砂場
嫌いな教科は図工です。苦手な教科は多々あれど、図工というものは、それ以前に、憎らしきものなのです。
幼少の頃、私は友人と公園で砂遊びをしていました。二人で砂でできた山を作った後、友人は言いました。
「トンネルを作ろう。水を使ったらできるよ」
私は水を汲みに行こうとしました。
しかし、目の前に母が立ち塞がりました。
「服が汚れるから水は使ってはいけません」
「トンネルを作るのに、水がいるの」
「使ってはいけません。水なしで作れないのなら、作らなかったら良いじゃない」
そして私は母にこっぴどく叱られ、その友人と遊ぶことが禁じられました。
それから時が経ち、小学校に入学しました。
小学一年生の図工には、「砂場でいろいろなものを作る」という回がありました。教科書にも工程を説明した写真が載っています。その授業の時の話です。
最初は皆、砂遊びに盛り上がっていました。私も楽しんで授業を受けていました。
しかし、中盤あたりになって、担任の先生が言いました。
「今から水を流して川を作るよ」
皆は大喜びでした。けれども私は違いました。母に叱られた日のことを思い出したからです。
「水は使ったらいけない」
私は伝えました。
「大丈夫よ。怖くないからね」
先生は答えました。先生は先生なのに、どうしてわかってくれないの? と、当時の私は思いました。
「水は使ったらいけない」
「良いのよ」
「使ったらいけない」
次第に怒りを覚えました。感情が高ぶって、泣き喚きました。「母親にいけないと言われたから」という理由を説明するという発想は、何故か当時の私には全くありませんでした。だから、「使ったらいけない」の一点張りでした。
先生は、困ったように私を見ていました。クラスの全員も、不思議そうに私を見ていました。
誰一人として、私の気持ちを理解してくれる人がいなかったことに、腹が立ちました。その場にいた全員が、敵に見えました。
その日から、図工の授業が大嫌いになりました。
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