二度目の失敗


 日が明けて、僕はお子様ランチが大盛りになったのを喜ぶ男の子のように上機嫌で登校した。


 今日の一時間目は家庭科だ。そして今回は調理実習の計画を練る時間だ。


 我が校の調理実習は、自由にメニューを決めることができる。

 何人かの調理実習にやる気がある人達が作りたいものを発表し、それを一緒に作りたいと思った人たちが集まり、班を結成する。


 そうして出来上がった班で調理実習をするのだ。


 僕は正直、お子様ランチを作りたいというのが恥ずかしいのでどこかの班に入れてもらうか、無難なメニューを提案するつもりだった。


 しかし、恥ずかしがることはないと僕は気づくことができた。


 ゆえに、僕はお子様ランチを作る計画を提案するつもりで、入念に準備してきた。



 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴った時には、教室に全員揃っていた。遅刻をよくする男子生徒が全員着席している理由は……。


「じゃあ、授業を始めます。よろしくお願いします。全員出席ですね。みんな家庭科が好きなのかな。そうだったら嬉しい!」


 教室に入ってきた家庭科の小町真子こまちまこ先生が、美人で、しかもものすごく胸が大きいからだ。


 本当にみんな家庭科が好きだったら、高二で料理部が僕だけのはずもないと思うんだ。


 あ、一応、高校から渚ヶ丘学園に入った僕が、高一の自己紹介でお子様ランチ大好き宣言と料理部に入る宣言をしてしまったせいでみんな料理部を避けたという説がある。


 しかし、中等部から渚ヶ丘学園にいた人も、もともと料理部に誰も入ってなかったのだから、この説は有力ではない。



「はい、では今日は調理実習の班わけをしたいと思います。まず、メニューを提案してくれる人ー」


 小町先生が見回すと、何人かの人が手を挙げた。僕もいざとなると、一瞬ためらったが、きちんと手を挙げた。小町先生が黒板の端に名前を書いていく。


「じゃあ……出席番号順にいきましょう、まず……相田さんから……」


「あ、はい。私はチーズケーキを作りたいなあって思ったので、誰か一緒に作ってくれる人がいたら嬉しいなあって思います」


「一緒にやろー」


「私もチーズケーキ作ろっかなー」


 チーズケーキ。萌門さんに言わせれば意外度ゼロだろう。つまり、ここでお子様ランチを提案すればみんながその意外性に惹かれるに違いない。


 僕は手を挙げた人の名前が並べて書かれている黒板の端をチェックする。


 奇跡だ。出席番号二十番の僕まで間に誰もいない。


「……じゃあ次は田植くん」


「……はい……」


 後々考えれば謎だが、僕はこの瞬間まで僕は本当に、お子様ランチを一緒に作ってくれる人が現れると信じていた。




 しかし、終わってみれば、


「あいつってやっぱりロリコンだからお子様ランチ作ってんじゃねえの?」


「たぶんそうだぜ。女子小学生の話をあんなに楽しそうにしてたんだぜ……」


 僕は料理部の紹介の時とは正反対の失敗をしてしまったのだ。


 つまり話し過ぎた。ある意味誰も聞いていなかったと思われる僕の話に反応する人が出始めたのは、万実音ちゃんがお子様ランチのお礼に僕にあだ名をつけてくれたエピソード辺りからだったと思う。




 家庭科は二時間続きだ。一時間目と二時間目の間の休み時間、僕は机で寝ていた。何も聞こえません。お子様ランチ大好きロリコンとか言う言葉は僕には意味がわかりません。


 と、その時、


「田植」


 僕を呼ぶ声が聞こえてしまった。


 起きて見上げれば、羽有がいた。


「僕は田植がロリコンじゃなくて、お子様ランチを本当に真面目に作ろうとしているの、わかってるからな」


 おおおお! 僕はその言葉に、お子様ランチの理解者がいたことに感動した。


 そして、これも後から考えれば謎だが、僕は一緒に調理実習をやろうと羽有を強く誘ってしまったのだ。


 羽有はぬいぐるみ大好きロリコンと呼ばれているというのに。

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