小学生の洋服

「うーん……」


 それからみんなで協力してできたプリンは、伝説のかがやくプリンとは少し違った。


 味は悪くはない。しかし、少し甘さが足りないし、かたさも少し固い。色もちょっとな……。


 こういうプリンが好きな人もいるかもしれないが、お子様ランチには合わないだろう。


 お子様ランチは、子供が好きな味で、かつ見た目も良いことが大事。


「でも美味しいですよ田植先輩!」


「比較的よくできている方だと思います」


 浜辺さんと中見さんの言う通り、失敗したわけではないんだろうけど……。


 まだお子様ランチのデザートに位置付けるには納得がいかない。


 木屋戸さんは一口一口丁寧に食べていて味を確かめているようだ。


「木屋戸さんは……どう思う?」


 聞いてみると、


「もう少し甘さが欲しいかも」


 と答えた……って、


「木屋戸さんどうして制服でない……その格好」


 木屋戸さんは制服でない何か……というか、可愛いあざらしが描いてあるトレーナーのようなものを着ていた。


「あ、これはちいさいこになりきるため」


 ……つまり小さい子になりきって味見をするために、小さい子っぽい格好をしているということか。


「みんなの分……どうぞ」


 大きな袋を大きな調理室の机に置いた木屋戸さん。この中に小さい子向けの服がいっぱい入っているのか……。


「うわー可愛い〜」


 萌門さんが袋から次々に服を取り出して、そのうち一つを制服を脱いで着はじめた……。


 ってなんで服脱ぐんだよ僕いるんだけど。


 僕は隣の第二調理室へと急ぐ。


 さっきまで小学生とのパラダイスだったところが避難場所になってしまった。


 僕はさっきちょっと見てしまった萌門さんの桃色の下着を振り払うために机に頭をこすりつけていた。


「ふー」


 少し落ち着いてきて深呼吸してあたりを見回せば、浜辺さんがいた。


 下着は見えていない。よかった。しかし……。


 上からトレーナーを着ようとしているのだと思うが、つっかえてしまっている。


 まあ……当然かな。


 そもそも小さいサイズの上に、浜辺さんは結構……胸が大きいし。


「大丈夫か……?」


「田植先輩! あ、ちょっと手伝ってください!」


「手伝う……?」


「あ、ちょっと引っ張ってもらえればと思います!」


「はあ……」


 僕は引っ張ってあげようとして浜辺さんに近づくが……。


 むずい。


 何かむずいって引っ張ろうとした時に思わずちょっとずれてしまって胸に手が当たってしまう危険性が……。


 これはお子様ランチの盛り付け以上に精密さが要求されるぞ。


 僕はトレーナーに手を伸ばし、慎重に手を動かす。


 ずる、ずるずる。


「ゆっくりすぎて、くす、くすぐったいです……」


 浜辺さんが体を動かしはじめた。


 まずい。おりゃあ!


 しゅぼん!


 思い切って一気に行けば、無事浜辺さんに着せてあげることができた。


 僕も結局さわらずに済んだ。よかった。


 まあ目の前にきつきつの服を着ているせいで、胸とその他のラインがすごい強調されてしまっている後輩がいるんだけど。


 お子様ランチを食べている大人がいるの目立つのと同様に、小学生らしい服を着て、かえって小学生らしくないことが強調されてしまっているな。

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