みかんもおんなじ

「よし、今日からどんどん試作するぞ」


 水族館から帰った次の日。僕にはたくさんの余韻がある。みかんと過ごした水族館、そして砂浜での時間の。


 だけど、そろそろ、お子様ランチをきちんと納得のいくものにしていかなければならない。


 エプロンを着ているだけでも、いつもよりも気合が入っているように感じられる後輩たちを僕は見た。


それぞれ、分担を色々決めていく。今日はリハーサルっぽく、想定した制限時間内にお子様ランチの全メニューを実際に作ってみるのだ。




 そうしてできたお子様ランチ。それは、いつも通りものものだった。


「いつも通り、おいしそうです!」


「だねだね、あむあむばくばく食べたいね!」


浜辺さんと萌門さんの言う通り。おいしそう。しかし進化していない。少し改善したのは、プリンとふりかけくらいだ。


 もしや伸び切ってしまったのか。つまり、お子様ランチをこれ以上進化させられないところまで来たのか。それはないと思う。僕はまだまだなのは確かだ。




 水族館に行く前と結局同じだ。なんとなく感じる焦りと進歩しないもどかしさが消えない。




 そうして今日の活動が終わる。僕は、調理室の鍵を返しに事務室へと向かう。


「あ、田植君だ。お疲れ様料理部」


 運動着を着たままの柚川と事務室の入り口で会った。


「ああ……おつかれ、ダンス部も」


「みかんと水族館行ったんだって?」


「ああ……行ってきたよ」


「よかったね。楽しかった? みかんは楽しかったって言ってたよ」


「僕も……楽しかった」


「わあすごい。デート大成功だね。でもその割にはなんか暗いけど。ここら辺が薄暗いからじゃないよね……」


 柚川がうーんと、少しかがんで下から僕をのぞいてくる。柚川と話すようになってまだ少しなのに、僕の様子に関して鋭い指摘をしてきた。


「まあ……少し、お子様ランチが、行き詰まってるというか、納得がいかない感じで……」


「ああ、そういうことか。だったらみかんとおんなじだ」


「みかんと……同じ?」


「まあ……私とも同じとも言えるかもしれないけど、私たち、あんまり最近ダンスうまくいってなくて」


「そうなのか……?」


 羽有がめちゃめちゃ揃っててあと胸も揺れてたって言ってたけど……まあ素人が見て揃ってるように見えても色々あるんだろう。


「うん。だからなんというか状況が似てるし……お互いがんばろ」


「……そうだな」


 僕は水族館の帰りの電車の中のことを思い出した。みかんはあんまり僕と話さずに、スマホを横向きにしていじっていた。


 なんか女子の間で流行ってるゲームでもあるのかと思っていたけど。


 きっとダンスの動画を再生してはストップしてを繰り返していたんだろう。

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