13(解決編)

 思わず声をあげそうになるのをこらえる。向かいの部屋から出てきたカノン君やらと違い、僕はまだ存在を気取られていないようだから、ここで声を出して自分の存在を主張するのは得策ではない。

 それはともかく、高山さんの一言は、この事件の印象を本当にガラリと変えてしまうものだった。

 結果だけ見れば、それは柳沼=犯人、山崎先生=被害者の図式を容易に、かつ印象的に植えつけるものとなっている。だが、もし結果が柳沼=被害者だとしたら?

「もし今回の事件、被害にあっていたのが柳沼先生だったなら、柳沼先生の単なる管理不行届きになっていたはずよ」

 高山さんの言うとおりだ。確かにそもそもの発端は、柳沼が事故の可能性を否定したところにある。柳沼がそれをそもそも否定できなければ、これは単なる事故に終わったのではないだろうか。ましてや柳沼はあの性格だ。積極的に彼をかばおうとした人はそう多くは無いだろう。

「だとすれば、あのライターの意味も分かってくる。あれは多分、留め具か何かだったんじゃないかしら。例えば水が入ったビーカーを糸か何かで吊り上げて、その先端をライターで固定して、ドアで挟み、下にはナトリウムを置いておく。そうすればドアを開くと同時にナトリウムに水がかかり、爆発が起こることになるわ。だいぶ運に頼る方法だけど、そういう意味ではあれほどの爆発は、逆に想定外だったのかしら? さておき、被害者が柳沼先生なら、彼の側に彼の持ち物が落ちているのは不思議でもなんでもないから、ライターにも意味が出てくる。もっとも、実際には不幸にも、先にそのライターを山崎先生が手にしてしまったわけだけれど」

 ここに来て、あのライターの意味が分かってくるわけなのか。狙われていたのは柳沼ではない、と考えている限りは決してたどり着けない答。それが前提を変えるだけでこんなにあっさりたどりつけてしまうなんて。

「ま、待て、そうすると一つ謎が残るぞ。彼はいつその仕掛けをセットしたというんだ。六時以降部屋を出た人物がいないのは確認済みだろう」

 秋捨警部が慌てて尋ねる。

「さっき言ったでしょう、秋捨警部、彼にはアリバイなんてありませんよ。そもそもこれが計画通り実行されれば、これは事故として処理されていたはずなんです、アリバイを用意する必要もないんです」

 そこで一息つくと、高山さんは寂しげに呟いた。

「そう、アリバイなんてなかった、あったのは些細な勘違いと、いくつかの不幸だったんですよ」

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