第42話

「すまぬ、寧四郎。

 これはお前にしか任せられんのだ」


「なんの、兄上。

 大命を授かるは武人の本懐。

 兄上が謝られるような事ではございません」


 徳川慶恕は次弟の松平慶比に心から詫びていた。

 本来なら自分が行くべきなのだが、御三家筆頭の尾張徳川家が、両属になるわけにはいかなかった。

 最も自分に近い考えの長弟・松平武成には、自分に万が一の事があった場合に、徳川宗家を支えてもらわなければいけない。

 だから、松平慶比に最も危険な役目を負わせることになった。


 だが、何の準備もせずに、弟を清国と露国の国境線に派遣する慶恕ではない。

 自分に出来る限りの準備を整えていた。

 松平慶比を倭軍八旗の旗王と認めさせる条件で、清国派遣軍を林則徐に従軍させたが、全ては徳川家のためだった。

 惰弱な旗本御家人を処分するために、実戦で性根を確かめ、必要とあれば戦死させる非情な決断をしていた。


 徳川慶恕は、倍増させた幕府番方の半分を清国に送るつもりだった。

 そんな事は不可能だと考える人もいるだろうが、武家には家を潰さないための予備の人間、部屋住みがいるのだ。

 隠居した前当主がいる場合もあれば、跡を継いでいない世子がいる場合もある。

 家を継げずに武士を捨てた叔父や甥もいる。

 そんな者を見習出仕させる場合は、役目を継がせる確約の代わりに、無給もしくはわずかな扶持を与えるだけで済むのだ。


 まずはどの部隊が一番実戦で役に立つか確かめるために、全戦闘部隊を一個ずつ清国に送った。

 次に最も大切な書院番と小姓番を清国に送った。


「清国派遣幕府軍」

書院番:一〇個×六四〇兵=六四〇〇兵

小姓番:一〇個×六四〇兵=六四〇〇兵

大番 :一〇個×五四九兵=五四九〇兵

新番 : 五個×二〇六兵=二〇六〇兵

小十人:一〇個×一〇九兵=一〇九〇兵

徒歩組:二〇個×八四兵=八四〇兵

持組 :一〇個×一九一兵=一九一〇兵

先手組:三五個×一九一兵=六六五〇兵

百人組: 四個×三五七兵=一四二八兵


「八旗制度」

ニル  :成人男子三〇〇兵:ニルイ・ジャンギン(佐領)

ジャラン:成人男子一五〇〇兵(五ニル):ジャラニ・ジャンギン(参領)

グサ  :成人男子七五〇〇兵(五ジャラン):グサイ・エジェン(都統)

 グサイ・エジェン(都統)の補佐として二人の副司令官メイレン・ジャンギン(副都統)が配置されている。

 グサの都統の上位に、清朝の皇族、愛新覚羅氏の旗王が置かれ、グサイ・ベイレ省略してベイレ(貝勒)がいる。


「清国末期の鑲黄旗」

駐屯地:今の内蒙古シリンゴル盟の西南部

兵力 :八四個佐領、二個半分佐領、約二万六〇〇〇兵

総人口:約一三万人

旗王 :大清帝国皇帝

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