第34話:仕事の前に
このまま専属契約を──と思ったが、アレッサさんにも準備が必要も言うことで明日もう一度お店へお邪魔することになった。
そうなると次にやるべきことは、冒険者としてのお仕事である。
「動物討伐! 魔獣討伐! ……動物討伐?」
「まあ、そうなるわよね。動物と言っても、農家を荒らす害獣に指定されている動物だけ。まあ、魔獣は有無を言わさずに討伐の対象になるけどね」
それはよかった。
というのも、ゼルジュラーダを歩いていると時折動物とおぼしき生き物を目にすることもあった。
そのどれもが小さかったりかわいかったり、中には大きなものもいたけど、そいつらは荷台を引いたりしていたので仕事に利用されているのだろう。
正直、なんでもかんでも狩っていたら人間が他の生き物から見ると悪者になってしまうからな。
「……でも、外に出たら討伐の前にやることもあるんだけど」
「そうなのか?」
「気づいてないから言うけど、アマカワのことだからね」
「お、俺のこと?」
なんだろうか。
まあ、グランザリウスならではのルールがあるのかもしれないし、ここはリリアーナの指示に従うしかない。
外に出たらということなので、俺たちはそのままゼルジュラーダの外へと足をはこんだ。
※※※※
歩いてきた時も思ったことだが、ゼルジュラーダの周りには何もなく、大草原が広がっている。
この目でこれだけの壮大な光景を見ることができるなんて思ってもいなかった。
「さて、それじゃあアマカワにやってもらいたいことなんだけど」
「う、うん」
何やら真剣な表情でこちらを見ているので、俺は自然と背筋に力が入る。
「……とりあえず、習得できるスキル欄を開いてちょうだい」
「……へ?」
「師匠に見られる前に気づくべきだったわ」
「あの、どういうことでしょうか?」
「あなたのステータス……まあ、主にスキルの方だけど、他人においそれと見せれるものじゃないもの。ということで、隠蔽スキルがないか見てみたいのよ」
「隠蔽スキルって……もしかして、ステータスを偽装できるってことか?」
完全に隠してしまうと何かあると疑われてしまうわけだし、偽装できれば一番なのだがどうだろうか。
「そういうことね。隠蔽スキルはスキル書も比較的安価で手に入るスキルだから、スキルポイントも少なく手に入るんじゃないかって思ったのよ」
「なるほど。ちょっと待ってくださいね……おっ、あったよ! ポイントも1ポイントで習得できるみたいだな」
「そうか。それなら早速習得してくれ」
「分かった。しかし、師匠に見られる前ってことは、本当はギルマスにも見られたくないスキルだったのか?」
ギルドでは信用できる人と言っていた。
まあ、師匠なんだから当然なんだが、その師匠に見られる前というのが一つ気になったところなのだ。
「見られたくなかったというか……まあ、あの人も強い人間を確保したがる節があるからね」
「どういうことだ?」
「今回みたいに、試験を免除しちゃったりするでしょ? あれって本当はいけないことなのよ」
「あー、マリンさんも驚いていたよな」
「あれが他のギルドにバレると、ギルマス会合で文句を言われたり、何かしらの処分もあるって聞いたことがあるわ!」
「えっ! ……でも、なんでそんなことがあるって分かってるのに免除にしたんだろう」
「それが、強い人間を確保したがるって部分になるのよ」
「でも、どうせ冒険者として活動するんだからどこで試験を受けようが冒険者になろうが関係ないんじゃないのか?」
俺がずっとゼルジュラーダにいるとも限らないし、都市を移動すればそこで活動して依頼をこなしていくのだ。
評価という部分でいえば、ゼルジュラーダにいる間にどれだけ貢献できるかが大事な気がするんだけどな。
「ギルドカードには、冒険者がどこで資格を手に入れたかも記されているの。そして、優秀な冒険者に資格を与えた都市のギルマスは評価も高くなるってことなのよ」
「なるほど。試験を受けて、何かの間違いで不合格になり、別の都市で合格した冒険者が大活躍する場合もあるってことか」
「うん。師匠はアマカワがこれから大活躍すると踏んで、間違いが起きないようにと試験を免除したのね」
「しかし、試験の内容って実際何をする予定だったんだ? リリアーナ、分かる?」
戦士職と魔法職で試験内容が違うと言っていた。
仮に何かの間違いが起きて俺が魔法職の試験だったとしたら確実に落ちていただろうし、気になるな。
「どちらの試験もギルドが用意する試験官との一騎打ちだ。しかし、戦士職だと魔法が禁止され、魔法職だと物理攻撃が禁止される。魔法が使えないアマカワにとって、魔法職の試験だった場合は受かる見込みがなかったということだな」
……やっぱり、魔法職だと落ちていたな。そして戦士職の試験だったからと言ってこちらも絶対に受かるとは言い難い。
試験官が強敵だった場合には結局受からなかったかもしれないのだ。
「そうなると、俺としては試験が免除になったことを喜ぶべきかもしれないな」
「魔族を単身で倒したお前がか? 仮に戦士職の試験だったなら、問題なく受かっていたわよ。それよりも、隠蔽スキルはどうだった?」
おっと、話に夢中で習得するのを忘れていた。
俺はリリアーナに苦笑で返し、すぐに隠蔽スキルを習得した。
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