第49話:謎の人物
目の保養が終わったところで、俺は丸刈りを起こす。その方法は……まあ、ぶん殴るだけなんだけど。
「げふあっ! ……こ、ここはどこだ! てめえらは誰だ!」
「さっきお前をぶっ飛ばした者だが、覚えてないか?」
「あぁん? 知らねえなあ! それよりも俺様にこんなことをしたら兄貴たちが……って、あ、兄貴いいいいぃぃっ!?」
……あ、そっか。こいつは一番最初に不意打ちでぶっ飛ばしたから分からないのか。
「て、てててて、てめえら、兄貴たちに何をしやがった!」
「お前と同じようにぶっ飛ばしただけだが? というか、お前らがドラゴンをここに呼び寄せた犯人なんだろう?」
「――! ……そ、そんなこと、ししし知らねえなあ! はは、ははははー!」
「「「……分かりやすい」」」
こんなにも誤魔化すのが下手な奴が、どうして悪人をやれているのか。もしかして、こいつからは情報が得られない可能性もあるか?
「……とにかく、お前が知っていることを洗いざらい吐いてもらう」
「だ、誰がてめえなんかに喋るかよ!」
「……何か知っているんだな?」
「はっ! ……ししし知らねえって言ってるだろうが! はは、ははははー!」
「「「いや、もうそのやり取りはいいから」」」
マジで面倒臭いなー。でもまあ、何か知ってるみたいだし、聞けるだけ聞いてみるか。
「それで、ドラゴンが暮らしていた森に毒を撒いたのはお前たちか?」
「毒? 何のことだ?」
……本当に知らないのか? まあ、後で他の奴にも聞くが、今は丸刈りからだ。
「次の質問だ。ドラゴンでゼルジュラーダを滅ぼすとか言っていたが、それはお前たちの意思か?」
「……な、なんのことだかな」
「それとも、お前たちに依頼を出した黒幕がいるのか?」
「ぐぬ……」
「無言は肯定とみなすが、それでいいんだな?」
「……」
「そうか、分かった。それじゃあ、お前はまた眠っていてくれ」
「はあ? てめえ、何を言って――ぶふっ!」
顔面に一撃を加えると、鼻血を垂れ流しながら丸刈りは気絶した。
さて、レベル的にはデブが一番高かったからこいつらのリーダーだと思うが、順番に長髪を起こしてみるか。
仮にデブが魔法使いだと、縛り上げていても魔法を使える可能性だってあるわけだしな。
「おい、起きろ長髪」
「げぼっ! ……はっ! て、てててて、てめえはさっきの!?」
「丸刈りと違って説明する手間が省けてくれて助かったよ」
長髪は最後に倒した奴だからな、俺がこいつらをぶっ飛ばした姿をばっちり見ていたはずだ。
「単刀直入に聞くが、お前たちの依頼人は誰だ?」
「……い、依頼人、だと?」
「あぁ。ドラゴンにゼルジュラーダを襲わせるなんてこと、貴様ら程度の冒険者に実行できるとは思えん。破格の報酬を用意されて受けたんじゃないのか?」
「……」
「お前もか。無言は肯定とみなすが、それでいいんだな」
「……い、言えない」
「言えないだと?」
「あ、あぁ。俺たちの口からは何も言えないんだ」
……嘘をついているようには見えないが、言えないとはどういうことだ?
口止めをされているということなら、自分の命の危険を賭しても言わないのはおかしい。物理的に言えなくされているのか? ということなら、何か呪いの類だろうか。
「……なあ、二人とも。魔法で特定の情報を流した場合に発動するものはあるか?」
「――!」
「私は聞いたことがないけど、レイチェルは?」
「私もありません」
ふーむ、長髪の反応を見るに、そういう類のものはありそうだが二人は知らないか。
「それじゃあ、魔法ではなく呪いならどうだ?」
「呪いですって? それこそ私は門外漢だわ」
「私も知りません」
「そうか。それじゃあ、もう一つの質問だ。ドラゴンの森に毒を撒いたのはお前たちか?」
「……毒?」
この質問には答えられるのか。ということは特定の人物の情報、今回の場合は依頼人の情報を流すことに何かしらのペナルティが課せられていると思って間違いないだろう。
そうなるとデブも同じかもしれないが、どうだろうな。
「さて、お前から何か俺たちに言いたいことはあるか?」
「……」
「何もないか。それじゃあ――眠ってくれ」
「え――ぶふっ!」
……最後はこのデブだが、起こす前に二人にも注意を促しておくか。
「リリアーナ、レイチェル。おそらくこのデブがこいつらのリーダーだろう」
「確かに、レベルはデブが一番高いみたいね」
「うん」
「今からデブを起こすが、魔法使いの可能性もあるから注意をしていてくれ」
「「分かった」」
さて、何か有益な情報が得られればいいがな。
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