過去⑤

 りんたが、サッカーボールを買えるとうれしそうに話していたつぎの日。


 私は、ダンスでしっぱいしたとき……ううん、ちがう、それよりもずっとあせっていた。


 みんなに、ダンスシューズをもってないこと、どうやっていいわけしよう。


 今かんがえているいいわけは、とくちゅうのダンスシューズだから、とどくのにじかんがかかる、というもの。



 でもこれだと、いつまでも、ごまかすことはできない。


 だけどこれいがい、思いつかなかったので、私はいいわけとして、これをさいようすることにした。



 

 私は、いきをととのえて、がっこうに入った。


 そしてじぶんのげたばこをあけた。


 え?


 私はおどろいた。


 だって、そこに、ピンクのあたらしいダンスシューズが入っていたから。あと手がみが一まい。


 手がみをよんでみた。




 みかんへ


 ダンスをがんばっているのでおくります。


 ダンスのかみより




 そっか。ダンスのかみさまがくれたのか……。


 ……そんなわけなかった。


 ダンスのかみさまは、きたない字だった。だけどやさしい字だった。


 そして、りんたの字だった。




 私は、さいきんのりんたとのかいわを色いろ思い出した。そして、私が、クラスのわの中にいるとき、ときどきりんたと目が合うことを思い出した。


 私は、ダンスシューズをもらって、みんなへのいいわけがひつようなくなるなんておもわなかった。



 私は、きょうしつへといそいだ。


 きょうしつには、ここなちゃんとダンスクラブのみんながいた。


 私がいきおいよく入ったから、みんなこっちをむいた。



「あのですわ……私、ずっとうそをついていましたわ」


 りんたからの手がみをにぎり、私はそう言った。


 私はみんなに、しょうじきにはなした。おじょうさまでないことや、ダンスきょうしつにかよえないこと、「し」が言えないことも。


 うそつきの私なんか、みんなあっというまにきらいになるとおもった。


 だけど、みんなゆるしてくれた。




「でも、みかん、おじょうさまにあってるから、しゃべり方はそのままでいいんじゃない?」


 ここなちゃんは私に言った。


「うん。わたしたち、もう、みかんのおじょうさまバージョンになじんじゃったしー」


「え? そうなのですわ?」



 そうして、私はみんなのやさしさにすくわれた。


 ダンスシューズは、私のたからものになった。


 そして、りんたを見ると、ダンスのほんばんまえより、むねがどきどきしてとまらなくて、あとなんかあたまがぽわ〜っとするようになった。まるで、ダンスのあとのつかれたときに、あますぎるチョコレートをたべたときのように。



 私はりんたへのおれいをかんがえていた。


 今は十二月のはじめ。


 バレンタインとかではないけれど。


 わたしは、りんたにチョコレートをつくることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る