶやくように言う。




「でもね。 ぼくが大学に入って、ホクトに修行みたいな形で入社して。 その後、彼女のお母さんが亡くなったんで、弟を養わないとなんなかったから。 父がウチに来いって誘って。 また同じところで仕事をするようになったんです。 彼女はね、ぼくが、というより。 父がすごく気に入っていて。 キャバクラでスカウトしてきたって聞いた時は、ほんっと驚きましたもん。あの人がキャバクラに行ったってこと自体、スゴいなって思ったけど。」


と笑う。


「その彼氏と別れて・・真太郎さんと?」



「すぐ、じゃないですけど。 何とか大人の男として見てもらいたくて。 ふりむいて欲しくて。 別に何を頑張ったってわけじゃないですけど。 ホクトに入ってから少しずつ気持ちが伝わっていって。 弟が大学受験控えていたから・・勉強を見てやったり、いい予備校を紹介してあげたり。 彼女の力になれることで、自分ができる精一杯のことをしてあげたいって思っていました。」



「真尋さんが。 真太郎さんは女性とつきあったことなんかないって・・言ってましたけど、」


ゆうこがクスっと笑いながら言うと、



「・・余計なことを。 まあ、当たってはいるけど、」


真太郎は恥ずかしそうにそう言った。



「そんなにステキなのに。 信じられません、」



「いや。 まあ、仲のいい女の子はいましたよ。 でも、ぼくはずうっと自分のことしか考えてきませんでしたから。 自分がどうやったら立派に父の跡を継げるんだろうって。 そればっかり。 彼女のこととかはもう二の次でしたし。 そんなぼくじゃあ、女の子だって嫌だったんじゃないでしょうか。」



そんなこと。


絶対に


ないのに。



ゆうこは胸がきゅんと音をたてた。



「ホント。 自分のことばっかりで。 だけど彼女と出会ってから、あー、人を好きになるってその人のためになりたいってことなんだってことがわかりましたから、」



端正な顔をほころばせた。



あたしだって


真太郎さんのために


なりたいっていつも思ってる。

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